11
家の中に見知らぬ母娘がいることには慣れないものの、部屋に閉じこもれば関係がない。
風呂に入ったあとに寝る用意をして、あとはずっと部屋で過ごしていた。
彩花もそう滅多に部屋を出ようとはしないだろうし、不要な接触もそれほど多くはならないだろう。
プライベートスペースがあることにつくづく感謝する。
そして、今は夏休み。
特に何かやっていたわけでもないのに、なんとなく過ごしてしているうちに深夜だった、なんてこともしばしば。
午前二時に差し掛かり、さすがに寝ようか、と理久はあくびを噛み殺す。
その前にトイレに行っておこうかな、と腰を浮かしかけたが、物音が聞こえた。
カチャ、キィ、パタン、という静かな音。
どうやら、彩花が部屋を出て行ったようだ。
まぁ時間的に考えたらトイレだろう。
「………………今のもよくないな」
ぷるぷると頭を振る。
女子に対してトイレとかどうとか、そんなことを考えるのは非常に良くない。
トイレの頻度やタイミングを把握されているなんて、気持ち悪すぎる。
かといって物音は聞こえてしまうし、今度からイヤホンで音楽でも聴こうかなぁ、としばし考えながら、トイレが空くのを待っていた。
「……遅いな」
しばらく待ってみたが、彩花が部屋に戻ってこない。
耳を澄ますなんてこと、本当はしたくないのだけれど、理久だってトイレを我慢している身だ。
早く帰ってこないかな、と意識するとより行きたくなる。
だというのに、待てども待てども全然帰ってこない。
……鉢合わせになることは避けたいのだが。
「……俺が聞き逃しただけかなあ」
頭をぽりぽり掻きつつ、扉を開く。
廊下は真っ暗で、人の気配はない。物音もない。
向かいの扉を見るが、中に人がいるかどうかは見た目だけじゃわからなかった。
仕方なく、理久は階段を降りていく。
父親たちを起こしたくはないので、静かに家の中を進んでいくと、台所から明かりが漏れているのが見えた。
「……飲み物でも飲んでるのかな」
トイレじゃなかったらしい。
そう結論付けて、理久はトイレに入っていく。