表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きな人が義妹になった  作者: 西織
好きな人が義妹になった
45/141

45

 そんなことを話しているうちに、近くの公園にやってきた。

 子供の頃はよく遊びに来ていた公園だ。

 砂場やすべり台、シーソー、ブランコ、とオーソドックな遊具が設置されていて、もう少し早く来ていれば子供の声が聞こえたかもしれない。

 何度も足を運んだ場所だが、ここで無邪気に遊ぶにはふたりは大きくなりすぎた。


 ふたりの間で何か話したいことがあれば、自然とここに足が向くようになっている。

 無人の公園に足を踏み入れ、るかはふらふらとすべり台に向かう。

 この公園内で一番大きな遊具で、高さもそこそこある。階段を上った先が広くなっており、そこに子供がキャッキャと集まっていることもあった。

 るかは何の躊躇もなく、階段を上っていく。

 さすがに高校生ふたりですべり台に上る気にはなれず、理久は下で彼女の姿を見上げていた。


「真面目な話をするけどさ」


 彼女は上った先でへりに両腕を置き、遠くを見るように顔を上げる。

 そう口にするだけあって、彼女の表情はどこか憂いを帯びていた。

 るかの顔も、制服も、夕暮の色に染まっていく。

 それだけに、「ちょっと待って」と理久はすぐに声を掛けた。


「なに」

「真面目な話をするんなら、降りてきてよ。るかちゃん、さっきからずっとパンツ見えてるよ」


 彼女は前かがみになり、お尻を軽く突き出すような姿勢になっている。

 ただでさえ短いスカートが風に揺れ、脚の付け根と下着まで、理久からばっちり見えてしまっていた。

 スカートの防御力って低すぎるよな、とここからだと思わずにはいられない。脚なんてほぼ全部見えてるんだけど。


 いくら何でも、パンツ丸出しでは真面目な話が霞んでしまう。

 しかし、るかは照れる様子も隠す様子もなく、面倒くさそうに口を開いた。


「見たくないなら上がってくればいいじゃん」

「他の人が来たら見えちゃうよ、って指摘してるんだけど……。まぁいいや……」

 

 普通のすべり台より広いとはいえ、さすがに高校生ふたりが居座るには狭いのだけれど。

 上がってこい、と言われたので、素直に階段に足を載せる。

 大人の体重を預けるには心許なく感じ、高さが上がるたびに恐怖心がうずく。


 それでも上り切ると、るかがいつの間にかこちらに身体を向けていた。

 髪の束が揺れる奥には、夕焼けが眩く主張をしている。

 胸元のアクセサリーがちゃり、と音を立て、肘をへりに載せているので鮮やかなネイルが目立っていた。

 るかはこちらをまっすぐに見つめ、静かに問いかける。


「理久はさ。彩花ちゃんとどうなりたいの?」

「どうなりたい……」


 オウム返ししても、すぐに意味は浸透していかない。

 そんな理久に理解させるように、るかは言葉を繋いだ。


「恋人になりたいかどうか、ってことかな。理久が彩花ちゃんと結ばれたいのか、そう考えてるならどれほどの想いなのか、いつかは告白しようと考えてるのか。それを聞きたい」


 確かめるように言われ、理久は視線を太陽に向けた。

 燃え上がるような橙色が、家の向こうに沈んでいく。

 そこから運ばれてくる風はうだるような夏のものではなく、わずかにだが秋の気配を感じさせた。

 そちらに目を向けたまま、頭の中で考える。

 けれど、出てきた言葉は、「わからない」という釈然としないものだった。


「自分が彩花さんに、そういうのを求めているのか、そうなりたいのか、今はわからない。でも、あの子がどうなってほしいか、っていう願望はある。幸せになってほしい。穏やかに、普通の女の子みたいに笑っててほしいな、って思うよ」


 自身がどうしたいかはわからない。

 けれど、彼女にどうなってほしいか、はすんなりと出てくる。

 それは間違いなく、正直で嘘のない一番の想いだった。

 それにるかは無表情のまま、静かに問いかけてくる。


「付き合いたい、とかは思ってないってこと?」

「今はわからない、としか……。もし、彩花さんが恋人になってくれるのなら、すごく嬉しいとは思うけど……」


 嬉しいだろうが、具体的に想像できない。

 想像するのが難しい、というのもあるかもしれない。

 今まで理久は女性と付き合ったことはないし、その先にある恋人らしいこともおぼろげな憧れでしかない。


 もしこれが、クラスの女子相手だったら、もっといっしょにいたい、話したい、そばにいたい、とアプローチするのかもしれない。

 けれど、理久と彩花は十分に同じ時間を過ごしている。

 それだけに満たされて、その先を想像しにくいのかもしれない。


 そして、何より。

 その先にあるものを手に入れたい、と願うよりも、目の前のものを失うほうがよっぽど怖かった。


「俺はそれより、告白してフラれたときのほうが怖い。るかちゃんが言ったように、好意がバレることが怖い。そのリスクを背負ってまで、恋人になりたい、とは思えないのかもしれない」


 今朝、るかに伝えられた言葉は、理久にとって恐ろしく危険で、あり得るだろう現実だった。

 もし、理久が彩花と付き合いたいと願ってしまったとして。

 その気持ちを伝え、彼女に断られたら。

 そこから先は、彩花に強い負担を掛ける日々が待っている。

 家が再び、安心できる場所じゃなくなってしまう。

 最終的に、彼女を家から追い出すことになりかねない。


「理久がその辺りをわきまえているのなら、いんだけどさ」


 るかは小さく息を吐くと、今度は彼女が太陽に目を向けた。


「あれだけ性格のいい、かわいい女子がそばにいて、いっしょに生活をして。笑って。時間を重ねてさ。その先で、『この子に彼女になってほしい』って願ってしまったら。今の生活は理久にとって、すごく辛いものになると思うんだよ」

「………………」


 いつの間にかるかの声に、心配の声が混じっている。

 姉として、不出来な弟を心配するような。

 そしてそれは、軽々に否定できる可能性ではない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