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好きな人が義妹になった  作者: 西織
それぞれの想いと

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「うわあ。綺麗ですね。ここに、こんなにも綺麗な桜があったんですね」


 辿り着いたのは、河川敷のそばにある桜並木。

 華やかに染まった桜が並び、花びらが宙を舞っている。

 普段は味気のない道だけれど、春の季節だけはまるで別世界のように綺麗になる場所だ。

 別に狙ったわけではないが、いい景色が見られた。

 今年は温かいおかげか、桜の開花も普段より早いらしい。


 彩花は感嘆の声を上げて、桜色の空を見上げていた。

 その瞬間、風が吹く。

 ふわりと彼女の髪とセーラー服を揺らして、桜の花びらが彼女の頭についた。

 それを指でつまみ、彩花はくすりと笑う。


「――――――」


 あぁ、なんて綺麗なんだろう。

 本当に。

 もう完全に、彼女に心を奪われてしまった。

 だからもう、しょうがないんだ。


 このときを心待ちにしていたような。

 それとも、永遠に来ないでほしい、と考えていたような。

 でも、先送りにはできない。

 せめてこの瞬間まで、と押し殺してきた気持ちは、既に膨らみ切っていて、いつ爆発してもおかしくない。

 もう、限界だった。


「彩花さん。彩花さんに、伝えたいお話があるんです」


 彼女に声を掛ける。

 楽しそうに桜を見上げていた彩花は、不思議そうに小首を傾げた。

 なんでしょうか、と微笑む。


 きっと彼女は、何を言われるか全くわかっていない。

 お祝いに何を食べたいか、考えておいてください、とでも言われると思っているんじゃないだろうか、

 そうなれば彼女は「どうしましょう……!」と顔をほころばせ、嬉しそうに思案し、いっぱいいっぱい悩んだあとに、食べたいものを言うのだろう。


 今までと変わらない日常。

 理久も、それを愛していた。

 なんてことはない日常が、幸せで、穏やかで、大好きだった。

 でも、るかも言っていたはずだ。


『好きって気持ちはさ、溢れるんだよ。言わないでおこう言わないでおこう、だって困らせるだけだから。関係が壊れちゃうから。そんなもの、百も承知なんだよ。でも、そんな理性を簡単に吹っ飛ばすのが、『好き』っていう気持ちなんだよ……』


 理久は、それをまざまざと感じていた。

 今まで一度たりとも、口にしなかった言葉を、理久は告げる。

 ようやく。

 言える。

 それは彼女との別れを意味していたけれど。

 その痛みよりも、堪える痛みのほうが強くなってしまっていたから。


「彩花さん。俺は、あなたが好きです。妹としてではなく、ひとりの女性として」


 風が、吹いた。

 桜の花びらが舞い、彩花の髪を激しく揺らす。

 けれど彼女は髪を抑えることもなく目を見開き、呆然とその言葉を聞いていた。


「えっ……」


 息が詰まるような、漏れ出た声。

 その表情は困惑に染まり、動揺し、どうしていいかわからないようだった。

 少なくとも、喜んでいるようには見えない。

 もしかしたら、と思わないでもなかった。

 全く期待してなかったわけでもなかった。

 万が一の可能性とは言え、あるかもしれないと奇跡を信じていた。


 好きです、と伝えて、わたしもです、と返してもらえること。

 嬉しいです、と言ってもらえること。


 そんなハッピーエンドを想像していて、でも予想どおり、彼女を困らせるだけで。

 そこに落胆はない。

 想像していた現実が、想像の外を超えずにただ広がっているだけだからだ。


 だから、謝る。

 想定していたとおりに。


「すみません。こんなこと言われても、困ると思います。彩花さんは、俺のことを兄として見てくれていたのに。家族になろうとしてくれたのに。でも、言わずにはいられなかったんです。一日一日、好きという気持ちが溢れそうになって。どうしようもなくて……。でもせめて、受験が終わるまでは待とうと思ってて。だから、今日まで我慢できたんです」


 とっくの昔に、理久は限界を迎えていた。

 どうにか押しとどめていたのに、クリスマスに器がぴしりと崩壊した。

 それでも言わずにいられたのは、「受験が終わったら言おう」と決めていたからだ。

 だからこそ、今まで耐えられた。

 けれど、これから先も言わずにいるのはもう無理だ。


 彩花は、その話を困惑しながら聞いている。

 胸の前できゅっと手を握り、黙って耳を傾けていた。

 まるで、初めて家に来たばかりのときのように。

 おどおどと、ただ困ったような表情を浮かべていた。


 言わなければよかった、と思わなくはない。

 こんなにも彩花を困らせてしまうのならば。

 でも、このままいっしょに暮らして。

 たとえば、後藤やほかの男でもいいけれど、彩花にも好きな人ができて。

 それを感じながらいっしょに暮らすなんてことは、理久には耐えられなかった。


 でも、こうなってしまった以上、いっしょには暮らせない。

 理久は、自分の気持ちを話した。

 彩花は、自分がどう見られているのかを知った。

 この状況で今までと変わらずに暮らしていけ、というのは、あまりにも勝手だろう。

 だから。


「だから俺は、家を出て行こうと思います。こうなった以上、今までみたいな兄妹には戻れない。でも彩花さんは、今までどおりあの家にいてください。俺がいなくなれば、済む話ですから」

「えっ……!?」


 彩花の目が、驚愕に見開く。

 さらに困惑を重ねた表情を見せたが、理久の心は穏やかだった。

 こうすれば、彩花は安心して暮らせるから。

 告白したあとは、こうするとずっと決めていた。

 けれど彩花は、それに反発する。


「そんな、そんなこと……、に、兄さんが出ていくなんて……!」


 その声に、理久は首を振る。

 彼女が言いたいことは、わかる。

 あそこは元々理久が住んでいた家だ。

 彩花なら、「出ていくのなら自分が」と言い出してもおかしくない。

 でも、それでは理久が納得いかない。


「こうなったのは、俺のせいです。俺の責任です。俺の罪です。俺が悪いのに、彩花さんを追い出すわけにはいかない。自業自得なんです。だから彩花さんは、気にせずに暮らしていてほしい」


 そう答えて、胸がじくりと痛む。

 こんなこと、言いたくはなかった。

 だって、人を好きになることが罪だなんて。

 それを伝えることが罪だなんて。

 自分は元々、彩花のことが好きだったのに。

 助けてくれたあのときの笑顔に、その心の綺麗さに、呆然と一目惚れしただけなのに。

 でも、その思いを振り払う。

 気持ちを伝えてしまった時点で、それは理久の罪に決まっていた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] いつから何故好きだったのかも一緒に伝えるのでしょうか。次話が気になります。
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