13
理久はカップヌードル、彩花はカップ焼きそばを選択した。
カップ麺にお湯を入れて、テーブルに向かい合わせで座る。
あとは三分。
ただふたりで待つ。
そうしてから失敗に気付く。
いやこれ、別にこんなふうに待つ必要なかったな……。
おそろしく気まずい空気が流れるが、理久はちょうどよさそうな話題が思い浮かばない。かといって、沈黙して三分待つなんて地獄すぎる。
どうにか話題がないかと頭をフル回転させていると、ありがたいことに彩花が先に話し掛けてきた。
「あの、小山内さん」
「はい」
「今朝、三人で朝ご飯を食べたんです。トーストと、あと昨日のお寿司もいっしょに。それで、パンがもうなくなったみたいで。慎吾さんは、小山内さんに買い出しをお願いしてほしい、と仰っていたのですが……」
「…………」
「小山内さん?」
「あ、はい……。はい、買い出しね……、うん……。わかった、行ってくるね……」
いや、いんだけどね?
いんだけどさ。
父親が「慎吾さん」と名前で呼ばれて、自分が「小山内さん」はちょっとアレだね?
いや、理久もわかっている。香澄が慎兄と呼ぶから、その流れで下の名前で呼んでいるだけだと。
理久が香澄のことを香澄さん、と呼ぶのと変わらない。
歳が近い異性よりも歳が離れている人のほうがなんとなく、下の名前で呼びやすいことも。
けど、小山内さんか……。いずれ自分も小山内さんになるのに……。
そんなことをぐるぐる考えていると、三分の設定をしたキッチンタイマーが鳴った。
理久はカップヌードルの蓋を開く。
彩花は手早く湯切りをして、ソースを入れてかき混ぜ始めた。
理久は麺を口にしながら、頭の中で買い出しの計算をする。
今日はなに作ろうかな~……、と考えながら。
彩花もそれ以上は特に何か言ってくることはなく、焼きそばを啜り始めた。
啜るたびに、彼女のポニーテールがゆらゆらと揺れている。
おいしそうに食べる彩花を見ていると、思考が中断されそうになる。
なぜ、自分と彼女はいっしょにカップ麺を食べているのか。
そんな根本的な疑問に辿り着きそうになった。
彩花はしばらくの間、無心で食べ進めていたようだが、思い出したように口を開く。
「小山内さん。買い出しなんですが、わたしもついていっていいでしょうか」
「そりゃいいけど……。別に気を遣わなくていいですよ? 掃除も洗濯もやってくれてるんだし、買い出しくらいは任せてもらっても」
「でも、わたしが代わりに行くこともあるでしょうし。そのときにミスのないよう、必要なものも押さえておきたくて……」
真面目なんだろう。もしくは、不安なのかもしれない。
生活必需品なんて、その家によって千差万別のはずだ。
彩花がこちらに合わせてくれると言うのならば、断る理由もない。
「わかった。じゃあ、ご飯を食べ終えたらいっしょに買い出しに行きましょう」
「はい。よろしくお願いします」
彼女はぺこり、と頭を下げる。
どうやら、昼からは彼女といっしょにスーパーに行くことになりそうだ。
「……ん?」
ということは、いっしょにお出かけ……?
いや、違う。買い出しだ。浮かれるな。彼女は予習としてついてくるだけだし、そこに自分が邪な思いを抱くのは失礼にあたる。あくまで買い出し。お出かけではない。うん。そう。スーパーに行くだけ。スーパーにお出かけ……、いや、違う!
そう己を言い聞かせるものの、彼女とふたりで出掛けるというイベントに、どうしても心が弾んでしまっていた。