表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きな人が義妹になった  作者: 西織
文化祭の片隅で
53/141

53

 気まずい思いをしていると、るかが立ち上がる。


「理久。そろそろ出よっか。あんまり長居すると悪いし」


 返事も待たずに、るかは席を離れた。

 ホットケーキは既に食べ終えているし、ここを出るのに異論はない。

 しかし、目まぐるしく状況が変わっていくせいで、理久はついていけなかった。


 それでも、るかの言うとおりに席を立つ。

 佳奈たちの視線を避けるように教室を出ると、後ろから「るかさん! 小山内さん!」と声を掛けられた。

 彩花だ。

 彼女はパタパタと駆け寄ってきて、申し訳なさそうな表情で頭を下げた。


「すみません……。きっと、佳奈が失礼なことを言ってしまったと思うんですが……」

 

 彩花は髪に触れながら、改めて言う。

 佳奈の言い分には未だ混乱しているものの、先ほどるかが手本を見せてくれた。

 苦笑いにはなるものの、笑って手を振る。


「いやいや。そんな大したこと言われてないですから。大丈夫」

「そうですか……?」


 さすがにふたりから明確に「もういいよ」と言われているだけに、彩花もここで切りあげることに決めたようだ。

 笑顔を作って、小首を傾げる。


「あの、おふたりともまだお時間ありますか? わたし、もうすぐで交代の時間なんです。よかったらこのあと、文化祭をいっしょに回りませんか」

「え、いいの。もちろんです」


 思わず、二つ返事をしてしまう。

 けれど、るかは教室のほうをちらりと見た。


「わたしはいいけど。彩花ちゃんは大丈夫? お友達と回る約束とかしてない? わたしたちより、そっち優先したほうがいいよ?」


 そうるかに言われて、すぐさま後悔する理久。

 けれど出した言葉は引っ込められないし、事の成り行きを見守るしかない。

 彩花は笑顔を苦笑に変えて、こくりと頷いた。


「大丈夫です。ありがとうございます、るかさん」


 そうは言ったものの、すぐに彩花は交代できるわけではないらしい。

 もうちょっと掛かるそうので、待ち合わせ場所を決めてその場を離れた。


 見慣れない学校の廊下を、ほかの人たちを避けながら進んでいく。

 そこで思わず、理久はるかに「さすがるかちゃん」と口にする。

 さっきの佳奈に対する機転や、彩花への気遣いのことだ。

 るかは前を向いたまま、さらりと言った。


「理久は彩花ちゃんのことが好きすぎ」


 理久にしか聞こえない声で、視界が狭くなっていると指摘されてしまう。

 面目ない、と肩を落とすと、るかは軽く息を吐いた。


「しょうがないと思うけどね。人を好きになるって、そういうことだと思うし」

「………………」

 

 理久たちは、一足先に彩花との待ち合わせ場所に向かった。

 裏庭にあるベンチだ。

 そこが一番落ち着けて、わかりやすい場所だそうだ。

 別の教室でジュースを購入し、ベンチにふたり並んでどっかり座る。

 賑やかなのは校舎ばかりで、ここまでは声もあまり届かない。

 周りに人気がないこの場所なら、ようやく話せる。


 何より気になっていたのは、あの女の子だった。


「あの佳奈ちゃんって子、なんだったんだろ……」


 ジュースを口に含みながら、そっと呟く。

 初対面にも関わらず、彼女は面と向かって感情と言葉をぶつけてきた。

 あの行動力には驚くほかない。

 るかはジュースを飲みながら、当然のように口にする。


「なんだも何も、彩花ちゃんの親友でしょ。本人が言ってたとおり。彩花ちゃんのことが心配で心配で堪らない、大事なお友達だよ」

「だから、俺にあんなことを?」

「ん。そりゃさ、親友の親が再婚して、ひとつ上の兄といっしょに暮らすって言われたら、心配にもなるよ。嫌な想像もするし、何かしたいとも思う」

「まぁ……、そりゃ、そうかもしれないけど」


 理久は苦虫を噛み潰したような顔になる。

 自分がそんな男だと思われたからじゃない。

 その危惧は、まさしく彩花自身が抱えていたものだったからだ。

 かつての彩花はその不安を胸に生活し、最悪の状況も想定して、そしてそれを受け入れていた。

 あの日のことを思い出して、理久は胸が苦しくなる。


 そして、それと同じことを佳奈は想像していた。

 同い年の友人ならば、その想定も何ら不自然ではない。

 だから彩花に理久に会わせろ、とせがんでいたのだ。

 遅くならないうちに、釘を刺すために。

 しかし。


「でも、それを俺に言うのってどうなの? もちろん俺はそんな気は一切ないけど、本気で悪意があるなら何言われても気にしないと思う」

「それはあの子もわかってるでしょーよ。それでも行動せずにはいられないんでしょ。もしかしたら、少しでも抑止力になれるかもしれない。その可能性に賭けて、自分が怒られようが、友達に嫌われようが、行動してしまう。中学生らしい、実直で純粋な友達思いな子ってこと」


 るかは膝に肘を置き、前かがみで頬杖を突いた。

 後ろで括った髪が静かに揺れて、綺麗に塗られたネイルが光を反射する。

 佳奈の行動は褒められた行為では決してないけれど、彼女は覚悟して動いたように見えた。


 どうなろうとも、彩花のことを守りたかったんだろう。

 なるほど、とひとり呟くと、るかはちらりとこちらを見た。

 その唇が笑みを作っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