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好きな人が義妹になった  作者: 西織
文化祭の片隅で
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 そして、その日がやってくる。

 参加者全員の予定が合った、ある日の休日。

 るかの要望どおり、佳奈とるかは休日に会えることになった。

 けれど佳奈は、無条件で会ってくれるわけではない。

 四人で集まることに対して、彼女は様々な条件を付けたのだ。


 それを飲んでくれるのなら、顔を出してもいいです、と佳奈は言う。

 理久たちはそれを承諾せざるを得ない。

 そのひとつが、場所と集まる理由だ。

 ピンポーン、とインターフォンが鳴ったので、理久とるかは慌てて玄関の扉を開けに行く。


「お邪魔します」


 少しだけ緊張した様子で、佳奈が玄関口で声を上げた。

 今日の佳奈は以前見たような制服姿ではなく、私服だ。

 何かロゴの入った長袖のTシャツに、オーバーオールを着ている。手にはトートバッグをぶらさげていた。


 休日だからか、ビーズのようなものが着いたヘアゴムで髪をまとめている。

 制服姿のときにも感じたが、私服だと彼女はより子供っぽく見えた。

 るかもたまにオーバーオールを着ているが、彼女の場合はやけにスマートというか、洒落て見える。

 しかし、佳奈のそれは幼い雰囲気をより強めていた。


 けれど、るかはご満悦の様子で「はぁ、かわいいぃ~……」と理久の隣でデレデレしている。

 理久は笑顔を作りながら「いらっしゃい」と声を掛け、るかは両手を合わせて、「どうぞどうぞ、遠慮しないで上がって」と嬉しそうに伝えた。


「なんでるかさんが言うの」


 佳奈は呆れながら答えるが、以前ほどの緊張感はない。

 るかには多少心を許したのだろうか。


「………………」

 

 なお、理久に対してはまだまだ警戒心があるようで、じっと見てくることがあるのだが。

 それに挫けてはいられない。

 理久の目標は、彼女の誤解を解くことだ。

 さて。

 というわけで、佳奈は小山内家にやってきていた。

 彼女の要望は、こうだ。


「受験生ですから、勉強会っていうことなら時間を作ります。るかさんが本当に成績優秀なら、勉強を教えてほしいですし。そして場所は――、彩花の家がいいです。外で集まるよりもゆっくりできそうなので」


 とのことだった。

 勉強会というのは建前で、実際は後半の『彩花の家に行きたい』というのがきっと本音だ。

 行ってみたい、というよりは、見ておきたい、だろうか。

 理久と彩花が暮らす家がどんなところか、どういうふうに過ごしているのか。

 佳奈としては確認しておきたかっただろうし、今回の話は渡りに船だったろう。

 彩花もこんなことがなければ、なかなか友達を家に呼べなかったかもしれない。


 佳奈の提案は、それ自体は全く問題ない。

 受験生だから勉強しなきゃ、というのは全く以てそのとおりだし、家を見られても理久は何も困らない。

 むしろそれで満足するのなら、どうぞいくらでも見てください、という感じだ。

 そう。

 佳奈が家に来るのは何の問題もない。

 問題は。


「お、お邪魔します……」


 佳奈の隣で、困ったように笑う彩花だ。

 玄関に立つ彩花は、佳奈と同じ挨拶を口にしている。

 彼女も今日は私服だ。

 ブラウスにベージュのベストを重ねて、下は黒のパンツ。理久は初めて見る服装だが、余所行きだろうか。普段よりパリッとしている。

 彼女の雰囲気によく似合っていた。

 両手には佳奈とお揃いのトートバッグが握られている。


 しかし、彼女の発したその一言で、どことなく緊張が走った。

 彩花は「お邪魔します」と言ったのだ。

 我が家に帰ってきたというのに。

 これは別に、「この家は自分の家ではない」という闇の深い皮肉ではなく。

 その言葉は、理久たちに向けられてはいない。

 彩花たちの後ろにいる彼に言ったものだ。


「お邪魔します」


 低く、野太い声が響く。

 短髪の頭と長身、がっしりとした身体つきが印象的な男の子。

 パーカーにパンツというシンプルな出で立ちだが、その背の高さか無骨な表情ゆえか、やけに様になっていた。背中にはリュックサック。

 彼は彩花と佳奈のクラスメイトであり、先日の文化祭でともに回った生徒。


 後藤だ。

 彼も勉強会に参加するために、小山内家を訪れていた。

 これもまた、佳奈の要望である。


「後藤くんも誘っていいですか」と言われてしまえば、ノーとも言えない。

 佳奈の思惑はわかる。

 後藤の気持ちを知り、彩花とくっつくことを望んでいろいろ動いていた彼女からすれば、これもまたアシストのひとつ。

 けれど、疑問はある。

 それは彩花にも質問済みだった。


『彩花さんって、後藤くんに告白されたことを佳奈ちゃんに伝えていないの?』というものだ。

 彼女は『告白された』という言葉を聞くと、気まずそうに、恥ずかしそうにしていたものの、正直に答えてくれた。


『いえ、佳奈にだけは伝えました。後藤くんには申し訳ないですが……、佳奈はいろいろと気を揉んでくれていましたし、後藤くんの応援もしていましたし……。でも、そうですね。不満そうではありました。何も口にはしませんでしたけど……』


 そうだろうな、と思う。

 彩花は佳奈からいろいろと言われたこともあって、多少はぐらついていた。

 試しにそういうことをしてみてもいいのかな、と。


 そして佳奈は、彩花の身を守るために後藤が彼氏になることを望んでいた。 

 けれど、その『彩花の身を守るため』の原因である理久がいるからこそ、彩花は「付き合えません」と断ってしまった。

 何とも皮肉な話だ。

 それに佳奈が納得したとも思えない。

 そして、まだ諦めていないからこそ、今日彼を呼んだのだろう。



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