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好きな人が義妹になった  作者: 西織
それぞれの想いと

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 小山内理久は、スマホを眺めながら頭をポリポリと掻いた。

 そこには、『ありがと、ちょっと落ち着いた』とるかからのメッセージが表示されている。 

 さっきまで、理久はるかの家に呼ばれていた。

 泣きじゃくるるかをなだめ、落ち着かせ、慰める、という何度か繰り返してきた行為を、先ほどまで行っていた。

 るかが失恋したときの、お決まりのやりとり。

 それが突然、るかから申請されたものだから、かなり驚いた。

 佳奈とるかは上手くいっていた……、とは言えないが、徐々に距離は縮まり、むしろ今からそういった段階を踏むところだったのに。

 だというのに、突然の失恋宣言。


 なぜ、と理由を聞くと、るかは佳奈の誤解を解こうとしてくれたらしい。

 結果的にキツい言葉を突きつけることになり、怒って佳奈は帰ってしまったそうだ。

 もう会ってもらえないよぉ、とるかはわんわん泣いていた。


「……大丈夫かな、るかちゃん……」


 スマホを見て、ぽつりと呟く。

 るかは相当佳奈に熱を入れていたし、本当に楽しそうにしていた。

 それだけに、自分のためにそれを壊してくれたのは、ありがたいと思うと同時に強い罪悪感が湧く。

 とはいえ、理久もいい加減いっぱいいっぱいだった。

 佳奈と後藤の猛攻を喰い止めてくれたのだから、理久の心にも多少の平穏が戻ってくるはずだ。

 だが、それは弟想いの姉のやさしさと、自己犠牲によって成り立ったもの。

 手放しで喜べるものでもなかった。


 るかに何かできることはないだろうか……、と考えていると、扉がコンコン、とノックされた。

「はい」と返事をしながら、扉を開ける。

 そこには、パジャマ姿の彩花が立っていた。

 風呂上がりなのか、いつもよりしっとりした髪に長袖のパジャマ姿。

 かわいい。

 彼女は理久を見上げながら、スマホを持ち上げた。


「あの、前に言っていた佳奈の件です。また五人で集まろう、というお話の……。佳奈から連絡が来たのですが、ショッピングモールでちょっとした買い物をして、お昼ご飯でも食べないか、と言われているのですが……」

「………………」

「兄さん?」

「あぁ、いえ……。えっと……。そのお誘いって、さっき来たんですか? 前から予定組んでた~、とかじゃなく……」

「? そうですね、メッセージが来たのは先ほどですが……。それがどうかしました?」


 どうかはする。

 佳奈はるかに「あなたの行動は間違っている」と指摘されて、黙り込んで帰ってしまったそうだ。 

 それはてっきり、図星を突かれたからだと思っていたのだが。

 まるで、そのるかとのやりとりがなかったかのように、こうして誘いをかけている。

 ……これ、もしかして全くノーダメージなのでは……?


「……あぁ、はい。俺は、いいですよ……」

「わかりました。じゃあ佳奈には連絡しておきますね」


 理久の態度に不思議そうにはしていたものの、深く聞くつもりはないらしい。

 そのまま扉を閉めようとして、彩花は何かに気付いたように動きを止める。

 両眼を閉じて、顔をくいっと上げた。


「………………??????」


 理久は脳が破壊されそうになった。

 目を瞑って顎をちょっとだけ上げるその仕草が、いわゆるキス待ちと言われる状態になっていたからだ。

 なんで? なんで急に? え、これでも絶対そういうのじゃないよね??

 理久が混乱していると、彩花は鼻を少しだけスンスンと動かし、すぐに目を開いた。

 ふわりと笑みを浮かべて、口を開く。


「いい香りがするなあ、と思いまして。兄さん、早速使ってくれたんですね」

「……あ。あ、はい。ラベンダーの。はい、使わせてもらってます……」


 単に匂いを嗅いでいたらしい。

 先日彩花からもらったアロマデュフューザーは既に設置してあり、部屋には爽やかな匂いが満たされている。

 彩花は興味深そうに尋ねてきた。


「どうですか、兄さん。安眠できるようになりました?」

「えぇ? いやあ、どうだろう……。良い匂いだとは思いますけど、まだあんまりよく眠れてないかも」

「そうですか……」

 

 彩花は残念そうに、しゅんとしてしまう。

 そんなにラベンダーの香りに賭けていたのだろうか。

 でも、なんだか世辞を言うのも違う感じがして、正直に言ってしまった。


 彩花が部屋に戻って行ったので、再びスマホに目を向ける。 

 るかに連絡しておこうと思うが、改めて考えるとなかなかに怖い状況だ。

 これ、佳奈がノーダメージだった場合、佳奈とるかはすごく気まずいのではないだろうか。

 いや、それならわざわざるかを呼ぼうとしないか……?

 不安になることは多かったが、それをるかに尋ねても「わたしにもわからねえよぉ! わたしが聞きたいよぉ!」と泣き叫ぶだけだった。



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