表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きな人が義妹になった  作者: 西織
それぞれの想いと
117/141

116

「あ、あー……。なんだか、カップルの方が多くて、見ているだけで恥ずかしくなっちゃいますね……?」


 そして彩花は、こういうときに口にしちゃうタイプなのだ。

 照れ笑いを浮かべて、ね? と言わんばかりにこちらに同意を求めてくる。

 そういう不用意に意識させるような発言や行為はやめてほしい……。

 あなたの隣にいるのは、感情を押し殺していっしょに暮らしている男なのだから……。

 ぽろっと出ちゃいそうになるんで……。


「まぁでも、俺たちみたいに兄妹で来ている人もいるかもしれないですよ」


 ここで気の利いたことが言えたらいいのだが、あまり頭が回らずに微妙なことを言ってしまった。

 いるわけないだろ。

 とろんとした目で見つめ合っている兄妹がいてたまるか。

 案の定、彩花は釈然としない表情で視線を泳がせている。


「どうでしょう……。まぁでも……、わたしたちも周りから見たらカップルに見えるでしょうし、そういう人たちもいるかもしれませんね……?」


 やさしいフォローをしてくれる。

 けれど、そのさらりとした「周りから見たらカップルに見える」と言うのは胸を打った。

 彼女は、そういうふうに思ってくれているんだろうか。

 実の兄妹とカップル。

 同じ男女でも、そこには明確な空気の違いがある。


『彩花さんは、俺たちが、周りからカップルに見えていると思うんですね』


 そんなふうに、言いたくなってしまう。

 そう言ったら、彼女はどんな反応を示すだろう。

 恥ずかしそうに、照れくさそうに、気まずそうにしてくれるだろうか。

 隣の男を、意識してくれるだろうか。

 それとも、きょとんとして、眉をひそめて、困惑するだろうか。


 聞けるわけがない。 

 聞いていいわけがない。

 理久ははあ、と白い息を吐き、イルミネーションの光に消えていくのを見届けた。


「彩花さん。こっちに行きましょうか」


 イルミネーションが派手なところは、どうしてもカップルが多い。

 ちょっと道が外れたところだと人はいないうえに、そこでも十分綺麗だ。

 その意図に気付いた彩花が、嬉しそうにトトト、とついてくる。

 そうしましょう、と笑った。


 細い道には人の気配はなく、けれど、木々はピカピカ光っている。

 ふたりきりでそれを見上げながら歩いていると、彩花が足を止めた。


「兄さん。ちょっといいでしょうか」


 その言葉に、理久は足を止めて振り返る。

 長い髪を揺らしながら、彩花は手を後ろに組んでいた。

 そして、穏やかに笑っている。


「わたし、ずっと兄さんに言いたいことがあるんです」


 あぁ、俺もです。

 俺は言えないけれど。

 そんなノイズが頭に響くのを感じながら、彩花を見つめ返した。


「なんでしょうか」


 そう言葉を返すと、彩花は視線をそっと逸らした。

 そのまま、頬に手を当てる。


「改まって言うのは、少し恥ずかしいんですけど……」


 彼女は一歩二歩と前に出た。

 そして、はにかみながら手を前に差し出す。


「兄さん。いつもありがとうございます。メリークリスマス、です」

「えっ……」


 彼女が前に出したのは、小ぶりの紙袋。

 いや、何か持っているなあとは思っていたけれど、女性の持ち物に言及するのもどうかと思っていたし、女性はいろいろあるんだろうくらいに考えていた。

 まさか、それがクリスマスプレゼントだなんて。

 さすがに、慌ててしまう。


「いや、あの、俺、すみません、何も用意してなくて……」


 こんな展開になるとは思っていなかったのだ。

 プレゼントを考えないでもなかったが、恋人でも何でもない男から、しかも義兄から渡されるなんて。

 望まれないだろうと思っていたから。

 下手をすれば、気持ち悪がられると思っていたから。


 しかし、彩花は「感謝の気持ち」と言葉を加えていた。

 そこが素晴らしいと思う。

 俺も用意しとけばよかった! と思ってしまうくらいには。

 理久が突然のプレゼントに困惑していると、彩花は毅然とした態度で言葉を返した。


「いえ。これはわたしが勝手にやったことですし、兄さんにはお世話になりっぱなしです。気兼ねなく受け取ってください」


 眩しくなるような笑顔を見せて、彩花はプレゼントを手渡してくれる。

 受け取って、中を見た。

 そこには、暖かそうなマフラーが入っている。

 彩花からのプレゼント。

 あまりにも輝いて見えたそれを、そっと持ち上げた。


「兄さん、寒いのが苦手だと仰っていたので。通学のときにでも使ってください」


 あんな些細な言葉を覚えていてくれたのか。

 嬉しすぎて、胸がじぃんとしてしまう。


「うわあ……、ありがとうございます……! いやこれ、もったいなくて使えないです……!」


 マフラーを見つめながら、はしゃいでそんなことを言ってしまう。

 子供から贈り物をされた親のようだけれど。

 それだけ嬉しく、理久にとって尊いものだった。

 すると、彩花はくすりと笑って、理久の手からマフラーを奪う。


「嫌ですよ、兄さん。使ってください」


 そう言いながら、彩花は理久の首にマフラーを巻いてくれた。

 そして、「あぁやっぱり。兄さんによく似合います」と笑う。


「――――――――――」


 あぁ。どこまでも、彼女は理久の心を奪ってしまう。

 それは、兄相手だからこそできる、気安い行動だとしても。

 理久の心を揺さぶるには、十分だった。

 何も言えずに、彩花を見つめることしかできない。

 溢れそうになる思いを、必死で抑えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