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好きな人が義妹になった  作者: 西織
それぞれの想いと
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 季節は進み、外に吹く風がさらに冷たくなってきた。

 年末が迫ってきて、皆慌ただしく過ごし、父も香澄も仕事が忙しくなっている。 

 一方、理久たちは冬休みが近付き、少しずつ弛緩していく中。

 理久は、確かめなければならないことがあった。

 大事な大事な、イベントの予定である。

 絶対に気になる、年末の大イベント。


 しかし、その前に。

 それに勝るとも劣らない、お祝い事があった。


「彩花さん。ダイエット、お疲れ様でした!」

「ありがとうございますっ。兄さんも、たくさん協力してくださって、本当にありがとうございましたっ」


 ある日の夕飯。

 席に着いた理久と彩花は、そんなふうに健闘を称え合った。

 そう。

 彩花のあの「太った」事件から数週間。

 理久と彩花は、いっしょになってダイエットに励んでいた。

 カロリー控えめな料理をふたりで作って、運動もして。

 その成果はきっちりと出た。

 先日、彩花と香澄は近くのスーパー銭湯に行った際に、身体チェックをしてOKをもらっている。

 今日でダイエットは終了だ。


「いただきます……っ」


 彩花は泣き出しそうなくらいの笑顔で、手を合わせている。

 今日の晩ご飯は、今までずっと食べられなかった鶏のからあげ。

 彩花に「何が食べたいですか?」と訊いたら、物凄く真面目な顔で数十秒考えたあとに、噛み締めるように「……兄さんの、からあげが食べたいです」と答えてくれた。

 からあげは正直作るのも後片付けも激烈に面倒くさいのだが、彩花のためならいくらでも揚げてやろう、という気持ちになれる。

 彩花は早速、あげたてのからあげに箸を伸ばした。

 ざくっ、と良い音を立てて、彩花はしみじみ感想を口にする。


「んん~ぅ……! おいしいです……っ!」

「それはよかった。たくさん食べてください」

「はいっ」


 嬉しそうに、彩花は顔をほころばせる。

 元々あまり顔には肉が付いていたとは思えなかったが、今はよりほっそりとしていた。

 身体は見ないようにしているのでわからないが、増えたお肉もちゃんと落ちたらしい。

 体重も元に戻ったとのことなので、これからは間食や食べ過ぎないように気を付ければ、以前のような体型に戻ることはないだろう。


 その問題が解決したのは、とても喜ばしい。

 彩花には、おいしいものを力いっぱい食べていてほしかった。 

 久しぶりの揚げ物に幸せそうにしている彩花も、すごく可愛らしい。

 しかし、理久は今までにない緊張を背負っていた。

 何せ、今は十二月中旬。

 家族としては、年末や正月もいろいろと気になってくるが、それよりも大事なイベントがひとつ。

 クリスマスイブである。


「……………………」


 好きな女の子に、クリスマスの予定があるかどうか。

 それはどんなことよりも気になることだ。

 しかし、男子が女子に「クリスマスってどうしてんの?」と聞くのは、なかなかにリスキー。

 もしかして、自分に気がある? と思われてもおかしくない行為だ。

 特に理久は、彩花に決して好意を悟られてはいけない、という制約がある。


 けれど、そこは家族という伝家の宝刀を使わせてもらう。


「そういえば、彩花さんってクリスマスはどうするんですか? ご飯っていります? 父さんたちは普通に仕事みたいですけど」


 すらすらと、考えておいた文言を口にする。

 あくまでご飯は必要かどうか、家族としての質問なら問題ないはず。父たちの名前を出して、家族であることをことさらにアピールしたのもそれが理由。

 おかげで、彩花は特に気負った様子もなく、口を開こうとした。


 そこで、別の緊張が襲い掛かってくる。

 ここでもし、彩花に予定があったら。

 佳奈やクラスメイトだったらいいけれど、相手が後藤だったりしたら。

 これはもう大惨事である。

 彼女の一言で、自身がバラバラになる可能性だってある。

 理久は身構えて、彩花の返事を待った。

 果たして、彩花の答えは――。


「あ、家にいますよ」


 心の中で、ほうっと息を吐く。

 めちゃくちゃ安心してしまった。

 そのせいか、つい余計な言葉まで付け足してしまう。


「そうなんだ。もしかして、佳奈ちゃんたちと過ごすのかな、とも思ったんだけど」

 

 気が抜けたせいで出て来た不用意な質問に、彩花は笑いながら答える。


「佳奈は真面目ですから、最初から話に出ませんでした。後藤くんからは誘われたんですけど、受験生ですから。やめておきましょう、って話になりました」

「……………………」


 それは~………………。

 どっち?

 後藤から「佳奈たちといっしょにクリスマスを過ごそう」とか、「前の五人で集まろう」と言われたのか、それとも、「ふたりで過ごそう」って言われたのか……。

 それに対して、「受験生だから」って断ったってことは……、そうじゃなかったら……? 行ってたかもしれないってこと……?

 後藤……。攻めの姿勢は敵ながらあっぱれであり、しっかりと関係ないところで揺さぶられているぞ……。

 思わぬライバルの行動に動揺しながらも、理久はそれを流した。


「そっか。なら、クリスマスもいっしょにご飯作りましょうか」

「兄さんは、クリスマスの予定はないんですか? るかさんとか」


 彼女の言うとおり、るかがフリーだったら普段はるかと過ごしている。ふたりきりよりも、ほかの友達といっしょなことも多いが。

 さすがにるかは佳奈をクリスマスに誘う度胸もないだろうし、受験生への遠慮もあるだろうから、先日、「今年はどうする?」と水を向けてみたのだが。


『やー、今年はやめとくよ。理久が外に出ちゃうと、彩花ちゃんひとりになっちゃうかもじゃん。それは可哀想でしょ』

『彩花さんがフリーだったら? うち来てもいいよ。三人でどっか行ってもいいし』

『それなら素直にふたりで過ごしなよ。わたしだって別に、恋人以外なら過ごす相手いるんだから。気にしなくていいよ。来年は絶対佳奈ちゃんと過ごすがな!』


 とのことだった。

 まぁるかは友達も多いし、そこまで気を遣う意味は正直ない。

 なので、今年はるかとは別行動に決まった。

 普通の男女だったら、クリスマスをいっしょに過ごす意味が大きいのも確かだ。

 そこで何かが変わるかもしれない、という期待がないわけでもない。


 ただ、やっぱり家族としての過ごし方になるんじゃないかなあ、とは思っている。

 それはそれで、幸せな夜かもしれないが。


「彩花さん、クリスマスはなに食べたい?」

「せっかくですから、クリスマスっぽいものが食べられたら嬉しいです。でも兄さん、作れますか?」

「どうだろう。一回調べてみようかな」


 そんなふうに相談する。

 まぁきっとクリスマスは、こんなふうにいつもどおりご飯を食べるんじゃないだろうか。

 特別なのは、きっと料理くらい。

 それでもふたりで過ごす、初めてのクリスマスだ。


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