1話‐5
「な、何がおきた!?」
次々に仲間が倒れ、最後に残った強盗犯がナイフを構えながら叫ぶ。
どうやら、誰かが助けに来てくれたらしい。
攻撃の様子からしてクロガネではなさそうだし、連絡を受けてストームガールが駆けつけてくれたのか?
「何がおきたかだって? 知りたいのなら教えてやる!」
男の声が高らかに響き渡ると、最後に倒れた強盗犯の近くに白と緑のライダースーツを身に纏った男が姿を表す。
口元だけを露出し、目元をバイザーで隠したヘルメットを被っているせいでどんな顔なのかはわからない。
ストームガールでないのだけは確かだ。
「見ての通り、このオレの超能力でお前の仲間は一網打尽にされたのさ!」
「ちょ、超能力――ぐあっ!?」
強盗犯が男に注意を奪われている隙に近づき、ナイフをはたき落とす。
「残念だったのは、お前の方だな」
そして痛みに呻く強盗犯へと、容赦なく蹴りを叩き込み戦闘不能にする。
「流石ブレイズライダー! オレに気を取られてる隙を狙うとは、抜け目が無いな!」
……危なかった。
いきなり乱入してきたこの男がいなければ、どうなっていたかわからない。
「お、おいおい。何でオレに向けて身構える!?」
それはそうと、こいつが何者かわからない以上油断する訳にはいかない。
男に向き直ると、いつでも戦えるように構えながら拳に炎を灯し、声をかける。
「お前、何者だ? 何の目的でここに来た?」
「目的って、あんたと同じようにヒーローとして悪党退治をしただけさ」
俺が問いかけると、男は慌てふためくのをやめて口角を上げながら返事をする。
「ヒーロー? お前のことは見たことをないけど、何ていう名前だ?」
「見たことないのは仕方ない。三日前にヒーローになったばかりだからな。それに、名前もまだ決めて――」
「動くな!」
質問にペラペラと素直に男が答えるなか、叔父さんの声と発砲音が響く。
「ぐっ!? この野郎、覚えて……ろ……」
叔父さんの持つ拳銃から放たれた光弾は、先程俺が倒した筈の強盗犯に当たり、強盗犯は恨み言を言いながら気絶する。
その手には、隠し持っていたと思われるエナジーピストルが握られていた。
「こいつ、まだ意識があったのか。助かったよ」
「ようやく発砲許可が降りて、ちょうどその男が抵抗しようとしていただけだ。それに、助けられっぱなしというのも癪だからな」
叔父さんは俺の言葉に表情を変えることなく返事をすると、構えたままのエナジーピストルの照準を男に向ける。
「さあ、次はお前だ。おとなしく――」
「よし、決めた! オレの名前はソニックライダーだ! これから宜しくな、先輩!」
叔父さんの言葉を遮って、男はソニックライダーと名乗りだし、おまけに突拍子も無い事を言い始める。
銃口を向けられてるというのに、のんきすぎやしないか?
「せ、先輩? いきなり何を言ってるんだ>」
「そりゃあんたがオレが憧れてるヒーローだし、先輩呼びもするさ。そうだ! 今日から一緒に活動するんだから、チーム名も決めないと――」
「そこを動くな! 動くと撃つ!」
ソニックライダーが意味不明な事を口にしながら俺に近寄ろうとした瞬間、叔父さんが叫ぶ。
恐らく、最後の警告だろう。
「うーん、今日は邪魔者もいるみたいだし、話はまた今度にするか。それじゃあまたな、先輩」
「お、おい! またなって……話は終わってないし、動くなと――うわっ!?」
勝手に立ち去ろうとするソニックライダーを呼び止めうとするが、突如として巨大な黒い影が上空から降ってきたことで遮られてしまう。
「こ、今度は何だ!?」
『約束通り来たぞ! さあ、強盗犯はどこだ……って、まさかもう終わったのか?』
動揺する叔父さんをよそに黒い影もとい、クロガネが辺りを見渡しながら問いかけてくる。
「あ、ああ。いきなり訳のわからない奴が味方してきたりしたけど、何とかなったよ」
「訳のわからない奴? まさか、警察の事を言ってるんじゃないだろうな?」
俺の返事に、クロガネが再び問いかけてくる。
何故かわからないが、妙な誤解をしているようだ。
「何を言ってるんだ。ここにいる――えっ!?」
誤解を解くべくソニックライダーの方へと振り返った俺は、驚きのあまり声を上げる。
少し目を離した隙に、ソニックライダーがいなくなっていたのだ。
慌てて辺りを見渡すが、ソニックライダーの姿は影も形も無い。
「逃げただと!? いつの間に!? ……俺は辺りを探すから、皆は後処理を頼む。お前達は、用が無ければ早く帰るんだな」
俺と同時に叔父さんもソニックライダーがいなくなった事に気付いて慌てるが、すぐに周りの警官に指示を出し、ついでとばかりに俺達にも声をかけるといなくなったソニックライダーを探すべく立ち去っていく。
疾風のように現れて嵐の場を掻き回し、忽然と姿を消した新たなヒーロー、ソニックライダー。
……俺と一緒に活動するなどと不穏な事を言ってた辺り、また会うこともありそうだ。
『詳しい話は後で聞かせてもらうとして、文は無事なのか?』
そうだ、ソニックライダーのせいで肝心な事を忘れていた。
「すまない、まだ合流できてない。多分そう遠くにはいない筈だから、探してくる」
『……俺は迎えが来るまで待ってる必要がある。クロガネを着込んだまま歩き回ったり、放置して離れる訳にもいかないからな。悪いけど、後は頼んだ』
クロガネの言葉を背に受け、俺は駆け出す。
……さっきの叔父さんの言葉通り、警察は俺がいなくなるのを邪魔をする事は無かった。
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