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好きな人が義妹になった  作者: 西織
それぞれの想いと
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「理久」


 るかにせっつかれて、理久ははっとする。

 佳奈の報告は、理久にとっては大変にショックだった。

 それはそうだ、自分が一番恐ろしく感じていたことが実際に起きたのだから。

 けれど、その気持ちをるかに知られるのは構わないが、佳奈に知られるわけにはいかない。


「……ええっと。佳奈ちゃん、何でその話を俺に? 責任感じてるから?」


 変にくっつけようとした結果、こんなことになりました、だから報告しておきます、ということだったなら、いい。

 なぜなら、佳奈は理久が彩花を好きであることを知らない。

 知っていてはいけない。

 るかがせっついたのも、「さっさとごまかさないとまずいぞ」ということだ。

 だが。

 佳奈は首を傾げて、当然のように言った。


「だって、小山内さんは彩花のことが好きなんでしょう?」


 その言葉に、理久は目を見開く。

 今度はしっかり慌てる羽目になった。


「えっ……、な、なんで? だれから聞いたの? 後藤くん? るかちゃん?」


 そう答えると、すぐにるかは「ばか」と目を覆った。

 えっ、と声が出たが、佳奈の「あ……、本当にそうなんだ」という声で我に返る。

 サーっと青褪めたのが自分でもわかった。

 やってしまった。

 佳奈は確証を持って、問いかけたわけじゃなかったのだ。

 カマをかけただけ。

 あそこでしらを切ればごまかせたかもしれないのに、理久は自供してしまった。

 この気持ちは、知られるわけにはいかなかったのに。

 

 佳奈は少し気まずそうな顔で、頬を掻いた。


「……本当に好きだったんですね。もしそうだったら申し訳ないな、と思ってカマを掛けるだけ掛けようと思っていたんですが……」


 ごめんなさい、と佳奈は頭を下げる。

 あぁやってしまった。

 こんなわかりやすいカマ掛けに引っ掛かってしまうなんて、あまりにも迂闊すぎる。

 理久は思わず頭を抱えるも、出した言葉はなかったことにはならない。

 呻くように、尋ねる。


「……なんで、わかったの? 俺、そんなにわかりやすかった?」

 

 問題はそこだ。

 理久のことなら何でもお見通しのるかにバレるのは、最初から諦めていた。

 しかし、妙な直感が働く後藤に加えて、佳奈にまで筒抜けとなると、危機感も強くなる。

 この気持ちは、彩花には伝わってはいけないと言うのに。

 すると、佳奈は小さく首を振った。


「いえ。彩花はすごくいい子で、そのうえ美人ですから。いっしょに住んでたら、そりゃ好きになるだろうなって思ってただけです。彩花にはすごく良くしてくれるって聞いていたので、まぁ好意があるんじゃないかと……。それくらいで、バレバレってことはないです。単にわたしが、たいていの男は彩花を好きになるだろうな、って考えてるだけ」


 理久の態度がどうというより、状況的な証拠らしい。

 ここは後藤と似た考えではある。

 ある意味、訊くだけ訊いてみた、くらいのものだった。

 つまり、ここでちゃんと否定していれば、佳奈は「そうなんだ」と引き下がったのかもしれない。

 自身の迂闊さにほとほと嫌気が差す。

 それを慰めるためか、るかは理久の背中をぽんぽんと叩いた。


「……ていうか。それならわたしが心配してたことって、そんなに大袈裟じゃなかったんですね」

 

 佳奈が唇の端を吊り上げる。

 それにるかが「佳奈ちゃ~ん?」とジトッとした目を向けた。

 すぐに慌てたように佳奈が答える。


「ごめんなさい、別に反省してないわけじゃなくて……。だから、今ここに来てるんですよ。小山内さんが彩花のことを好きなら、今までのことはさらに申し訳ないから」


 そういうことらしい。

 まぁ理久が彩花のことを好きだとわかってやっていたのなら、佳奈の行為は悪魔の所業だ。

 あのときの悲しさが伝わったのなら、ちょっと嬉しい。

 そう考えていると、るかがそっと佳奈に告げた。


「佳奈ちゃん。言うまでもないけど、このことを彩花ちゃんには……」

「言いませんよ。当然です。……まぁ、以前のわたしならすぐに言っていたと思いますが」


 怖すぎる。

 怖すぎるけど、以前の佳奈ならそうしただろう。

「彩花のことを狙っているから、部屋から出ちゃダメ!」くらい言いそうだ。

 そういう意味では佳奈が言うとおり、佳奈の心配はそれほど大袈裟なものではなかった。

 実際に好きになってしまっているのだから。

 逆に言えば、佳奈は理久を信頼したからこそ、こうして話をしているのだろう。

 何なら、前までは何もしてなくても、好意がバレてなくても、思い切り警戒されていたわけだし。

 それならば、と理久はこれを機に問いかけた。


「……ねぇ、佳奈ちゃん。佳奈ちゃんはどう思う? 彩花さんは、後藤くんの告白を受けると思う?」

 

 その質問に、佳奈は動きを止めた。

 しばらくの間、考えこんでしまう。

 手を組んでそれを見つめ、静かに答えた。


「……わかりません。ただ、すごく迷っているとは思います。小山内さん本人を前に言うことじゃないとは思いますが……、やっぱり、家に他人の男の人がいる状況は、恋愛では重荷になると思うので。それを受け入れてくれるうえに、後藤くんは良い人だから」


 そこで佳奈は頬をぽりぽりと掻き、視線を横に逸らした。

 言い辛そうに、自分の意見を述べていく。


「正直なことを言えば、わたしは再婚の件がなかったとしても、彩花と後藤くんにはいっしょになってほしいと思っています。彼は誠実だし、真面目だし、彩花を大事にすると思う。今まで彩花に近付いてくる人は何人も見てきたけど、そんな人たちとは違った。高校に入って変な男に引っ掛かるよりも、わたしは後藤くんと付き合ってもらいたい」


 彩花の親友だからこそ、近くで見て来たからこそ出てくる、佳奈の想いだった。

 それと同じようなことは、るかも気にしていた。

 環境が変わって、変な男に言い寄られる可能性は十分にあるだろう。

 でも、後藤がそばにいれば、そんな心配はなくなる。

 佳奈も心配の種は消えるし、後藤相手だったら懸念しなくていい。


 あぁ、素晴らしいハッピーエンドだな、と自嘲気味に考えてしまう。


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