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好きな人が義妹になった  作者: 西織
好きな人が義妹になった
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 深夜まで起きていたせいで、翌日に目を覚ましたのは昼に近い時間帯だった。

 夏休みの贅沢だなあ、とあくびをしながら、理久は階下に降りていく。

 ぼうっとした頭のまま、ふらふらとリビングに入った。


「おはようございます」


 その声に、驚きで身体が飛び跳ねる。

 なぜ。だれもいないはずなのに。だれだ。

 それで自分が、すっかり寝惚けていたことに気が付いた。

 声を掛けてきたのは、彩花だ。

 昨日からこの家で暮らしているのに、それが頭からすっぽり抜けていた。


 彼女はどうやらリビングを掃除していたようで、その手には布巾が握られている。

 今日の彼女は、白いトップスに桜色のロングスカートを履いていた。清楚な雰囲気を持つ彼女に、よく似合っている。

 長くて綺麗な髪は後ろでまとめて、さわやかで活発的な印象を与えた。

 髪をまとめているために、上品な顔立ちが昨日よりもよく見える。

 今日の私服もかわいい、だとか、ポニーテール似合うな、だとか、掃除してる姿が愛おしい、だとか、いろんな感情が湧き立つが、何より理久は自分の格好が恥ずかしくかった。


「お、おはようございます……」


 今更遅いのだが、思わず顔や身体を隠すようにしながら、そそくさと洗面所に逃げ込む。

 鏡の前に映る自分は、寝ぐせで髪がぼさぼさになり、だらしのない部屋着で油断しきった姿だ。

 部屋着はまぁいいとしても、寝起きの顔を彼女に見られたことが恥ずかしい。


「そうか……。いっしょに暮らしてるんだもんなあ……」


 つい、いつものように起きてきてしまったけれど。

 既に共同生活は始まっている。

 父と香澄はもう仕事に行っていて、普段はだれもいないリビングには彼女だけが残っている。

 その事実に今更ながらに動揺する。

 どうしようもないのだけれど、彼女に不審人物と思われない程度には落ち着いていたい……。


 顔を洗い、リビングに戻る。

 彩花はせっせとテーブルの上を拭いていた。


「綺麗になってる……。ありがとう」


 よくよくリビングを見ると、随分と綺麗に掃除してもらっていた。

 ふたりを迎えるにあたって、理久もきちんと掃除はしている。

 けれど、彼女は隅々まで布巾で埃を取ってくれたらしく、ちょっとした小物もしっかりと整頓されていた。

 驚いたまま思わずお礼を言うと、彩花は小さく首を振る。


「いえ、わたしの分担ですから……。それで、あの。お昼ご飯って、どうしましましょうか」

「え? あ、あぁ。そっか。お昼ご飯か」


 時刻はもうすぐ正午に差し掛かろうとしている。

 お腹が空いているかといえば、そうでもない。

 学校がある日ならともかく、休日の理久は昼ご飯を抜くことが多い。

 だって面倒だから。

 夜ご飯はちゃんと作るのだから、昼まで料理したくない、というのが本音だ。   


 めんどい。

 作ってまで食べたくない。

 昨日の寿司が残っていたらそれで済ませたいくらいだったが、冷蔵庫には残っていなかった。


「……どうします?」


 そんなことを考えながらも、質問を質問で返す。

 できれば理久は楽に済ませてしまいたいが、彩花はどうだろうか。

 彼女は布巾をきゅっと握ったまま、そっと視線を逸らした。


「小山内さんにお任せします。普段どおりというか、やりやすいほうで大丈夫ですが……」


 そう言ってくれるのなら、甘えてしまおうか。

 さすがに食べない、という選択は取らないものの、わざわざ作ることはしなくてもよさそうだ。正直、ほっとする。

 そうなると、結論は。


「カップ麺とかでもいいですか?」

「はい」


 彩花の返答に胸を撫でおろす。

 お昼を食べたくなった用に、カップ麺や冷凍食品はストックしてある。

 楽で早くて、片付けも少ない。

 父がいなければ、すべてインスタントで済ませたいくらいに、理久は楽な食事を愛していた。


「準備しますね」

「え、あ、ありがとう……」


 彩花は掃除を終えたのか、そそくさと手を洗い、湯の準備をする。

 まぁ準備と言っても、それだけなのだが。

 それがカップ麺のいいところ。

 理久はキッチンの収納スペースから、大きめの箱を取り出す。

 それをテーブルの上に置いて、中を開いた。


「わっ……」


 いつの間に近くにいたのか、彩花がすぐ隣で箱の中を覗き込んでいた。

 近いんですけど……。

 身体がくっつきそうな距離だが、彼女が気付いている様子はない。

 自分が女子であること、そばにいるのが他人であることを自覚してくれないでしょうか……。

 こちとら、あの数分間で恋に叩き落とされたというのに……。

 赤くなった顔を隠しながら、理久はさりげなく距離を取る。


「カップ麺、普段からこんなに用意してるんですか?」

「あぁ、うん。昼間は大体、カップ麺か冷食で済ましちゃうので。食べないことのほうが多いんですけど」

「そうなんですか……」


 なぜか彩花は神妙な顔で頷いている。

 もしかしたら彼女は普段、あまりインスタント食品を食べないのかもしれない。


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