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るかは目を輝かせながら、熱心に尋ねた。
「作ろうと思ったことはないの? 恋人」
「えぇ……、どうでしょう。あまり考えたことはありませんけど……」
「そうなんだ。でもでも、佳奈ちゃんってかわいいし、モテるんじゃない?」
前のめりに訊くるかの腕を、理久は引っ張る。
はっとしてこちらを見るるかに、「グイグイ行きすぎ。引かれちゃうよ」と視線で伝える。すると、るかはぱっと口元に手をやり、途端に恥ずかしそうにした。
顔を赤くして、おずおずと視線を下ろす。
先ほどのように、もじもじし始めてしまう。
いや、今度はブレーキ掛かりすぎだって。
けれど、るかが我に返ったことに気付かない佳奈は、るかの質問に素直に答えていた。
「えと……、まぁ……。べ、べつに可愛くはないです、けど……。ただ……、男子に、告白、みたいなことを、されたことは、あります……」
小さく言葉を繋げる佳奈の顔は、さらに赤くなっていた。
人の恋路はともかく、自分の話になると途端に気まずくなるようだ。
あまり話し慣れていないのか、それとも自慢っぽくしないようするためか、さっきから声は小さくなり続けている。
その姿にきゅんとしたのか、るかは胸の前で両手を重ねて、ぽうっと佳奈を見つめていた。
ますます上手く話せなさそうなので、代わりに理久が引き継ぐ。
「その男子とは付き合おうとは思わなかったの? 恋人とか、あんまり興味ない?」
幸い、理久が尋ねても佳奈は気を悪くする様子はなかった。
もしかすると、彼女も赤裸々な恋バナにいっぱいいっぱいなのかもしれない。
「興味は……、まぁ、ありますけど。でも、同い年の男子とそういう関係になるのは想像できない。後藤くんくらい落ち着いてるなら、まぁともかく。男子って子供っぽいですし」
さっきまで恥ずかしそうにしていたのに、「同い年の男子って子供っぽい」という話になった途端、佳奈は表情を戻した。元の委員長気質だ。今すぐ腰に手を当てて、ため息でも吐きそうだった。
まぁでも。
男子が子供っぽいというのは。
「わかる~~~~~~~~~~」
「わかる」
「いや、なんで小山内さんまで頷いてるんですか……」
るかの渾身の同意と理久の噛み締めるような頷きが重なり、佳奈のほうが困惑している。
いや、男子のほうも「女子って大人っぽいよなあ……」と思ってはいるのだ。見ている視線が違うというか。
高校生になったというのに、今でもるかやクラスメイトと同じ目線に立てているとは思えない。
彩花と暮らすことに対し、気まずくなっていた理由の一端でもある。
るかはふにゃふにゃした笑みを浮かべながら、独り言のように呟いた。
「子供っぽい相手は嫌だよねえ。確かに男子はなあ。そういうところあるからなあ」
ご機嫌にるかは言葉を重ねている。喜びすぎでしょ。
当然、佳奈は困惑というか、眉を顰めていたが、理久が無理やりに話を進めた。
るかが知りたい情報を、できるだけ引っ張りたい。
「でも、男子の子供っぽいところが良い、って人もいるしさ。そういう佳奈ちゃんの好みは? どんな人が好きなの?」
「わたしですか? あまり考えたことないけど……。でも、大人っぽい人がいいですね。自分より落ち着いている、年上の人が良いかもです」
その答えに、あぁなるほど、と思う。
クラスの女子が、「年下とか無理。絶対年上がいい」とよく言っていたが、こういうことなのかもしれない。
すると、その「年上」であるるかは露骨に表情を明るくさせた。
思わず、と言った具合にるかが前に出る。
「そうだよね、絶対年上のほうがいいよねっ。わたしもそう思うなあ。あ、でもわたしは年下もかわいいと思うけどね、うん。わたしはね?」
はしゃいだ様子のるかに、理久は小さく咳払いする。落ち着きなよ。
けれど、彼女は止まることなく、佳奈の顔を覗き込んだ。
「でも、一口に年上、って言ってもいろんな人がいるでしょ。どんな人だといいなぁって思うの?」
「そうですね……」
少しは慣れてきたのか、るかの質問に佳奈は考え込む。
けれど、大して思いつかなかったのか、ぼんやりと答えた。
「……賢い人、とか? わたしより勉強ができて、教えてくれる人だと嬉しいかもしれないです」
なんというかそれは、大人への憧れというより、子供っぽい同年代への失望が反転した結果のような気がしないでもない。
しかし、それを聞いたるかは、パアアアアアっと表情を明るくさせた。
自信満々に自分を指差す。