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好きな人が義妹になった  作者: 西織
それぞれの想いと
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 本屋に入ると、三人は早速参考書の棚に向かった。 

 理久とるかはのんびり適当な棚を見て回る。

 何か欲しい本があったら買って行ってもいいし、彩花にオススメの小説を教えてもらってもいいかもしれない。

 彩花たちは、何やら三人で参考書についてあーだこーだで意見を交わしていた。


 それを何とはなしに見ていると、佳奈がちらちらとこちらを見ていることに気付く。

 気まずそうに、ぎこちなく、何度も。


「……………………?」


 どうも、佳奈の様子がさっきから変だ。

 それは、理久の隣にいるるかにも同じことが言える。

 るかは佳奈を見て意味深な表情を浮かべ、佳奈がそっと目を逸らす、というのを繰り返していた。

 佳奈が目を逸らすたびに、胸がきゅんとしているのか、いちいち悩ましいため息まで吐いている。

 そんなるかの腕に、理久が触れる。


「るかちゃん。佳奈ちゃんから、やけに視線を感じるんだけど。なんだと思う?」

「なんだろうね、かわいいね」

「るかちゃん、何か知ってるんでしょ?」

「なんだろうね、かわいいね」

「……るかちゃん?」

「んん、ごめん。それは本人から聞いて。わたしから言えることは、やっぱりわたしはあの子のことが好きだってことかな」


 だらしない笑顔でへへ、とるかは笑っている。

 その幸せそうな笑顔があまりにも光っているからか、すれ違った男性が「すごい美人がいるな……」という顔で振り返っていた。

 まぁ恋は女を綺麗に見せる、とは言うけれど、こういうときのるかは本当にピカピカしている。

 佳奈に直接聞け、と言われても、彼女は彼女で言い辛そうにしているのだけれど。


 仕方なくひとりで本を見て回っていると、「お、小山内さん!」と声を掛けられる。

 振り返ると、やけに緊張した面持ちの佳奈が立っていた。

 彼女は持ち上げた手をきゅっと握り、視線をうろうろさせている。

 以前、「今まですみませんでした。でもわたしは、あなたを信用していません」と頭を下げられたときと光景が被る。

 しかし、あのときの事務的な態度と違い、今はどこかおどおどしていた。

 以前はすんなりと口を開いていたのに、今回は意を決したように理久を見る。

 それなのに、語気は弱かった。


「あの……、小山内さん。後藤くんと彩花のことなんですけど……」

 

 それにはドキリとしてしまう。 

 なんだ。

 今度は何を仕掛けてくるんだ。

 警戒していると、その態度が彼女を傷付けてしまったらしい。

 しゅんとして、弱々しく口を開いた。


「わたしは……、後藤くんと彩花には、いっしょになってほしいと思っていたんです。後藤くんが恋人になって、彩花を守ってくれれば、って……。でも、それは単なる押し付けで、自分勝手な行動でしかない、ってことがわかって……。だからもう、今までみたいなことはやめようと思います……。いろいろとご迷惑を掛けました……」


 ぺこり、と佳奈は頭を下げる。

 そのしおらしい態度、肩を落とした姿、今までの言葉を完全に撤回する彼女に、正直困惑する。

 これは本当に、あの佳奈なのだろうか。

 文化祭から始まり、今まで散々暴走してきたっていうのに。


 いやもちろん、佳奈がわかってくれたのなら嬉しい。

 嬉しいのだが……、ここまで豹変されると、素直に信じられないのも確かだった。


「ええと……、それは、いいことだと思うけど。どうして?」


 シンプルな疑問をぶつけると、佳奈は頬を赤くして視線を外す。

 気まずそうにしながら、「るかさんが……」と静かに言葉を続けた。


「るかさんに、叱られたんです……。わたしがやってる行為は独りよがりだ、って。今までも、わたしの行動に苦言を呈す人はいました。でも、あんなふうにまっすぐ、ちゃんと怒ってくれた人って、初めてで……。だから、だからちゃんと考えてみたら……、わたしが……、間違ってるなって……。そう自覚できて……」


 なるほど。

 学級委員長然とした佳奈は、今までも何度か独善的な行動をしてきたのだろう。それは容易に想像できる。

 彩花も、何度か男子とぶつかっていた、と口にしていた。

 佳奈の行動が正しいときもあれば、間違っていることもある。

 男子が、「うっせえなあ!」と乱暴に反論することはあれど、「それは間違っているよ」と諭してくれる人はいなかったのだろう。


 そういうのって、言いづらいし。

 それは間違っている、と断言できるほど視野が広い人は少ないし、その言葉に責任を持って注意できる人はもっと少ない。

 理久にも彩花にも後藤にも、多分できなかったと思う。

 一目置いているるかだからこそ、佳奈に響いたのかもしれない。


「もし彩花が後藤くんと結ばれたいなら協力しますけど、そうでないならもうしません。大事なのは、彩花の気持ち。そんなこともわたしは見えていませんでした……」

 

 反省するように、佳奈は肩を落としてしまう。

 いや、佳奈がわかってくれたのは嬉しい。

 今までの暴走を反省し、やめてくれるのであれば、理久はぐっと気持ちが楽になる。

 だが、疑問はあった。


「……でも、後藤くん。今日誘われてるよね?」


 いるのだ、彼は。

 だからこそ、理久は「また佳奈が何か仕掛けようとしてるな……」と警戒していた。

 しかし、理久の問いに、佳奈は慌てたように答える。


「だ、だってっ。この前は五人で集まったのに、今回は後藤くんだけ抜きだなんて。そんなの仲間外れみたいで、可哀想だし……」


 ……と、いうことらしい。

 その答えには思わず笑ってしまい、佳奈は不本意そうにしていた。

 律儀だなあ。

 なんというか、彼女も根は善人なんだろう。

 空回りしていただけで。

 お節介なだけで。

 不器用なだけで。


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