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好きな人が義妹になった  作者: 西織
好きな人が義妹になった
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 理久は、父の再婚を受け入れた。

 理久自身も迷い、考え、悩んだものの、結果として「わかった」「いいよ」と頷いた。

 けれど、心からの本音を言えば――、憂鬱で仕方がなかった。

 だってそうだろう。

 納得はしたものの、心情的にはどうしても抵抗がある。


「だって、知らない人がふたりも住むんだもんなー……」


 理久は独り言を呟いて、自室で頭を抱えていた。

 八月に入ってから気温がどんどん高くなり、外では今から暑くなるぞ、と言わんばかりに太陽が照っている。セミの鳴き声が部屋の中まで聞こえていた。

 机の上に夏休みの宿題を広げていたものの、一向に集中できる気配はない。

 何せ本日、いっしょに生活していくふたりが家にやってくるからだ。


 新しい母親と、その娘。

 とりわけ憂鬱なのは、その娘さんの存在だった。


「中三女子って……。いやもう、めちゃくちゃ難しいじゃん……。絶対複雑じゃん……。同級生相手でも、接するの難しいのに……」


 頭をぐらぐら揺らしながら、弱音を吐く。

 男子は単純、女子は複雑。

 クラスの女子に訳知り顔で言われたことがあるけれど、本当にそのとおりだと思う。

 女の子の気持ちなんて全然わからないし、絡み合った糸のように複雑に感じる。

 いつも男子より一歩前を歩くように、大人びた表情をして。

 人間関係ひとつ取っても、何だか大変そうだな……、と傍から見ていて思うことはよくあった。


「それに比べて俺たち男子は、ゲームとかスポーツがあったら、それでなんかガハハって笑っちゃえるからな……」


 女子から「男子って子供っぽい」って言われるのは、そういうところだと思う。

 いやいや男子だっていろいろあるんだぞ、と言いたくはなるが、女子ほどじゃない。

 女子に比べれば単純と言うか、もっとシンプルだ。


 特に理久は、いつも近くに幼馴染の望月るかの存在があった。

 幼いころから大人っぽく、聡明な彼女のそばにいたせいで、女子の成長速度や考えの違いをよく見ている。

 そのせいで、「女子は大人っぽい」という感覚はより強かった。

 見た目の変化も理由のひとつかもしれない。


 理久が理解できる女子は、古い付き合いであるるかがせいぜいだ。

 それ以外の女子は、本当に難しいと思う。

 それはもちろん、新しい妹だって同じだ。


 せめて、弟だったら。

 せめて、相手の連れ子が男子だったら。

 せめて、もっと幼いか、とびきり年上だったら。


 なぜ、一番難しいであろう歳の近い女子なのか。

 そんなふうに思わずにはいられない。

 急に他人が妹になる、と言われても困るばかりだ。


 それに、友達の家に行くと、歳の近い妹って大体なんか怖いんだよな……。お兄ちゃんに対して態度が悪いと言うか……。仲が悪いと言うか……。歳近い兄妹ってなんかいつも険悪じゃない? 思春期がぶつかってない? 中三と高一の組み合わせなんておおよそ最悪では?

 

「理久―! 来たよー! 降りてきてくれー!」


 物思いに耽っていたらインターフォンの音が響き、階下から父に呼ばれる。

 どたどたどた、と慌てた様子で玄関に向かう音も聞こえた。


「来たかぁ……」


 一気に緊張が高まる。

 独り言を呟いても一向に発散されず、焦りばかりが頭を占めた。

 理久も急いで部屋から出ようとして、ふう、と深呼吸。


 未だに抵抗がある。

 他人がこの家で暮らすなんて、まっぴらごめんだ。

 でも、あちらの家族にも事情がある。

 ここで嫌な態度を見せるわけにはいかなかった。


 心の準備をしているうちに、玄関の扉が開き、会話の声が漏れ聞こえる。

 再び、理久―! と声を掛けられて、理久は息を吐いた。

 緊張は消えない。

 上手くやれるだろうか。そりが合わなかったらどうしよう。嫌な人だったらどうしよう。自分が嫌になったらどうしよう。あぁ心配だ。大丈夫だろうか。

 それでも足を踏み出す。

 いろんな心配事を抱えたまま、理久は階段の下に降りていった。


 結論から言う。

 ぐるぐると考えていた様々なことはその瞬間、一気に頭の中から消し飛んでしまった。

 玄関に立っていた、彼女によって。


「三枝彩花です。今日からお世話になります……」


 目が合うと、彼女は礼儀正しく頭を下げた。

 その瞬間、長い髪がさらさらと背中からすべり落ちていく。

 玄関から入った陽の光が、一本一本をきらきらと照らしていった。

 彼女は半袖の白いワンピースを着ていて、それに負けないくらいに白い肌を控えめに出している。


 聞こえてきた声は鈴を鳴らしたように耳に心地よく、スッと入ってくる。

 けれど、理久の脳を痺れさせたのはその声ではない。

 玄関に立つ彼女を前にして、理久の頭は「なぜ」という言葉で満たされ、何も考えられなくなってしまった。


「――――――――」


 田んぼに落ちたところを助けられ、心を鷲掴みにされたあの日。

 あのときの光景を思い出すだけで幸せな気持ちになり、それだけで十分だとも思っていた。

 だというのに――、あのときの少女が、自分の家の玄関に立っていた。

 見紛うはずがない。

 制服姿でなくとも、あの頃から随分と経っていても、関係がなかった。

 あのときより少しだけ大人びて、表情に影が差していても。

 その綺麗な顔立ちと長い髪は、忘れようがない。

 ずっと心に刻まれていたからだ。


 しかし、なんで、という疑問ばかりが先行し、三枝彩花という少女を前に理久は動けなくなる。

 なぜ、あの子がここにいる?


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