2話‐3
「おお、怖い怖い。さて、ああ言ってるけどどうする先輩?」
ソニックライダーはピストルを持ったままの両手を上げて降参のポーズをとりながらも、言葉とは裏腹に軽い口調で話しかけてくる。
「さあね。そういうお前こそ、どうするつもりだ?」
「オレ? オレはあいつらを倒すだけだ!」
ソニックライダーはそう言うと持っていたピストルを強盗犯に向け、引き金を引き光弾を放つ。
「今すぐ撃て! こいつ等ののいいように――あつっ!?」
リーダー格の強盗犯は仲間に指示を飛ばすが、俺の超能力によってピストルを持つ手が突如として燃え上がった事に悲鳴を上げた。
同時に俺は、自らに迫る光弾へと火球を放って相殺する。
「ぐわっ!?」
更に強盗犯の悲鳴が響き渡る。
悲鳴のした方に視線を向けると強盗犯の一人に光弾が直撃したらしく気絶しており、身動きが出来ないようにソニックライダーが羽交い締めにしていた。
さっきまで俺の近くにいた筈なんだけど、一体どんな超能力なんだ?
俺はそんな事を考えながら、一番近くにいた強盗犯を殴りつける。
「このピストル、気に入ったぜ。お前達のような悪党には勿体無いから、オレが正義の為に使ってやる。ありがたく思えよ!」
ソニックライダーはニヤリと笑いながらそう言うと、強盗犯達目掛けて発砲する。
しかし、銃を使いなれていないのか明後日の方向へと飛んでいく光弾が多数。
それだけならまだ良いのだが、逃げ遅れた人達の方へと向かう光弾もあるではないか。
「馬鹿! 無闇矢鱈に撃ってんじゃねえ!」
即座に炎を放ち、逃げる人々に向かう光弾を何とかかき消す。
「固いこと言わないでくれよ。そう言う先輩だって、放火しまくってるじゃん? それに――」
「俺はちゃんと周囲に被害が出ないように考えてる! お前と一緒にするな!」
強盗犯を倒しながら、ソニックライダーを怒鳴りつける。
実力は確かみたいだけど、ヒーローとしての意識というか、志しというか、そういうものが足りないように感じてしまう。
とはいえ、今はそういうことを気にしている場合でもない。
自称ヒーローの後輩に若干の不信感を抱きながらも、俺はソニックライダーと一緒に残りの強盗犯を倒していく。
「よ、ようやく消えたけど、何で火傷してないんだよ……まあいい、早くあいつらを倒して逃げないと――」
「誰を倒して逃げるだって?」
俺の放った火を消し、ようやく一息ついたという様子のリーダー格の強盗犯へと声をかける。
「ば、馬鹿な! 他の奴等はどうした!」
「皆お寝んねしちまってるよ。後はお前だけって訳だ」
慌てた様子の強盗犯に、ソニックライダーが今の状況を教えてやる。
「……くっ、役立たずどもめ。こうなったら、オレの新たな力を見せてやる!」
強盗犯は立ち上がりながらそう言うと、俺たちから距離をとるように後退る。
「新たな力だ? どんなものか気になるね」
ソニックライダーはニヤリと笑いながら強盗犯を挑発する。
……俺が言うのも何だけど、口数が多いな。
「挑発するのもいいけど、油断するなよ。どんな超能力かわからない――」
「その点は安心していい。その男は限定された状況下でしか超能力を使えない」
ソニックライダーへの忠告を、聞き覚えのある少女の声が遮る。
「多田さ……博士!? 何でここに!? 危ないから早く逃げろ!」
声の主は、先程まで俺と一緒にいた多田さんその人。
危ないから喫茶店にいろと言ったのに、何でここにいるんだ!?
