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好きな人が義妹になった  作者: 西織
それぞれの想いと
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「彩花ちゃん、おいしい?」

「おいしいです!」

「そっかそっか、よかった」


 るかは微笑ましいものを見る目で、にこにこと彩花を見ていた。

 そのやさしい表情は常に隣にいる理久でも、それほど見たことがない。

 彩花もるかに大層懐いているが、るかはるかで彩花が可愛くてたまらないのだろう。

 その仲睦まじい姿を見ていると、理久も心が温かくなった。

 まるで本物の姉妹のようだ。

 実質、三兄妹みたいなところはあるけれど。


 今は夕飯時。

 小山内家で、三人で夕飯をともにしているところだった。

 ここ最近、るかとこうして三人で夕飯を囲むことが多い。

 受験勉強に励む彩花といっしょにいられる時間はあまりないので、るかも寂しいのかもしれない。

 るかが夕飯を食べていくと彩花も喜ぶし、料理も手伝ってもらえるし、嬉しいことばかりだ。


「彩花ちゃん、豊崎には電車で行くんだよね?」


 筑前煮に箸を伸ばしながら、るかが尋ねる。

 彩花はしばらく口をもぐもぐしたあと、ゆっくりと答えた。


「はい。多分そうなると思います。まだ気が早いですけど……」

「まぁ彩花ちゃんなら受かるでしょ。よっぽどのことがない限り」


 受験日が目の前に迫ってきたからか、こうして合格したあとの話をすることも多かった。

 勉強を見ているるかなら、彩花が合格圏内であることも実感しているだろうし、彩花の肩の力を抜く意味もあるんだろう。

 実際のところ、普通に受ければ普通に受かる学力を彩花は持っている。


 るかはにっこりと笑って、彩花に問いかけた。


「それなら、朝は三人で行かない? わたしと理久はいつもふたりで学校行ってるからさ」

「えっ、いいんですか」


 少し驚いて、彩花は理久のほうを見る。

 彩花がいいのであれば、理久も断る理由はない。

 むしろ、いっしょに学校に行けるなんてとても嬉しかった。


「もちろん。彩花さんがいいのなら。確かに、別々で行く理由もないですしね」


 あんまり喜ぶのもおかしいので、控えめにそう答える。

 彩花はぱっと表情を明るくさせて、「ぜひ」と笑った。

 どうやら、るかに感謝することがまた増えたようだ。

 彩花といっしょに登校できるだなんて。とても楽しみである。

 彩花はその姿を想像したのか、くすりと笑う。


「でも、この三人で登校だなんて。ちょっと不思議な感じがしますね」

「まぁ」

「それはそう」


 義理の兄妹と幼馴染。

 義兄とその友人、幼馴染の義妹。

 という面子は、まぁ何とも不可思議な感じはする。

 そもそも、去年の夏までは全く面識のない面子なのだから。

 こうしていっしょに夕ご飯を食べて、登校の約束までしているなんて、人生何があるかわからないものだ。

 それはるかも感じたのか、味噌汁を啜ったあと、ぼんやりと独り言のように言う。


「そっかぁ。彩花ちゃんが後輩になるんだもんなぁ。彩花ちゃんのブレザー姿、楽しみだねえ」

「……」


 理久が「俺も楽しみだ!」と言うのを堪えていると、彩花は「わたしもブレザー着るの楽しみです。ずっとセーラー服だったので」と笑った。


「彩花ちゃんのセーラー服、すごく似合ってるから、見られなくなるのも寂しいけどね。白っていうのがまたいいよねえ。でもまぁ、中学ならまだしも、高校はブレザーのほうがいいか。着崩せるし、オシャレにできるしね」


 るかが頷く。

 彼女が言うと説得力がある。

 るかはブラウスのボタンをふたつほど外しているし、デコルテからはネックレスが覗いている。スカートもガンガンに短かった。

 ネイルだって派手な色が塗られている。

 確かにこれらは、セーラー服ではあまり似合わないかもしれない。


 彩花の清楚な雰囲気と白いセーラー服はとても似合っているけれど、ブレザー姿がどんなふうになるのか、理久としても気になる。

 きっと似合うんだろうな、と考えていると、るかがおもむろに彩花の手を握った。


「そうだ。彩花ちゃん、合格したら春休みにネイル塗ってあげる。あんまり派手目じゃない、かわいいやつ」

「えっ、いいんですか」


 お年頃らしく、オシャレに興味のある彩花は嬉しそうに目をぱちぱちさせた。

 そういえば以前、そんな話をしていた気がする。

 るかはニッと笑いながら、彩花の細い指を撫でた。


「何なら、学校始まっても塗っていけそうなやつにしてもいいけどね。うちは元々校則ぬるいし、そんなに目立たない色ならいいんじゃない?」

「……な、なるほど」


 彩花は手を取られながら、まじまじと自分の指を見る。

 るかの手は綺麗な色をした爪がキラキラと輝いており、とっても華やかだ。

 彩花がるかにこうして手ほどきをしてもらったら、さらに美人に拍車がかかるかもしれない。

 大丈夫だろうか、俺は……、と理久が慄いていると、るかが急にモジモジし始めた。


「それで、あのー、彩花ちゃん……。佳奈ちゃんは、どう? 豊崎、大丈夫そう?」


 さっきまでハキハキと話していたのに、るかは急に語気が弱くなる。

 それをデリケートな話題だから、と判断したのか、彩花も声のトーンを少し落とした。


「本人は結構ギリギリ、って言ってました。今も追い込んでいるところで、割とピリピリしてます」


 してそう。

 佳奈の学力では豊崎はだいぶ際どいらしく、今も受験生らしく頭を抱えて勉強しているらしい。

 だから、るかも佳奈とは会えていない。最近はメッセージを送るのも控えているようだ。

 今思えば以前、わざわざファミレスにまで顔を出してくれたのは奇跡みたいな状況だったのかもしれない。


「そっかー……、頑張ってほしいなあ。佳奈ちゃんも豊崎に来てほしいからねぇ……」


 るかは肩を落とす。

 彩花と違って、佳奈は豊崎に来られるか微妙なところだ。

 それを見て、彩花はふふ、と口元に手を当てた。


「るかさん、佳奈のこと好きですもんね」

「……彩花ちゃん、わざわざそんなこと言うぅ? 恥ずかしいんだけど?」

「あ、今のはそういう意味じゃなくて……。あぁ、なんて言ったらいいんでしょう……」


 顔を真っ赤にしたるかは、からかわれたと思ったらしい。

 そうじゃなくて、彩花が言いたいのは人としての意味の好きだろう。

 同じ好きにだって、いろんな意味があるわけで。

 きっと彩花は兄として理久を好いていてくれるだろうけど、理久の好きと重ならないのと同じだ。


「………………」


 そう考えると、心がちくりとする。

 それは見ないふりをして、理久も同じように笑っていた。

 楽しい時間が少しでも長く続きますように、と祈るように。

 あぁ、そうなのだ。

 楽しい時間は、まだ続くはずだったのに。


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