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好きな人が義妹になった  作者: 西織
それぞれの想いと
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 時間は、少し遡る。

 望月るかは、小山内理久の幼馴染だ。

 昔からの付き合いで、幼馴染で、女友達で、姉弟のような関係。

 物心ついたときからいっしょにいるし、過ごす時間も長かったので、下手な親戚よりも家族っぽいだろう。


 そう。友人というより、家族と言ったほうがしっくりくる関係だった。

 けれどあくまで、家族のような他人ではある。

 それとは逆で、理久には最近、他人のような家族ができた。

 るかと違い、本物の兄妹ができたのだ。

 本物、と言っても、戸籍上のだが。


 その子は、るかの前を歩いている。

 羨ましくなるくらい、綺麗で長い髪を揺らしていた。

 秋らしい爽やかな服装がとても似合っていて、スタイルも良い。

 だれもがはっとするような美人で、彼女の顔の造詣はるかも好きだ。

 あまりにも綺麗なうえに、同性同士の気安さでついじろじろ見てしまい、「なんですか、るかさん」と恥ずかしそうにされることもよくある。かわいい。顔も好き。


 そして、今時、びっくりするくらいのいい子。

 可愛がりたくなるような、可愛げのある子だ。

 るかの好みからは若干外れているので恋愛対象ではないが、友人としては大好きだし、第一印象から惹かれていた。

 それと同時に、「あぁ、こりゃ理久が惚れちゃうのも仕方ねーや」と思うほど、魅力的な女の子である。

 昔から思っていることだけれど、理久と好みが被らなかったのは幸運だと思う。純粋に応援できるし。

 そして彼女は、るかに新しい恋を運んできた。


 るかの本命は、彩花の隣を歩く少女。

 彩花の友人である、宮沢佳奈だった。 

 彼女はるかよりも頭ひとつ分くらい小さい身長で、まっすぐな目で彩花を見ている。

 肩に届く程度の髪、猫のような切れ長の瞳。顔立ちは彩花と比べると、かなり幼め。

 服装は長袖のTシャツにオーバーオールというかなり子供っぽい格好だが、中学三年生ならこんなものかもしれない。

 何を着ても大人びる彩花がちょっと特別なだけで。

 でもその子供っぽい格好が、やけに似合っていてとてもかわいい。

 かわいい。

 隣にいるだけで、顔がふにゃふにゃしてきそうになる。


 彼女こそがるかの想い人であった。

 そんな彼女が隣におり、いい子なうえに自分に懐いてくれる彩花もいっしょにいる。

 この三人で出掛けているのだから、心が弾んでもおかしくないのだが。

 るかの心は完全に曇り空だった。


「ねぇ、佳奈……。なんで、わざわざ三人でコンビニに?」


 彩花が佳奈にそう問いかける。

 表情は不安そうで、不可解そうだった。

 これはきっと、佳奈には何か思惑があるんだろうなあと、薄々気付いている。


「いいじゃない。女子だけでしか話せないこともあるし」


 佳奈はしれっと答える。

 これ以上突っ込まれたくないのか、「ねぇるかさん」と佳奈がこちらを見た。

「あー、うん、そうね」とるかは微妙な返事しかできない。

 心配が勝って、受け答えも上の空だ。

 だって、小山内家には今、理久と後藤のふたりきり。

 恋敵がともにいるのだから。


 この日は、小山内家で勉強会をしていた。

 るか、理久、佳奈、彩花、後藤の五人での勉強会である。

 佳奈が後藤を呼んでいる時点で、もういろんな思惑の香りがぷんぷんである。

 そして今は、佳奈の「ちょっとコンビニに行くから、ふたりとも付き合って」という怪しすぎる提案により、女子三人でコンビニに向かっている。

 こんな露骨なことでもついやってしまう、佳奈の向こう見ずなところが眩しく、そこに惹かれている部分はあるのだが、暗い気持ちにはなる。

 いっしょに出てきたはいいけど、どうしたもんかな、と頭を悩ませていた。


「るかさん。ちょっといい?」


 すぐ隣に佳奈がいて、どきりとする。 

 彩花をちらちら警戒しながら、こちらに身体をくっつけていた。

 内緒話をしたいのか、顔が近い。

 うぅん、やっぱりかわいい。やっぱ好きなんだよなぁ~……。


「なに?」


 るかは平静を装って返事をする。

 すると佳奈は、さらりとこう言ってきた。


「協力してもらえませんか」

「なにを?」


 しらばっくれる。

 見当なんて思い切りついているが、このままはぐらかせないかなあ、と心の片隅で考えていた。

 まぁ無理なんだけど。

 察しの悪いるかに若干の苛立ちを見せて、佳奈は早口でまくしたてる。


「わかるでしょう? 彩花と後藤くんのことです。わたしは、ふたりにいっしょになってほしいの。あのふたり、良い感じだと思わないですか? 後藤くんは彩花を大切にするでしょうし、彩花も後藤くんのことを悪くは思ってないです。きっと、いい恋人同士になる」


 彼女が面白半分で行っているのなら、お節介なことはやめなよ、と注意していたかもしれない。

 しかし、『後藤の友人』としての行動なら、批難されるものではなかった。後藤からも、とても感謝されているだろう。

 こういうことはよくある話だ。

 恋愛で両想いなんてそうはなく、大抵は片方の一方的な恋慕から始まるもの。あとはいかにアプローチするかで、その先が決まってくる。

 そういう意味では、彩花はまるきり脈なしというわけではないし、後藤も悪い人間ではない。

 佳奈が後藤に協力するのは、それほどおかしなことではなかった。


 遊び半分で「わたし、よく恋のキューピッドやってるの~」と人をくっつけたがる奴もいるが、そういう人たちとは全く違う。

 そもそも、その佳奈とのキューピッドを彩花に頼んでいる時点で、るかには何も批判できない。

 

 佳奈、彩花、後藤だけの関係ならば、きっと全く問題はない。

 ただ。

 そこに、小山内理久の視点が入るから、ややこしくなるのだ。

 どうあってもるかは理久の身内だから、そっちに肩入れしたくなる。

 それゆえに、どうしても佳奈には協力できず、かといって強く否定もできず、どっちつかずな態度になってしまう。


「ううん。でもそれはさぁ、彩花ちゃんが決めることじゃないかなぁ。当人同士の問題だから、あんまり首を突っ込まなくてもいいんじゃない?」


 るかはやんわりと逃れようとする。傍観者になろうとした。

 すると、佳奈は明らかにむっとした表情を作る。(かわいい)

 すぐに、るかから彩花に視線を移した。


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