2話‐4
「お前の新しい力とやらが、すこーしだけ凄いのはわかった! だけどなぁ! たった一人でオレとブレイズライダーという最強コンビを相手にするには、力不足だぜ!」
「おい待て、お前とコンビを組んだ覚えはないぞ」
勝ち誇ったように叫ぶソニックライダーに、思わず突っ込みを入れてしまう。
……ま、まあ、コンビ云々はひとまず置いておくとしても、シャイマーが多少強くなったところで二人で相手をすれば負ける事は無い筈だ。
「……くっくっくっ。お前たちはもう一つ、勘違いをしている」
しかし、不利な状況にも関わらずシャイマーは不適に笑う。
「勘違い? ひょっとして、実は鮫じゃないのか?」
「違う! オレは鮫。鮫のように強いシャイマー! そして、これがオレの新たな力だ!」
シャイマーが叫ぶと、その身体から黒いもやが飛び出して周囲に広がる。
いくつかの塊に別れた黒いもやは、次第に人の形を成していった。
「な、何だこいつら!?」
「オレにはもう、簡単に気絶して目を醒まさない役立たずの仲間なんていらねえってことだ!」
困惑する俺の問いをシャイマーは無視して倒れた仲間たちを罵倒すると、周囲の影たちがこちらに向けて動きだした。
「自分でけしかけた仲間にその言い種かよ!」
シャイマーの自己中心ぶりを責め立てながら、迫る影を殴りつける。
殴り飛ばされた影は地面に倒れ混んだ後、黒いもやに戻って霧散すしていった。
「癪に障る言い方だけどな、オレは悪くねえ! 役立たずのあいつらが悪い! あんな奴等より、オレの『影分身』の方が余程役に立つぜ!」
俺の言葉を聞いてなお、シャイマーは自分の過ちを省みる事なく吠え散らかす。
どうやらこの影は、影分身というそのままの名前らしい。
「大きな口を叩いてるけど、全然大した事ないな!」
軽口を叩くソニックライダーはピストルを構え次々に影へと光弾を放ち、撃退していく。
ソニックライダーの言う通り、こいつら単体ではそんなに強くない。
しかし、こいつらが厄介なのはそこではない事にすぐ気付かされる。
「大した事ないかどうか、これを見ても同じ事が言えるかな!」
シャイマーの言葉と同時に霧散していく黒いもやの一部が集まりはじめ、再び影分身となり襲いかかってくる。
「くっ……数が多い上に、倒しても湧いてくるのか」
襲いかかる影分身を迎撃するが、再び現れる影分身を見て思わずボヤいてしまう。
「これくらいで弱音を吐くなんて、ひょっとして先輩、余裕な――うわっ!?」
「余所見してる暇があるのか!」
相も変わらず軽口を叩くソニックライダーだが、近づいてきたシャイマーの攻撃により遮られる。
「おい!? 大丈夫か!」
すぐさま周囲の影分身に炎を放ち焼き払うと、ソニックライダーを助けるべくシャイマーの背後から殴りかかる。
「そう何度も簡単には殴られてたまるか!」
シャイマーは俺の拳を受け止めると、おかえしとばかりに勢いよく腕を振るう。
「す、スーツが!?」
シャイマーの腕が俺のスーツを掠めると同時に、スーツの一部が切り裂かれる。
咄嗟に上体を反らしたことで致命傷は避けたが、まともにくらっていたらヤバいというのはわかった。
「フカヒレブレードの切れ味はどうだ! 次はお前の身体を上手に捌いてやる!」
シャイマーは腕から生えたヒレのような物を一撫でする。
どうやらあのヒレでスーツを切り裂いたらしい。
「見た目がふざけてるなら、名前までふざけやがって!」
「ふざけてなんかない! 本当はストームガールをこの力最初の餌食にしてやりたかったが、一応ヒーローのようだしお前から血祭りだ!」
シャイマーは両手を掲げ、こちらに突撃してくる。
「一応じゃなくて、ちゃんとヒーローだ!」
