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好きな人が義妹になった  作者: 西織
好きな人が義妹になった
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 再び真夏の日差しに耐えながら帰路につき、買ってきたものを手分けして整頓したあと。

 彼女に財布を見せて、それをリビングの収納棚に入れた。


「これ、家用のお財布なので。買い出しに行くときは、これを持ち出してください。あ、レシートは中に入れて置いて、パンパンになったらこっちの箱に移してほしいです。一応、家計簿も付けているので。財布のお金がなくなったら、父さんに言ってください」

 

 そう説明をしていると、彩花は微妙な表情で「はい」と頷いた。

 おそらく、「お財布のあるところを教えていいのかなあ」と言ったような、不安というか心配が伝わってくる。


 まぁ気持ちはわかる。

 理久も彼女の立場だったら、たぶん同じような顔をする。

 かといって、いっしょに生活していくのだから信用しないわけにもいかない。

 万が一、彼女の根が悪人だったとしても、ここでお金を盗ろうとするのはよっぽどの考えなしだ。


 そうして、ひとまずふたりでの買い出しを終えたあと。

 彩花は真剣な面持ちで、「小山内さん」と声を掛けてきた。

 手をきゅっと重ね合わせ、意を決したように口を開く。


「わたしにも、料理のお手伝いをさせてくれませんか」


 その言葉に、理久は慌てる。

 買い出しはともかくとしても、その申し出は困ってしまう。


「いやいや。彩花さん、もうだいぶ家事をやってもらってるんだし、料理くらいは俺に任せてください。それに彩花さん、受験生でしょう? 勉強しなきゃ」


 そうなのだ。

 彩花は受験生だし、今は中学三年生の夏。

 夏期講習などには行かないようなので、彼女は本来ならば部屋で一生懸命勉強に励むべきである。


 むしろ、掃除や洗濯なども彩花にやってもらうのはどうかと思っている。もちろん、「こっちでやりますから」と言ったところで、三枝母娘が納得しないとはわかっているけれど。

 ただでさえ環境の変化や、他人がいるという状況に集中力は削がれるだろうに。

 理久が再婚に対して渋い顔をしていたのも、自身の受験経験があったからかもしれない。


 だから、これ以上は彼女に負担を負ってほしくない。

 そう思っての返答だったが、彩花は静かに首を振った。


「勉強はちゃんとやっていますし、今のペースならそれほど問題はないので……。それよりもわたしは、料理を覚えたいです。小山内さんさえよければ、教えて頂けると嬉しいです」

「………………」


 彩花の意図が読めない。

 家事の担当で、料理を請け負えないことへの後ろめたさだろうか。

 それとも、他人に食事を作ってもらう現状が不安なのだろうか。

 もしくは、もっと別の理由か。


 端正な顔立ちからは真剣であることが伝わるだけで、ほかの感情は読めない。

 料理を教えること自体は構わない。

 構わないけれど、引っ掛かりは覚える。


 だが、これ以上掘り下げることも、「彩花が受験生だから」と突っぱねることも、理久の立場ではできなかった。

 そんな関係ではないからだ。

 あとで香澄に相談するにしても、それを理由に否定することは、理久がやっていいことではないと自覚していた。


「……いいですよ。じゃあ今日、いっしょに作りましょうか」


 理久の返答に、彩花は表情をぱあっと明るくさせる。

 ありがとうございます、と頭を下げると、その長い髪がさらさらと揺れた。

 その嬉しそうな顔を見ると、いろいろなものが緩んでしまいそうになる。

 よくないなあ、と自覚しながら、この日は彩花と料理することが決まった。


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