1話‐4
博士の足が思っていたよりも早かったのか、それとも別の道を通ってしまったのか。
駅にたどり着くまでに博士と合流する事は叶わなかった。
「お前達は包囲されている! 諦めて投降するんだ!」
そして俺は今、物陰に隠れて駅前の様子を伺っている。
駅前の広場で警察が盾と拳銃を構えながら強盗犯達を取り囲んでおり、諦めるように呼び掛けている。
「うるせえよ、ポリ公が! はいそうですかなんて言うわけ――」
「ぐあっ!」
強盗犯の一人が警察に言い返そうとするが、その言葉を遮るように閃光が迸り、警官の一人が呻きながら倒れる。
「うるさいのは、テメエもだ。喋る前に、さっさと撃てばいいだろう」
光線銃を撃った強盗犯が、先程まで喋っていた仲間に怒鳴り付ける。
「お、おい!? 大丈夫か! 全員、銃撃用意!」
警官の一人が撃たれた仲間を介抱しながら、他の警官に指示を出す。
……銃を構えていても中々発砲しない辺り、まだ発砲許可が降りてないようだ。
俺はその様子を伺いながら、正体がバレないように念のため目出し帽を被る。
そしてブレイズドライバーを取り出して腹部にあてがうと、ドライバーから飛び出したベルトが腰に巻き付くと装着完了。
ドライバーの側面に付いているレバーを回し、ドライバー内で散った火花を俺の超能力で燃え上がらせると、ドライバーの覗き窓から赤い光が洩れだす。
「……へ、変身」
そう呟くと同時に俺の身体が一瞬だけ赤い光に包まれる。
光が収まると、俺の身体には赤と黒のヒーロースーツが身に付けられていた。
自動で装着できるのは非常に便利なのだが、一々変身コードを言わないといけないのはどうにかならないものか。
……まあ、小声でも認識してくれるからまだマシなのかもしれない。
兎に角、戦う準備は整った。
俺は物陰から飛び出し、警官と強盗犯が戦っている広場へと駆け出す。
「ち、畜生! こうなったらやれるだけやってやる!」
仲間の凶行に覚悟を決めてしまったのか、最初に発砲した強盗犯以外の奴等も手に持った銃を構え、警察目掛けて発砲する。
「させるか!」
俺は点火装着を起動させ、飛来する光弾へと炎を放つ。
全ての光弾は炎にぶつかって消滅し、警察に被害を出すことは無い。
「おい、大丈――!?」
近くにいた警官に声をかけた俺は、言葉を失ってしまう。
……突然だが、俺の両親はある事情で俺が幼い頃から意識不明で入院しており、俺は叔父夫婦と暮らしている。
そして叔父の職業は警察官。
ここまで言えば、俺が言葉を失った理由はもうわかるだろう。
「ブレイズライダーか。本当ならすぐにでも逮捕してるところだが、そうもいかない」
俺が声をかけた相手は、勉叔父さんその人だったという訳だ。
……警察の中にはヒーローとして勝手に自警団のような活動してる俺の事を快く思ってない人もおり、叔父さんもブレイズライダーにはあまり良いイメージはないようだ。
それはともかく、逮捕したいけどできないって?
「今の口振りだと俺を逮捕できないみたいだけど、どういう事?」
「お前を邪魔しないようにという、上からの命令だ。俺としては気に入らないが、命令だから仕方ない」
炎の壁で強盗犯が放つ光弾を防ぎつつ、叔父さんの言葉について考える。
警察の上層部が、俺の事を黙認した?
……そういえば先日、博士と話した時に俺が今まで通り活動できるようにしておくと言っていたな。
多分、その結果なのだろう。
そういうことなら、俺も動きやすい。
「警察や市民に手を出した事はないんだから、いい加減信用してほしいけどな!」
叔父さんにそう言うと、強盗犯に近づくべく物陰を飛び出す。
「ひ、ヒーロー!? これでもくら――」
「させるかよ!」
こちらに銃を向けた強盗犯の元へ向かうと、銃を狙って腕を蹴り飛ばす。
痛みに腕を抑え込んでいる強盗犯に掴みかかると、腹部に膝蹴りを叩き込んだ後で払い飛ばした。
「お前、ブレイズライダーだな」
俺を呼ぶ声のした方へ振り向くと、最初に発砲した強盗犯が此方に銃を向けている。
「俺の事を知ってるのか。光栄だと言いたいけど、犯罪者相手に知られても――!」
まだ喋っている途中だというのに、強盗犯は容赦なく発砲。
話を途中で切り上げると、炎を宿した拳で放たれた光弾を叩き落とす。
「ごちゃごちゃと五月蝿い奴め」
「そいつは悪かったな。それじゃあ、さっさとケリをつけさせてもらおうか!」
強盗犯を無力化すべく先程と同じように銃を弾き飛ばそうとするが、俺が動くよりも早く強盗犯は銃を此方に放り投げた。
「自分から銃を捨て――うわっ!?」
予想してなかったとはいえ、飛来する銃を冷静に払いのけた俺が目にしたのは、ナイフを持って突っ込んでくる強盗犯の姿。
「おいおい、もう少しお喋りしてくれよ。今日がシャバにいられる最後の――うおっと!?」
振るわれるナイフを躱しながら強盗犯の調子を乱そうと声をかけ続けるが、強盗犯は俺の言葉に反応する様子を一切見せずにナイフを振るい続ける。
……こっちのペースに乗ってきてくれない上に、ナイフ捌きもかなり手慣れている。
何とか攻撃をかわす事はできているが、それで精一杯だ。
「今だ! さっさとこいつを撃て!」
攻撃の手を緩める事のないまま放たれた強盗犯の言葉に、他の強盗犯達の持つ銃の照準が俺を捉えるのが視界の端に入る。
ナイフを避けようとすれば光弾に当たってしまうし、光弾を防ごうとすればナイフを避けきる事ができない。
……仕方ないか。
「お前だけはここで倒す!」
目の前でナイフを振るっている強盗犯は、他の奴に比べて動きが冴えている。
この男だけでもだけでも何とかすれば、俺が倒れても後は警察が何とかしてくれる筈だ。
そう信じてナイフを持つ腕を掴みとるべく、強盗犯の懐に潜り込もうとする。
「そうか、残念だったな」
強盗犯の呟きが耳に入ると同時に、俺の腕が空を切り、腹部に痛みが走ると同時に吹き飛ばされて仰向けに倒れこむ。
……これくらいで諦めるわけにはいかない。
腹部の痛みに耐えつつ、反撃を仕掛ける為に起き上がる。
俺自身を犠牲にしてでも、奴だけは倒さなくちゃいけないんだ。
「こいつでとどめ――」
……俺の決意は無駄になった。
強盗犯の引き金にかけられた指に力が込められようとしたその瞬間、俺のすぐ側を白い影が通り抜ける。
そして、銃を持つ強盗犯達が一瞬の間に次々と倒されていったのだ。
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