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好きな人が義妹になった  作者: 西織
好きな人が義妹になった

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 いっしょに行ける感じだった。

 彩花はさも当然のように自分もついていくと思っていたようで、「すぐに準備しますね」と言って、部屋の中に戻っていった。

 一方、理久は部屋で小躍りしている。

 だって、彩花と図書館に行ける。いっしょに勉強できる。

 それはとても特別なイベントだ。


「今まで、スーパーしか行ったことなかったもんな……」


 彩花とふたりで出掛けたことがある場所は、スーパーのみ。

 あれはあれでとても楽しいし、新鮮なのだけれど、生活の延長線上にある感は否めない。 

 けれど、今回は完全に生活と切り離されているというか。

 めちゃくちゃ学生っぽいではないか。


 ……いや、まぁ。

 彩花が「家人がいなくなるのに、他人の自分がひとりで家に残るのはおかしい」と思っている可能性は十分にあるのだが、そこは無視しておく。


「兄さん。準備できましたので、下で待ってますね」

「あ、はい。すぐに行きますっ」


 浮かれていたら、彩花の準備が先に終わってしまった。

 女子の用意は時間が掛かると言うが、彼女は別に化粧をするわけでもないし、いつもあっという間に準備ができてしまう。

 急いで着替えて、理久も部屋を飛び出した。


「お待たせしました」


 階段を下りていくと、彩花はリビングから姿を現す。

 彼女は花柄のスカートを履き、トップスは白のノースリーブ。手にはトートバッグが握られていた。

 長い髪と彼女の顔立ちが清楚な雰囲気を崩さないが、肩がしっかり見えている。 

 涼しげに露出されている肩は細く、華奢な少女の印象をより強めた。


 かわいい。

 かわいいけど、大丈夫でしょうか、その服装……。露出激しくないでしょうか……。

 いや何様なんだ。だれ目線だ。おこがましいだろ。


「それでは、行きましょうか」

「あ、は、はい……」


 気持ち悪い心配をしている間に、彩花は笑みをたたえながらスニーカーを履き始める。

 ここに香澄がいたら何か言ってくれただろうか……。それとも彼女もOKサインを出している服装なんだろうか……。

 いや、めちゃくちゃかわいいんですけども……。

 何ともドキドキしながら、理久も靴を履き替える。


 図書館は、家から程近い場所にある。歩いて十五分くらいだ。

 この真夏の日差しの中、それだけ歩くのは少し心配だったが、暑さのピークは過ぎていた。幸いながら、今日はくもりだったし。

 それほど不快感を覚えずに、図書館には辿り着いた。

 自動ドアをくぐると、すぅっと気持ちのいい冷気が肌を撫でる。


「涼しいですね」

「ですね」


 隣に立つ彩花に微笑まれ、理久も笑みを返す。

 平日だから空いているものかと思いきや、ずらりと並んだ席はそれなりに埋まっていた。

 同じことを考える人は多いようで、席に着いているのは学生らしき人が多い。

 それを眺めていると、するりと彩花が肩を寄せてきた。

 ドキリとしてしまう。 

 心臓の高鳴りが届かないか心配になるほど近い距離で、彼女は前を向いたままそっと耳打ちをしてきた。


「結構混んでますね」


 なるほど、図書館だから静かにするよう気を遣ったらしい。

 でも、もうちょっと隣の男子にも注意できなかったでしょうか……。

 そもそも彼女ははっとするほどの美人なうえに、今は肩を出した服装。その肌をくっつけるものだから、肌の感触と彼女の長い髪を感じられてしまった。


 身長差があるから、背伸びをしているのも愛らしすぎる。

 そのうえ、耳元で囁かれるというのだから。

 いや、距離が近いのは家族として大変喜ばしいことですけれども……。


「いっそ、だれかに殴ってもらったほうがいいんだろうな……」

「え、なぜそんな物騒なことを……?」


 自分自身の罪深さと気持ち悪さへの断罪を求めていると、彼女に聞き取られてしまった。

 なんでもないです、と手を振ってから辺りを見渡す。

 確かに混んでいるが、座れないほどじゃない。

 ふたりで座れそうなテーブルを見つけ、指を差す。


「彩花さん。あそこ、空いてます」

「本当ですね。行きましょう」


 互いに囁き声を交わし、空いている席に向かう。

 ほかの席には理久たちと同じように、男女のペアも何人か見られる。

 理久からすればすべてカップルに見えるけれど、自分たちはそうは見えないだろうな、と感じていた。

 かといって、兄妹にも見えない気もするが……。彩花は兄さん、と呼んでくれるが、敬語だし、理久のほうもかなり敬語を使ってしまう。

 傍から見ると、本当におかしな二人組かもしれない。


 空いた席にふたり並んで座り、早速勉強道具を取り出す。

 彩花は受験勉強、理久は宿題の処理。

 周りにいる学生たちも、基本は黙々と勉強を進めている。


 時折、会話をしている人たちもいるが、ひそひそ声なうえにそれほど長くは話さない。話してるな、くらいには感じるが、ほとんど気にならなかった。

 部屋の中だとついスマホをイジってしまうが、隣に彩花がいるとそれもしようと思わない。


 なるほど、彩花の言うとおり集中できる環境が整っている。

 隣にだれかがいる、という状況もいいのかもしれない。

 案外、家のリビングでも隣に彩花がいてくれれば、勉強が捗ったりするだろうか。

 そんな厚かましいうえに気持ち悪い妄想は押し込んで、黙々と宿題を進めていく。

 今までにないほど順調に宿題を進めていると、とんとん、と肩を叩かれた。


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