6話‐4
「もう逃げ場はないぞ、スコーピオ!」
碓井の相手を音切に任せて電波塔の中へと逃げていったスコーピオを追いかけ、一般開放されている最上階の展望台よりもさらに上、屋上までスコーピオを追い詰めると、内に秘めた怒りのままに叫ぶ。
「逃げ場がないのはお前の方だ、ブレイズライダー! 予定どおり、ここでお前は死ぬんだよ!」
予定どおり、俺が死ぬ?
「やれるもんならやってみろよ! というか予定どおりって、ここを襲ったのは初めから俺を誘き寄せるつもりだったのか?」
今すぐにでもスコーピオへと殴りかかり衝動を抑えながら、奴の狙いを探る。
二郎に音切、そして多田さんも余計な心配をしてきたのは苛つくが、ここで策も無しに突っ込んでは奴の思う壺なのは事実だし、何とか冷静に状況を判断しなくては。
「この俺の最上の計画を聞かせてやろう! この街のシンボルにもなっているこの電波塔で、この街を守っているヒーローを倒せば最高に目立つだろう? それに、上を見てみろ!」
スコーピオから注意を逸らさないようにしつつ、上空へと視線を向ける……まあ、そこに何があるのかは音でわかっていた。
テレビ局のヘリコプターが、電波塔の屋上で対峙する俺達の様子を報道している。
「マスコミの前でお前を倒し、この電波塔をお前の墓標にしてやる。そうすれば街の奴らは俺という脅威に恐怖し、俺は復讐を果たして最高に満足できるって寸法だ!」
……自分が満足したいだけの、陳腐な計画。
態々聞いてやる価値もなかったか。
「そうか。じゃあ遠慮なく倒して、二度と馬鹿な事ができないようにしてやる。そして、お前の毒で苦しんでいる人たちを解放してもらうぞ!」
暫く我慢していたが、これ以上スコーピオの言葉を聞くのに耐えられないし残された時間も少ない。
手早くケリを付けるべく、奴の元へと駆け出す。
「毒で苦しんでる奴らを解放? 悪いが、それはできねえ。なんせ、俺にもどうすれば解毒できるかわからねえんだからな!」
スコーピオは両手のハサミを振るい、俺を迎え撃ってくる。
ハサミは封じた筈なんだけど、復活しているとは厄介な。
「それでも、お前は俺が倒す! 徹底的に痛めつけて、今までの事を後悔させてやる!」
怒りを言葉にしてぶつけつつ、ハサミをかわして隙を窺う。
ハサミに捕まればただではすまないだろうが、それ以上に厄介なのはハサミによる攻撃が牽制でしかないということ。
迫るハサミをかわすことに専念していると、毒針の付いた触手が伸びてきた。
毒を打ち込まれるのだけは、何としても避けなければならない。
「当たるかよ!」
触手を払いのけ、スコーピオの懐へ潜り込み蹴り飛ばす。
「くっ……痛めつけて後悔させるか。とてもじゃないが、ヒーローの言うこととは思えねえな!」
蹴られた部分を擦りながら、俺を煽るように叫ぶスコーピオ。
確かに奴の言う通り、ヒーローの言葉じゃないかもしれない。
「悪党に何を言われても構わねえよ! 何としてでもお前を倒すだけだ!」
……認めよう。
スコーピオの言う通り、今の俺を突き動かしているのはブレイズライダー……ヒーローとしての使命感ではなく、火走ショウとしての私怨。
本当なら先程、音切が言っていたようにヒーローらしく戦うべきなのかもしれない……いや、多分それが正解なんだろう。
だけど、今の俺にはそうできる程の余裕なんてない。
そして、何としてでもスコーピオを倒すという言葉に、偽りない。
例え自分自身の命と引き換えにしても、奴を仕留める覚悟でこの場にいる!
