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好きな人が義妹になった  作者: 西織
文化祭の片隅で
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「で? わたしが呼ばれたってわけね」

「そういうことです。よろしくお願いします」


 隣に立つるかに、理久は頭を下げる。

 夏らしさが薄れていき、秋の足音が近付いてきた、ある日の土曜日。

 理久とるかは、彩花の中学校に向かうために待ち合わせしていた。

 登校するときと変わらない、るかの家の前だ。


 今日のるかは、白色のセータードレスを着ていた。かなりミニなワンピースのようになっていて、オープンショルダーのために彼女の白い肩が一部だけ露出している。

 首元には普段より派手なネックレスが飾られていた。

 彼女の細い脚がすらりと伸びていて、ロングブーツがいいアクセントになっている。


 るかは制服のときもオシャレだが、私服はより垢抜けている。

 初めて見る服装だったので、るかは出会い頭に手を広げて、「かわいいっしょ」と笑っていた。

 

 彼女と横並びになり、まずは駅を目指す。

 彩花は中学校に自転車で通っているが、今日は電車で向かっているし、理久たちも電車で行く予定だ。

 その道中で、理久はるかに改めてお礼を言う。


「本当助かったよ、るかちゃん。来てくれてありがとう」

「いいよいいよ、気にしないで。まぁ母校でもない中学校の文化祭に、男ひとりで行くのは無理だよね」


 軽い調子で、るかは手をひらひらさせる。

「お願いですからいっしょに文化祭に行ってください!」と頼み込んだのが、今から数日前。

 いくら彩花のお願いと言えど、ひとりでは行くのはハードルが高かったので、るかに断られたらどうしようかと思っていた。

 隣を歩いてくれる彼女の存在は、本当にありがたい。


 普通列車で駅をいくつかまたいだあと、歩いて数分で目的地の中学校に辿り着く。

 駅から中学校に向かうまでの道すがらで、文化祭に行くだろう学生、そして保護者らしき人を何人も見掛けた。

 校門の前で、一度足を止める。

 関係者以外は決して立ち入ってはいけない場所だが、今はフレンドリーに門を開いていた。


 校門の奥には飾り付けられたアーチが立っており、何人ものお客さんがくぐっていく。そばには生徒が立っており、笑顔で「こんにちはー!」とパンフレットらしきものを配っていた。

 校舎は特に飾りつけされている様子はなかったが、ここだけで十分お祭りの空気を感じ取れる。


 張られたテントの下に長机が置いてあり、そこに生徒や先生が受付を行っていた。

 そこを通り抜けると、学校内とは思えないほどに色んな服装の人たちが見掛けられ、陽気な賑やかさで満たされている。

 

 ほかのお客さん同様、理久とるかもアーチをくぐって生徒からパンフレットを受け取り、「受付をお願いします!」と案内された。

 言うとおりにすると、テントの下から元気な声が飛んでくる。


「おはようございます! チケットを確認しております! こちらにお名前もお願いします!」


 制服を着た男子生徒ににこやかに言われ、彩花からもらった二枚のチケットを差し出した。

 それを確認したあと、男子生徒が代わりにバインダーとボールペンを手渡してくる。

 そこには、ずらりと来場者の名前が書かれていた。

 自分の名前を書き込んでいると、るかが後ろから顔を覗かせる。


「これわたしも書かないとダメなやつ?」


 おそらく理久に訊いたのだろうが、男子生徒が焦りながら首を振った。


「あ、い、いえ、代表者の方だけで大丈夫です……!」

「あ、そ? ありがとね」


 ニッと笑顔を向けるるかに、男子生徒はカアっと顔を赤くさせた。

 るかは元々可愛らしい顔立ちだが、メイクでさらに美貌を引き立たせ、服装もオシャレなものを身に着けている。

 中学生からしたら、刺激が強いかもしれない。

 理久はそれを横目に見つつ、名前を書き込み終えた。


 しかし、欄にチケット配布者との関係まで書く場所があり、面喰らう。

 家族、友人、親戚……、と並んでいる。 

 少し迷いながらも、「家族」に丸を振った。


 ペンとバインダーを返したあと、るかと校舎に向かって歩く。

 パンフレットはひとつで十分だと思ったのか、るかは受け取っていないようだ。

 理久が開いていると、肩に顎を載せるくらいの近さでるかが覗き込んできた。

 微笑ましいものを見る目に変わっていく。


「中学生らしい、かわいいものばっかだね。見るもの、彩花ちゃんところのホットケーキ屋さんくらいしかないんじゃない?」

「まぁ、中学校の文化祭なんてそんなもんじゃない? それに、言っちゃえば目的は彩花さんのところだけだし」

「ま、ね。でもホットケーキ屋さんって。かわいいね」

「かわいいよね」


 ふたりで笑い合いながら、近くの校舎の中に入っていく。

 外での出し物は少なく、文化祭のメインは校舎内のようだ。

 賑やかで、廊下にはたくさんの人が行きかっていた。 

 保護者らしき人や他校の生徒も見掛けたが、大半はこの学校の生徒だ。

 中学生らしい幼い顔立ちやぶかぶかの制服を見て、るかは何とはなしに呟く。


「なーんかこうしてると、中学生って子供に見えるよねー。微笑ましいというか。わたしたちもつい去年まで中学生だったのにな」

「ね」


 去年までは、るかは今よりも地味な制服で、理久といっしょに中学校に通っていた。

 今は高校生になり、自宅での環境でさえ随分と変わっている。

 あの頃は、まさかこんなことになると思っていなかった。


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