1話‐3
「え、えっと……いつからそこに? というか、誰?」
「君がどういう事か説明してもらおうかって言ってる辺りから。俺は多田一成、文の兄だ。ブレイズライダーとは一度会ってた筈だけど、憶えてないのか? ……それよりも、こっちの質問に答えてくれないか?」
冷や汗をかく二郎とは対象的に、一成さんは落ち着きはらった様子で返事をする。
……そういえば、JDFの支部で彼を見かけていた。
クロガネという装甲服を身につけて一緒に戦ったヒーローの一人。
その場じゃ気づかなかったけど、博士のお兄さんだったか。
とりあえず、なんとかしないと。
「な、何の話をしてるのか、検討つかないな」
「……正体知られたくないから誤魔化そうとしてるのはわかるけどさ、もう手遅れ。素直に答えてくれ」
一応誤魔化そうとはしてみたけど、流石に無理か。
「こいつに勉強会に誘われてついてきただけ。多田博士の家だって知ってたら、ついてこなかった……です」
俺は諦めて二郎を指差しながら、事情を説明。
そして博士のお兄さんということは一成さんは年上だし、敬語を使っておこう。
「……ああ、そういえば文がそんな事言ってたな。だけど、本当にそれだけか? 文は随分ブレイズライダーの事を気に入ってるみたいだから、君を呼び出して迷惑かけてるんじゃないかと……」
一成さんは俺の説明を聞き、少し拍子抜けした様子で見当違いな事を口走る。
「め、迷惑なんてとんでもない。寧ろ助かってますよ。博士の作ってくれたスーツ、凄く使いやすいですし……というか、博士は俺の正体を知らないから、今日ここにいるのは本当に偶然です」
「ふーん、それならいいや」
どうやら納得してもらえたようだが、一つお願いをしておかなくてはならない。
「……すいません、俺がブレイズライダーって事は黙っておいてもらえますか? 正体がバレる可能性
は、少なくしておきたいんです」
「別に構わないけど、俺からも一つ君に……いや、君達に頼みがあるが、構わないか?」
俺の言葉を聞くと一成さんは、俺だけでなく二郎にも頼み事をしてくる。
二郎に視線を移すと奴も俺の方を見ており、目が合うと同時に二郎はこくりと頷く。
「頼みってなんですか?」
「文はかなり変わってる……いや、癖のある性格なのはもうわかってると思うけど、悪い奴じゃない。だから、友人として仲良くしてやってくれると有り難い」
一成さんはそう言うと、俺達に向けて頭を下げる。
「わ、わかったから頭を上げてください」
俺と二郎は突然の事に慌てながらも、一成さんの頼みを受けながら頭を上げるように言う。
「ありがとう。俺もこれで少し安心できる――」
一成さんが頭を上げてそう口にした瞬間、彼の懐からカン高い電子音が鳴り響く。
懐からスマホのような物を取り出すと、その画面を見た一成さんの顔つきが険しくなった。
「……それは?」
「事件が起きた時に教えてくれる通信端末。ヒーローチームに加入した時に渡されたけど、俺はまだ見習いだから無理に向かわなくてもいい……どうやら、強盗が発生して、犯人達が駅前の方に逃走しているらしい。一応準備しておくか」
説明を聞いて便利だと思ったのも束の間、最後の言葉に思わず目を見開いて驚く。
「……さっき、多田さんが鳥野さんを迎えに駅前に出掛けていったよな?」
そう、二郎の言う通り。
彼女たちが事件に巻き込まれてしまうかもしれない。
「お、おい! それは本当か!?」
「うわっ!? ほ、本当だよ!」
先程までの落ち着いた様子はどこへやら。
一成さんは慌てた様子で二郎に迫り、両手で肩を掴む。
「お、落ち着いて! まずは戻ってくるように伝えないと」
俺は一成さんを二郎から引き剥がし、博士と連絡をとるべきだと諭す。
「……すまない、少し焦ってしまった」
一成さんは申し訳なさそうにしながらスマホを取り出し、顔に近づける。
……十秒、二十秒と時間が過ぎていくが、一成さんは口を開かない。
「駄目だ、繋がらない」
ようやく口を開いて出た言葉は、事態を進展させるものではなかった。
電源が切れているのか、単純に気付いてないだけなのか、或いは電話に出れない状況。
何にせよ、こうなってしまえばやるべき事は決まっている。
「一成さん、二郎に博士の連絡先を教えてやってほしい。二郎は博士に電話をかけ続けてくれ。繋がったらすぐに戻ってくるように伝えて、俺にも連絡してくれ」
「連絡先ならもう知ってる。ショウはどうするつもりだ?」
二郎は頷いた後でスマホを取り出しながら、俺に問いかけてくる。
「俺は駅前に向かう。博士だけじゃなくて鳥野さんもいる筈だし、どのみち助けがいる筈だ。一成さんは俺と一緒に駅前へ行きましょう」
二郎が連絡をとれればそれでいいし、俺と一成さんで博士の後を追えば途中で合流できてもいい。
合流できなくても駅前まで行けば、俺と一成さんで強盗犯を相手にする事もできるし、これが今できる最善の策だと思う。
「そうしたいのは山々だけど、無理だ」
しかし、一成さんの口から出てきたのは予想してない返事だった。
「どうして!? 妹が危険かもしれないのに!?」
思わぬ言葉に、俺は声を荒げてしまいながら問いかける。
「……クロガネは家じゃなくて、JDFの支部に置いてあるんだ。いつもなら颯花に連れていってもらうんだけど、今日に限って県外に出てる。悪いけど、先に向かっていてくれ。後から必ず駆けつける」
一成さんは拳を強く握りしめ、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
そうだよな、すぐにどうにかできるんなら、もう動いてるよな。
「……わかりました。俺は博士の後を追いかけます。それじゃあ、また後で」
一成さんに一度だけ頭を下げ、俺は部屋の外へと足を向ける。
「ショウ! 大丈夫だと思うが気を付けろよ!」
二郎の言葉を背に、俺は家の外へと飛び出す。
バイクを使えば、すぐに追いつける筈だと考え、ポケットに手を突っ込み圧縮したバイクを取り出そうとする。
「……そういえば、今日はバイクを持ってきて無かったな」
暫くポケットをまさぐったところで、バイクを整備している途中だった事を思い出す。
一刻を争うというのに、無駄な時間を過ごしてしまった。
「ここで足を止めてる場合じゃないな」
バイクが無いのなら仕方ない。
俺は駅に向けて、自らの足で駆け出した。
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