攻撃を防ぐべく、シャイマー目掛けて炎を放つ。
防御にしては少し過剰な気がしないでもないが、大分タフになってるみたいだし、これくらいなら構わない……と、思いたい。
「この程度の炎で、オレを止められるかぁ!」
しかし、シャイマーの力は俺の予想を上回ってきた。
両腕のヒレで炎を切り裂き、その勢いのまま俺に肉薄してくる。
「くっ……」
シャイマーが振るうヒレを、腕で受け止める。
プロテクターが付いてるおかげでスーツの破損は防げるが、衝撃までは殺しきれず強い振動が腕に伝わってきた。
「先輩! 今そっちに――うおっ!? 邪魔だな、こいつら!」
ソニックライダーがこっちに駆け出そうとしてくるが、行く手を影分身に塞がれm思うように動けないようだ。
「ソニックライダー! お前はそいつらの相手に専念してろ!」
ソニックライダーがいつからヒーロー活動を始めたのかはわからないが、今までの口振りからしてそんなに長くない筈だ。
少なくとも、俺よりは経験が浅い。
なら、あまり無茶な事をやらせる訳にもいかないし、シャイマーは俺が倒す!
「おらぁ!!」
受け止めていたシャイマーの腕を振り払い、両腕に炎を宿して殴りつける。
「熱っ!? よくも――ぐっ! ぐえっ!? ま、待て――ぶへっ!?」
熱さに怯みながらも態勢を整えようとするシャイマーだが、そんな暇を与えるわけがない。
炎を纏った拳で間髪入れずに殴り続ける。
「ハァッ!!」
シャイマーがふらつきはじめたところで、一際強く殴って吹き飛ばす。
「く、クソ! 少しくらい手加減――」
「まだ終わってねえよ!」
悪態を吐こうとするシャイマーを遮るように、両腕をシャイマー目掛けて突き出し、纏わせていた炎を放射する。
「ぐ、くわァァァ!?」
「これでトドメだ!」
炎に巻かれて叫ぶシャイマーをよそに、俺はその場で地を蹴り飛び上がり、炎を宿した右足をシャイマー目掛けて突きだす。
「ハァァァ!!」
雄叫びを上げながら、シャイマー目掛けて飛び蹴りを放つ。
奴がどれだけタフだろうとも、この一撃を受ければ只では済まない筈だ。
……しかし、俺の足がシャイマーを捉えようとしたその時、奴の姿が視界から消える。
「な、何だと!?」
飛び蹴りを躱され地面に着地した俺は驚きながらも周囲を見渡し、シャイマーの姿を探す。
「はぁ、はぁ。あ、危ないところだった」
上から聞こえた息切れした声に反応して頭上を見上げると、そこには肩で息をしながら宙に浮くシャイマーの姿があった。
「と、飛んでる!? そんなのありか!?」
「何を言ってる! 鮫の力を持っているのだから、空を飛ぶのは当たり前だ!」
……確かに奴が以前使役していた宙泳海獣フライングシャークら空を飛んでいた。
だけど、シャイマーまで飛ぶのは流石に反則だろう!?
驚きのあまり僅かに硬直してしまうが、遠くから聞こえてきたパトカーのサイレンによって正気を取り戻す。
「も、もう少し遊んでやってもいいが、どうやら潮時みたいだ。ずらからせてもらう!」
シャイマーも警察が近づいてきている事に気付いたようで、宙に浮いたまま俺に背を向け逃げ出そうとする。
「待て! 逃がすと思って――うわっ!?」
シャイマーを逃さないようすぐさま炎を放とうとするが、横から飛びかかってきた影分身に邪魔をされたことで狙いが外れてしまう。
「くっ、邪魔をするな!」
覆い被さり地面に押し倒そうとする影分身に炎を放ち払いのけ、シャイマーを逃すまいと立ち上がる。
「畜生、逃がしたか」
……再び頭上を見上げた時には、既にシャイマーの姿はなかった。
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