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好きな人が義妹になった  作者: 西織
文化祭の片隅で
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 そんなことがありつつも、ホラー映画鑑賞会は無事に終了した。

 あのあと、「正直にこの腕のことを話せば彩花が気にする、しかし、このままでは呪われた人間として扱われる」という大変な二択を迫られたものの、何とかごまかすことができた。

 あのままだと、本当に呪われた人間として完全に距離を取られるところだった。

 こんなことで関係が崩壊するなんて嫌すぎる。


「まぁでも……、楽しかったな……」


 理久は自室のベッドに横たわりながら、ひとり呟いた。

 電気を消して、あとはもう眠るだけ。

 そのせいか、振り返るように先ほどのことを思い出していた。

 るかに相談するくらいへこんだことはあったものの、この生活はとても楽しい。  

 穏やかで平和で、ずっとこのままだったらいいのに、と思うくらいに。


「るかちゃんが言いたかったのは、そういうことなんだろうけど……」


 目を瞑る。

 この穏やかな生活は、理久の軽率な行動ひとつで容易く崩壊する。

 もし理久が彩花に対して好意を見せれば、先ほどのような時間は決して戻ってこない。

 あんな近い距離に彩花は座らないだろうし、香澄が映画を観ることも許さないだろう。

 家族として兄として、信頼が芽生えつつあるからこそ、先ほどの時間はあり得た。存在した。


 それが壊れてしまうのは、理久が望むものではない。

 けれど、このまま何もしなければ、彩花はいずれだれかひとりを愛するようになる。

 そうなったとき、自分は本当に耐えられるのだろうか。


「……ん」


 そんなことをぼんやり考えていると、部屋の扉が開く音が聞こえた。彩花の部屋からだ。

 まだ起きていたのか、と無意識に思いつつ、ふっと笑ってしまう。


『あぁ……。わたし今日眠れないかも……。布団の中で思い出しそう……』

『わたしも……。寝るときに怖くなりそう……、眠れるかな……』


 鑑賞会のあと、「もう片付けて寝ましょうか」となった際、ふたりがぐったりしながらそう言っていた。

 こういうホラー映画を観たあと、布団の中でつい思い出し、怖くなって眠れなくなるのはよくある話だ。


 理久も幼い頃、同じことがあった。小学校で流行っていた怪談本を読んで眠れなくなり、父の布団に逃げ込んだことがある。

 それはあくまで子供の頃の話だが、彩花と香澄の怖がりようを見ていると、今そうなってもそれほどおかしくは――。


「――――――」


 ガバっと身体を起こす。

 足音が、聞こえない。

 普段、彩花が部屋を出たあとは、わずかながら足音が聞こえてくる。

 夜中は足音を抑えているものの、それでも音は聞こえてしまうものだ。

 それが一切、聞こえてこない。

 ということは、彩花は廊下を歩いていない。部屋の前で立ち止まっているのだ。

 なぜか。


「……嘘でしょ?」


 まさか、と思い、部屋の扉を凝視する。

 自分の幼い頃と記憶がリンクしたせいだ。

 小学生の理久は恐怖に駆られ、父といっしょに寝てもらおうとして寝室の前まで来た。

 けれど、小学生にもなって親といっしょに寝るなんて、恥ずかしかった。なかなか言い出せなかった。

 部屋の前まで来てもなかなか扉を開けられず、もじもじすることを繰り返し、それでも結局最後は部屋に飛び込んだ。


 もし、彩花がさっきの発言どおりにひとりで眠れず。

 だれかといっしょに寝てもらいたい、と部屋を出て。

 理久の部屋の前で、悩んでいるとしたら。

 子供の頃の理久が父を頼ったように、彩花が理久を頼ろうとしていたら。

 もしも、部屋の扉をノックし、「兄さん……」と震えながら入ってきたら。


「――――っ」


 その瞬間、心臓が痛いくらいに大きく鼓動する。

 そんなバカな。 

 ありえない、と思いながらも、想像はしてしまう。

 理久には父親しかいないから、父の部屋に逃げ込むしかなかった。けれどもし兄弟がいたら、そちらに行ったかもしれない。

 怖くなった妹が兄の部屋に行くなんて微笑ましく、ありそうと言えばありそうな話だ。

 そして何より、寝室は父と香澄がふたりで使っている。

 その中に入っていくよりも、こちらのほうがハードルが低いと判断されたら。


 だが、自分たちは義理の兄妹で。

 高校一年生と中学三年生だ。

 まずいだろう、それは。


 けれど、もしそうなれば理久は絶対に彩花を拒めない。

 彩花が望むのであれば、そのとおりにしてしまう。

 だが、その状況で今までと同じ態度を保つ自信は、全くと言うほどなかった。

 兄妹としての信頼ができつつあるからこそ、こんなすれ違いが起きるのだろうか。


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