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好きな人が義妹になった  作者: 西織
文化祭の片隅で

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 佳奈の企てには気付いているものの、かといって「いっしょには行きません」と大人げないことができるはずもなく。

 彩花、理久、るか、そして、佳奈と後藤の五人で文化祭を回ることになったのだが。


「………………」

 

 五人の並びを見て、たくらみを感じずにはいられない。

 佳奈の提案で、校内から見て回ることになった。それはいい。

 しかし、学校の廊下はそれほど広くはない。

 五人で広がって歩くわけにもいかず、縦に並んで歩いていたのだが。

 この並びは、さすがに露骨すぎではないだろうか。


 前方に彩花と後藤のふたり。

 その後ろに、佳奈がひとり。

 さらに後ろに、るかと理久が歩いている。


 完全に分担された。

 いや、さすがにこれだけでクレームを付けるつもりはない。

 問題は佳奈が、露骨に歩みを遅くしていることだ。

 佳奈に阻まれて、彩花たちと理久たちの間に徐々に距離が出てくる。 


 現時点で前方のふたりとは話すのがちょっと面倒なくらいの距離ができていて、かといって離れすぎない絶妙な位置を、佳奈が調整していた。

 時折、こちらをそっと振り返っては何かを確認している。

 明らかに、わかっていてやっている。


 それにしたって、もうちょいわかりにくくやるべきでは?

 露骨すぎない?

 理久が呆れていると、るかは口元を押さえて、ぱたぱたと足を動かしていた。


「か、かわいぃ~~~~。こ、こんな露骨にやるぅ? へ、へたくそ! ちゅ、中学生っぽい~~~~。かわいい~~~~~」


 小声ではあるものの、嬉しそうにるかは理久の肩をぱしぱし叩いている。

 ご満悦だ。

 楽しんでいるなら何よりだが、佳奈も嫌がらせのような行為で悦ばれているとは思わないだろう。

 嬉しそうにはしゃいでいたるかだったが、はっとしてこちらに身体を寄せてきた。


「ごめん。理久にとっては笑い事じゃないね」

「いや。るかちゃんが楽しんでいるなら、それがせめてもの救いだよ」


 結構な本音でそう言う。

 少しずつ離れていく彩花たちの背中は、見ていて割と辛いものがある。

 間に佳奈が挟まって、明らかな邪魔をする行為も含めて。

 佳奈は不遜な笑みを浮かべて、こちらに顔を向けた。


「どうですか、あのふたり。お似合いだとは思いませんか」

「ん? んん~……」


 突然の質問に、イエスともノーとも言い辛い。

 るかも苦笑いしていた。

 けれど、元より返事を期待していなかったのか、佳奈は前に向き直る。

 彼女たちの背中を見ながら、ぼそりと呟いた。


「わたしはあのふたり、お似合いだと思います。というか、後藤くんならきっと彩花を支えられるんじゃないかと思うんですよ。力になってくれると思います」


 理久に対して威嚇した表情とは程遠い、やさしくてやわらかい目を彩花に向けている。

 彼女は本当に、彩花が大切であることが窺えた。

 それに、佳奈の心配もあながち見当違いとも言えない。

 家に来たばかりの彩花は怯え、遠慮し、息を潜めるように過ごしていた。

 もしずっとあのままだったら、きっと彼女には支える人が必要だったように思う。

 だからだろうか、理久は無意識に問いかけてしまう。


「佳奈ちゃんは、あのふたりが付き合ったほうがいいと思う?」


 すると、佳奈は怪訝そうな目でこちらを見た。

『お前が言うのか、それを』とでも言いたげな目だ。

 それに気付かないフリをして答えを待っていると、佳奈は顔を前に向ける。


「……そうですね。状況が状況ですから。彩花が後藤くんと付き合えば、わたしも少しは安心できますし、彩花もそうだと思います。そのためにも、ふたりにはくっついてほしいですよ」


 わかっていたことだけれど、こうも自分のことを『彩花に危害を加える人物』として認識されているのは、面白い話ではない。

 不快には感じるものの、だからといって説明して納得してもらえる話でもない。

 見兼ねたるかが口を開きかけたが、すぐに頭を振って沈黙を保った。

 佳奈はちらりと理久を見て、そっと続ける。


「だからといって、彩花の相手がだれだっていいって話ではありません。後藤くんとは二年間同じクラスでしたが、彩花のことをよく見ていました。良い人ですよ。彩花の恋人としては最適な人物だと思います」


 取って付けたような言葉だが、それでも説得力はある。

 理久は前のふたりを改めて見やった。

 後藤はぶっきらぼうな表情をしつつも、彩花を気遣うような態度を見せていた。

 彩花はちょっと遠慮がちで、固いものを感じさせるものの、笑顔で話している。

 同い年、同じクラスゆえの気安い空気を感じた。


 あぁそうか、と理久は思い知る。

 彼らのように、自分は積み重ねた時間もそう多くはない。

 同じ教室で二年もの時間をともに過ごしたからこそ、滲み出る雰囲気。

 それをまざまざと見せつけられているようで、彼らの背中がさらに遠く感じてしまった。


「………………」


 すると、るかが理久の腕を肘でつついてきた。

 彼女を見ると、小さく首を振る。

 理久は頷き、ゆっくり息を吐いた。


 その言葉のないやりとりに佳奈は怪訝そうな顔をしていたが、すぐにそれも変わる。

 お澄ましした顔で、こんなことを言ってきた。


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