2話‐2
その後の勉強会もやたらと重々しい空気が漂い、俺はやたらと名字を強調して呼んでくる多田さんに居心地の悪さを覚えながらも勉強する嵌めになってしまった。
そして勉強会が終わった後、何とか多田さんの事を思い出そうとしたのだが結局、彼女の事は一週間以上経った今でも思い出せてない。
「なあ火走君。さっきから上の空みたいだけど、ちゃんと話を聞いているのか?」
多田さんと会った場所近くの喫茶店。
テーブル席の向かい側で、多田さんが呆れたような様子で問いかけてくる。
「ご、ごめん、ちょっと考え事してた」
「まったく、昔はもう少しかっこ……その、シャキッとしてたのに、どうしてそんなに腑抜けてしまったんだい?」
喫茶店に向かう時からお互いに飲み物を注文するまでずっと考え事をしていた俺にも非があるとはいえ、いきなり腑抜け呼ばわりとは失礼だな。
しかし、少し気になる事ができた。
「俺が腑抜けかどうかは置いといて、多田さんから見て昔の俺ってどんな奴だったんだ?」
あまり昔の事を思い出さないようにしているから、昔の自分……特に、両親と一緒に事故に遭う前の自分がどんな性格をしているのかよく覚えていない。
今まであまり興味が湧かなかったけど、多田さんがここまで言うせいで自分がどんな奴だったのか、少し興味が湧いてきた。
「……そ、そんな事、何でボクに聞く? 自分で思い出せばいいだろう!」
俺の問いに、多田さんは少し間を置いてから少し焦った様子で返事をする。
多田さんのこの様子、昔の俺は一体どんな奴だったんだ。
「悪いけど、自分で思い出せないから聞いてるんだよ。多田さんは昔の俺をよく知ってるみたいだし、君が教えてくれれば俺も多田さんの事を思い出せるかもしれないだろ?」
「……確かにそうかもしれないけど、嫌だ」
多田さんは渋い顔をした後、そっぽを向きながらそう言い放つ。
「嫌だって、どうして?」
「嫌なものは嫌なんだ。大体、すぐにボクに教えて貰おうっていう根性の無さが気に入らない。もう少し自分で頑張って思い出せ」
何故だかわからないが、多田さんは少し怒ったような様子でそう言うと、手元のアイスコーヒーを一気に飲み干す。
コーヒーと一緒に渡されたミルクや砂糖に、手をつけないまま。
「……うぇっ。苦い」
案の定、多田さんは渋い顔をしながら呟く。
「何も入れてなかったんだから、そりゃあ苦いに決まってる。店員さん、アイスミルク一つ」
顔をしかめている多田さんを横目に近くを通りかかった店員さんを呼び止め、口直しにミルクを注文する。
……少ししてから届いたミルクを多田さんが一口飲むと、彼女の表情から渋みが消える。
「……ふぅ、ありがとう。中々気が利くところもあるじゃないか」
「それは良かったと言いたいけど、随分と上から目線の物言い――」
「うわぁぁぁ!」
多田さんの様子に思わずぼやいてしまうが、店の外から響いた悲鳴にかき消されてしまう。
外の様子を浮かべみると、逃げ惑う人々の姿が窓越しに見えた。
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
俺と同じように外の異変に気付いた多田さんをよそに、俺はスマホを弄ってSNSのアプリを開いてニュースを調べる。
……どうやら、夏休み最後の休日もここで終わりのようだ。
「この辺りで強盗事件が起きたらしく、強盗が銃器を持って暴れまわってるみたいだ」
「成る程、だからこんなに騒がしい――待て、どこに行くつもりだ?」
立ち上がる俺を、多田さんが呼び止める。
彼女は俺がブレイズライダーだと知らないわけだし、当然の反応だよな。
さて、どう言い訳するかな。
「……ちょっとトイレに行ってくる。外は危ないから、多田さんはここで少し待ってて」
結論、適当に言い訳して煙に巻く事にする。
「そうか、トイレはそっちじゃないけど――」
まだ追及をやめない多田さんを無視し、俺は店の外へと飛び出した。
後々面倒な事になりそうだけど、その時の事は未来の自分に任せてしまうに限る。
逃げ惑う人々の流れに逆らい数分ほど走り続けると、数人の武装した人影が視界に映った。
俺は此方に注目している人がいないのを確かめると、ブレイズドライバーを取り出し腹部にあてがう。
「よし、そろそろ引き上げるぞ! 警察やヒーローに嗅ぎ付けられたら厄介だ!」
「了か――あびゃっ!?」
俺がベルトのレバーに手をかけ、リーダー格らしき強盗犯が撤退の指示を飛ばした瞬間、一人の強盗犯が呻き声をあげながら吹き飛ばされる……突如として現れた、ソニックライダーによって。
「残念だけど、判断が遅かったな。お前らの言うところの厄介なヒーロー、ソニックライダー参上! さあ、お前達全員――うわっ!?」
ソニックライダーは続けて何か言おうとするが、自身に向けて放たれた光弾に驚きの声をあげた事で中断されてしまう。
驚きながらも光弾を躱しきるあたり、実力自体はそれなりにあるみたいだ。
「ちっ! 避けられたか。だけどな、数ならこっちの方が上なんだよ!」
いち早く銃撃したリーダー格の強盗犯の言葉に、正気を取り戻した周囲の強盗達もソニックライダーに銃を向ける。
「……変身」
さて、いつまでも傍観している訳にはいかない。
俺はスーツを身に纏いながら、戦闘の行われている最中へと駆け出していく。
そして、銃口から光弾がソニックライダー目掛けて放たれると同時に、俺は強盗犯の一人を殴りつけた。
「ぶ、ブレイズライダー!? このやろ――ぶべらっ!?」
俺に気付いた強盗犯が此方に銃口を向けるが、いつの間にか光弾を避けて近づいていたソニックライダーに蹴り飛ばされる。
「よお先輩。今日はオレの方が早かったな」
「今日はオフの予定だったんだよ。それよりも、一斉に撃たれてよく無事だったな」
ソニックライダーは俺に声をかけながらも近くにいる強盗犯を殴りつけ、俺も強盗犯を相手取りながら返事をする。
「そりゃあ、オレの超能力をもってすればこの位余裕さ」
「そうか。それは結構な事だけど、後ろには気をつけろよ」
自信ありげに語るソニックライダー。
その背後に迫っていた強盗犯に火球を放ちながら、俺自身の背後に近寄ってきていた強盗犯を裏拳で気絶させる。
「尊敬する先輩からの言葉だし、心に留めておく事にしよう。それよりも、こいつら結構良い物持ってるじゃないか。どこからこんなの調達したんだ?」
ソニックライダーは強盗犯の持っていたエナジーピストルを二挺拾い上げ、興味深そうに眺めながら疑問を零す。
「ライフルとかガトリングが出てこないだけ、以前よりはマシだ。ピストル位しか持ってないあたり、大した奴等じゃ――」
「ごちゃごちゃと喋りやがって、癪に障る奴等め!」
少し前はもっと銃器が出回っていた事を愚痴ろうとするが、リーダー格の強盗犯の言葉に遮られる。
視線を向けてみれば、エナジーピストルを此方に向けて構えており、いつでも撃てるような状態だ。
「動くなよ! 動いたら撃つ!」
未だに意識のある強盗犯達も、俺達に銃口を向けている。
何人か倒したとはいえ、数的有利は未だに強盗側にあるか。
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