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好きな人が義妹になった  作者: 西織
文化祭の片隅で
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「ただいま戻りました」

「おかえりなさい」


 帰ってきた彩花に挨拶を返す。

 彼女は苦笑しながら、リビングに入ってきた。

 彩花は結局、途中まで四人いっしょに帰ったあと、適当なところで別れて家に戻ってきたらしい。るかが上手く気を利かせてくれたのだそうだ。

 最初の「お邪魔します」から始まり、何とも違和感のある一日だったろう。

 まぁそれだけ彼女がこの家に馴染んできた証拠でもあるので、それ自体は喜ばしいことなんだけど。


「兄さんも、今日はありがとうございました」

「いえいえ。俺も楽しかったですし」


 彩花は軽く頭を下げると、理久の座るソファにぽすん、と腰掛けた。

 先日のホラー映画鑑賞会ほど近くはないものの、彼女が隣に座っている。

 さっきまで少し離れた場所、しかもテーブルを挟んでいただけにその距離にどきりとした。

 艶やかな長い髪に、いつ見ても綺麗な顔立ち、穏やかな微笑み。 


 田んぼに落ちたときに見惚れていた彼女が、こんなにも近くにいる。

 先ほど、後藤とあんな話をしたからだろうか。

 彼女の一挙手一投足に目を奪われそうだった。

 それだけに、彼女の表情に影が落ちていることにも気付いてしまう。


「彩花さん、どうかしました?」

 

 問いかけると、彼女は顔を上げてこちらを見た。

 さらりと長い髪が揺れて、その奥の瞳が理久の姿を映す。

 彼女は困ったように笑いながら、小首を傾げた。


「ちょっと、疲れてしまいまして。勉強会はとても楽しかったんですが、自宅なのに自宅じゃないふりをするのは変な感じでした。それと少し、胸も痛んで」


 彼女は自身の胸に手を置き、暗い感情を吐き出すように言った。

 

「胸が痛むって……、嘘を吐いたから?」

「はい。わたしはあまり、再婚の話を親しくない人に伝えたくありません。その気持ちは変わっていませんが、伝えないことと嘘を吐くことは別物だと感じました」

「それは……、まぁ。俺もちょっと感じた」


 その気持ちは共感できる。

 あえて言わずにおくことと、隠すために嘘を吐くのでは、意味合いが全く異なる。

 そのことに彩花も理久も気付いていなかった。

 後藤を騙すためにわざわざ小細工を弄して、それにあたふたと慌てて取り繕って。


 彼に対する罪悪感は理久でも湧いたのだから、クラスメイトである彩花はさらに強いだろう。 

 やだな、と彩花が感じるのはとても自然なことだ。

 彼女は手をきゅっと握り、静かに続ける。


「少し、迷っているんです。もしかしたらこれから先、同じようなことがあるかもしれません。るかさんと佳奈が仲良くしてくれたら、わたしも嬉しいです。でもきっと、四人で集まるとなれば佳奈はまた後藤くんを呼ぶでしょう。それが当たり前になるのなら、わたしと兄さんの関係も伝えていいんじゃないかって」

「……………………」


 その言葉は、理久に強い衝撃を与えた。

 いや、彩花の言っていることはわかる。

 佳奈とるかはふたりで会えるような関係には、まだなれていない。以前よりは前進しているだろうけど、るかが誘ったところで佳奈はきっと顔を見せない。彩花を通さないと、るかの恋の成就は難しい。


 そして佳奈も、後藤と彩花の関係を諦めていない。

 今回、佳奈から「理久と彩花の関係は心配だ」と告げられ、あらかじめ謝罪までされている。警戒は解かれていない。

 後藤と彩花が恋人同士になってほしい、と佳奈は望んだままだ。


 各々の思惑で動いた結果、今日のように五人で集まることがあるかもしれない。

 もしそうなら、彩花は後藤に嘘を吐き続ける必要が出る。

 それは心苦しい、と彼女は言うのだ。


「後藤くんは、周りに言わないで、と言えばきっと約束を守ってくれます。面白半分で私生活を詮索することもないと思います。だからそのほうが、わたしにとってもいいんじゃないか、とも思うんです。兄さんは、どう思いますか?」

 

 彩花はこちらの顔を覗き込むようにしながら、尋ねてきた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 見ていてしんどいね なんで善人で自分を押し殺して我慢してる理久と彩花がひたすらストレス貯めてて周りは好き勝手して自己満足してるのかなぁ 何も悪い事してねぇのに
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