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好きな人が義妹になった  作者: 西織
好きな人が義妹になった
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 三人で昼食を作り、それをのんびり食べたあと。

 約束どおり、るかは彩花に勉強を教えてあげていた。そのわかりやすさ、効率の良さに彩花はいたく感動したようだ。

 いつでも教えるよ、と笑うるかに、彩花もすぐに心を許していた。


 性別の違いと言えばそれまでだが、彩花がるかにすぐに懐いたのを見ると、理久としても若干のジェラシーを覚えないでもない。

 でも、それは彩花が楽しそうに笑う姿ですぐに消えていった。

 女の子だからこその会話も多かったし。


「るかさん、すごくオシャレですよね……」


 勉強の合間、彩花が若干気恥ずかしそうにるかにそう言った。

 すると、るかは前のめりになり、「わかる? いいでしょ、いいでしょ」と嬉しそうに手を広げる。

 彩花もギャルっぽい服装に憧れるのだろうか、と理久が思っていると、彩花は勇気を出したようにるかの手を見た。


「るかさんの爪、すごく綺麗なので……」

「お、ネイル? 彩花ちゃんも女の子だねぇ。何だったら、お姉さんが塗ってあげようか」


 年下の女の子に懐かれて嬉しいのか、るかがそんなことを言う。

 彩花はパッと顔を輝かせたが、理久は思わず横槍を入れてしまう。


「さすがに中学校ではまずいんじゃない? 豊崎だからこそセーフみたいなところあると思うけど」

 

 少なくとも、理久の中学時代はここまで派手な女子はいなかった。るかだって、制服は着崩していたものの、あくまで中学生の範疇に収まっていたくらいだ。

 それは彩花もわかっているようで、苦笑を浮かべた。


「そうですね。そう仰ってくれるのは嬉しいんですが、校則でダメだと思います」

「まぁそれもそっか。じゃあ、今度の冬休みに塗ってあげるよ。彩花ちゃんに似合いそうなネイル探しておくね」


 その提案に「いいんですか」と彩花は嬉しそうにしていた。

 こんな会話をできるのは、女子ならではだ。

 彩花もそういったオシャレに興味があったのは少しだけ意外だったけれど、彼女も年頃の女の子。あって当たり前なのかもしれない。

 そういった意味でも、るかは頼りになるお姉さんだろう。


「あ、でも豊崎だったらネイル塗ってても怒られないよ。合格したら初日から塗ってけばいいよ」

「……いえ、学校につけていくのは、ちょっと、勇気が出ない、です……」


 そう言って恥ずかしがる彼女も、可愛かった。

 


「ん。わ、こんな時間か。わたし、そろそろ帰るね」


 時計を見上げ、るかは声を上げる。

 既に外は夕暮の色に染まりつつあった。

 しかし、立ち上がったるかを理久は意外に感じながら見上げる。


「るかちゃん、晩ご飯食べて行かないの?」


 てっきり、そのつもりかと思っていた。

 彼女が家に来て、父と三人で晩ご飯を食べることもそれほど珍しいことではない。

 時間的に父と食べるのが難しくとも、昼間のように三人で食べると思っていたのに。

 それを聞いて、彩花も顔を明るくさせる。


「るかさんが晩ご飯もいっしょなら、わたしも嬉しいです」

 

 何とも可愛らしいことを言う彩花に、るかも笑みを返す。

 けれど軽く手を振って、「今日は帰るよ。野暮用あるし」と告げた。


「理久、送って」


 彼女は玄関に向かいながら、ごく自然にそう言った。

 るかの家はここから歩いてすぐだ。時刻もまだ早く、太陽も出ている。

 けれど、理久は「はいよ」とだけ答えて、いっしょに玄関を出た。


「それじゃ、彩花ちゃん。またね~」

「はい。るかさん、今日はありがとうございました」


 明るく手を振るるかに、彩花は控えめに手を振り返す。

 扉を閉めたあと、すぐにるかは歩き出した。

 いつものように、ふたり並んで歩いていく。

 自分の家とは正反対の方角に向かいながら、ぽつりと呟いた。


「……あれは惚れるな」

「でしょ」

「いい子すぎる」

「いい子でしょう」

「なんで理久が誇らしい顔をしてるのかはわからんけど」

「だって妹だし」

「きも」


 グサッと胸に突き刺され、身体がくの字に曲がる。

 腹を抑えながら、言い訳を口にした。


「……確かに今のは気持ち悪かった……、調子に乗りました……。でも、状況がわかってる相手に共感してもらえたのが嬉しくて、つい……」


 理久がひとりで悩んでいた期間は間違いなくあったし、今も恋心を隠している。

それをわかっているるかが共感してくれて、テンションが上がってしまったのだ。

 それはるかもある程度理解しているのか、手を振って「わかってる」と伝えてきた。


「理久もいろいろ頑張ったのが伝わってきたよ。あれだけちゃんとした素直ないい子が、あの環境ですぐに馴染めるわけない。理久のおかげで、彩花ちゃんは力を抜けてる。そこは誇っていいんじゃない」


 るかはこちらを一瞥して、さらりと言う。

 彼女にそう言われると、本当にそうなんじゃないか、と思えてくるから不思議だった。

 けれど、それよりも気になることができてしまう。


「あのー……。るかちゃん、さっき『あれは惚れるな』て言ったでしょ」

「? 言ったけど」

「もしかして、るかちゃんも彩花さんのこと……」

「あ、それ心配してたの!? 大丈夫大丈夫。すごくいい子だとは思うけど、恋愛対象ではないよ。好みとちょっとズレてるの、理久ならわかるでしょ」

「あ、そ? ならよかった……」

「理久とひとりの女の子を取り合うシチュエーションは面白いけどね」

「あり得るから怖いんだよな……。るかちゃん相手だったら、俺勝てる気しないよ」

「わたしも相手が理久だったら自信ないけどなー」

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