「やあ、ブレイズライダー。何でかと言われたら、知り合いがこっちの方に走っていったから追いかけてきたんだ」
……要するに、多田さんがここにいるのは俺が原因かよ。
「お二人さん、知り合いか? まあ、どうでもいいけど。それよりもあんた、こいつの超能力がどんなものなのかわかるのか?」
「ボクはあんたじゃなくて、多田文っていう名前がある。その男は鮫島といって、少し前に『シャイマー』と名乗って暴れてたところを楓花ちゃん……ストームガールに倒され、刑務所に入れられたんだ」
多田博士の説明に、以前見た事のあるニュース、そしてなにがあったのかを思い出す。
「思い出したぞ。こいつの超能力は、『鮫を操る』事だ。こいつ自身よりも、制御不能になって暴れまわってた怪獣『フライングシャーク』が印象に残ってる」
「流石ブレイズライダー、よく知ってるじゃないか。ボク的にはフライングシャークを抑え込み、海に返した楓花ちゃんの雄姿が印象深い。鮫島はこの前の刑務所襲撃事件の混乱に紛れて脱獄した囚人達の一人だけど、まさかのこのこ間抜けに姿を現すとはね」
「周囲に鮫なんていないってことはつまり、こいつはなんの超能力もないって訳か。そんなんでよくオレ達に大きな口を叩けたな。まあ、脱獄犯を捕まえたって事はかなりの手柄だろ。ヒーローとしての大きな一歩だ」
後半の戯言は聞かないにしてもソニックライダーの言う通り、近くに水辺も無いしシャイマーの超能力は何の意味もない筈だ。
「……くっくっくっ。お前達、いくつか勘違いしてるみたいだな」
しかし、シャイマーは窮地に陥ってるのにも関わらず不敵に笑う。
「勘違い? どういうことだ!」
「まずピストルしか手に入れられなかったんじゃなくて、こいつさえあればピストルだけで充分だって事。そして、今までのオレとは、一味違うって事だ!」
シャイマーはそう叫ぶと、懐から髑髏のレリーフが彫られたプレートを取り出し、自らの腹部に宛がう。
次の瞬間、プレートから黒いもやが吹き出し、シャイマーの全身を包み込んだ。
「な、何だアレは!? 何が起きてる!?」
多田博士が驚くと同時に黒いもやが霧散しシャイマーが姿を現すが、その姿は大きく変化していた。
下半身こそ人のそれだが、腹部には先程の髑髏プレートが埋め込まれており、一回りほど太くなった腕には大きなヒレのようなものが付いている。
そして肩から頭部にかけては、輪をかけて大きな変化が起きていた。
「さ、鮫か、アレ?」
ソニックライダーの言う通り、シャイマーの頭は鮫のように変化していた。
「これがオレの新しい力! オレ自身が鮫になる事だ!」
異形の姿と化したシャイマーはそう叫ぶと、俺達目掛けて駆け出してきた。
俺やソニックライダーはともかく、多田博士の身が危ない。
咄嗟に彼女を抱き寄せると、シャイマーの突撃を避けるべくその場から飛び退く。
「珍妙な姿になったからといって、オレに勝てると思ってんのか!」
そして、ソニックライダーは避けようともせずシャイマーを迎え撃った。
「博士、怪我したりしてないか?」
ソニックライダーがシャイマーの相手をしている隙に、二人から距離をとって多田博士を放しつつ彼女に無事かを問いかける。
「あ、ああ、問題ない。ブレイズライダー。助けてくれると信じてたよ」
「そりゃあ光栄だけど、次は間に合うかわからない。君の知り合いを見かけたら逃げるように言っておくから、君は逃げてくれると助かる」
頼られて悪い気はしないけど、いつでも上手くいくとは限らない。
「この野郎、変な格好の癖に良い動きしやがる!」
「ククク、この力さえあれば、誰にも負ける気はしねえ!」
ソニックライダーと戦っている様子を見るに、シャイマーの身体能力は明らかに上がっている。
次に襲われた時、彼女を守りきれる保証はない。
「そうだな、大人しく逃げさせてもらうとしよう。ブレイズライダー、君の幸運を祈るよ」
多田さんは俺の言うことを素直に聞き入れ、この場から離れる為に駆け出していく。
彼女はこれで大丈夫だろう。
後は、シャイマーを倒すだけだ。
「うおりゃぁぁぁ!」
雄叫びを上げ、ソニックライダーと格闘しているシャイマーへと飛びかかり、炎を宿した拳を振り抜く。
「シャアクッ!?」
意識外からの攻撃に対応できなかったシャイマーは、妙な悲鳴を上げながら吹き飛ばされていった。
「先輩! あの子は大丈夫?」
「ああ、素直に逃げてくれた。後はこいつをどうにかするだけだ」
声をかけてきたソニックライダーに返事をしながらも、視線は起き上がるシャイマーから移さない。
今の攻撃で倒れてくれていればよかったのだが、どうやら身体能力だけでなくタフさまで向上しているみたいだ。
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