「良いねえ、俺への怨みが手に取るようにわかる。ヒーロー気取って戦ってた時よりも、今の方がイキイキしてるんじゃないか?」
「黙れ!」
煽り続けてくるスコーピオの口を閉ざすべく、炎を放つ。
炎に巻かれ、怯むスコーピオ。
これ以上奴に付き合う気はない。
とどめを刺すべく、スコーピオへと殴りかかる。
「ここまで怒るとは、図星だったか! ヒーローが聞いて呆れるな!」
スコーピオへと近づいた瞬間、奴は炎を振り払い、俺めがけて触手を伸ばす。
「……勝手に呆れてろ」
煽ることで俺の集中を削ぐ作戦なのだろうが、無駄だ。
スコーピオへの憎悪で動いている以上、奴が何を言おうが倒すだけ。
触手を払いのけて最大の脅威を排除すると再びスコーピオへと肉薄し、拳を振りかぶる。
……しかし、俺の拳はスコーピオに届かなかった。
「ぐっ!? うぁ……」
突然脳天から響いた衝撃に、呻き声を上げて倒れ伏す。
「毒針に気を取られてたな? 俺はな、毒なんて使わなくても強いんだよ! そして、俺のハサミは挟む以外にも使い道がある!」
勝ち誇ったように俺を見下ろすスコーピオは、地面に這いつくばった俺目掛けてハサミを鈍器のように振り下ろした。
何とか起き上がって避けようとするが叶わず、何度も振り下ろされるハサミに意識が薄れていく。
「無様だな、ヒーロー。何としてでも俺を倒すんじゃなかったのか?」
地面に這いつくばった俺を嘲笑いながら、スコーピオは何度も足蹴にする。
毒針を使えば、すぐにでもとどめを刺せるというのに何故そうしない?
……間違いなく、俺をいたぶってやがる。
「い、今から倒す! 俺は絶対、お前には負けない――ぐあっ!」
何とか抵抗する為に起き上がろうとするが、一際強く踏みつけられてしまい、身動きすらまともにとれなくなる。
「そいつは無理だ。なぜなら、お前は今から激痛に苦しんで死ぬ」
自身の足元で悶える俺にそう告げると、触手が俺の頭上まで伸び、首筋に狙いを定める。
「あの馬鹿な警官や、ヒーローに助けを求めながら俺に毒を打ち込まれた奴らみたいにな!」
起き上がることすらできない俺に、無情にも触手が迫る。
負けを認めたくないが、避ける事はできそうにない。
今できるのは、最期まで戦う意思を失わないように迫る毒針から目を逸らさない事だけ。
奴が俺の事を突き刺すと同時に、超能力で俺ごとスコーピオを燃やし尽くして仕留めてやる!
……しかし、毒針が俺の首筋に刺さる直前、触手の動きが止まった。
最初はスコーピオが俺の事をまだ痛めつけようとしているのかと思い様子を窺うが、どうやらそうではないらしい。
「良いところだったていうのに、なんだ? あのガキは」
奴は俺から視線を外し、後ろに振り向いていた。
スコーピオに踏みつけられてるせいで身動きができないので、首だけ動かして視線の先に何があるかを確かめる。
「か、か、彼を離せ! も、もうすぐ警察が来るから、もう逃げられないぞ!」
そこにいたのは、多田さんだった。
彼女は手に持ったエナジーピストルをスコーピオに向けながら、僅かに声を奮わせながら俺を解放するようスコーピオに告げる。
「ふん、警察だと? ガキが何を言うかと思えば……」
スコーピオは多田さんを一瞥すると、彼女の言葉に鼻で笑って返す。
「あんな奴ら、怖くないね。全員まとめて殺せばーー」
「なら、これはどうだ!」
多田さんの持つピストルから光弾が放たれ、突然の不意打ちに反応できないスコーピオの胸に直撃する。
……いや、反応できなかったんじゃない。
「それがどうかしたのか? 俺の身体をそんなもんで傷つけられると思っていたのか」
反応する必要すら無かったのだ。
現に、直撃しているにも関わらずスコーピオの身体を覆う甲殻には、奴の言う通り傷一つ付いていない。
「一か八かで撃ってみたけど、やっぱり無傷か。不意を突けば少しはいけるかと思ったんだけどね」
「残念だが、無駄だったな。だが、俺に喧嘩を売る根性は気に入った。ブレイズライダーの後で、お前も仕留めてやる」
……何故彼女がここに来たのかはわからないが、多田さんの身が危険な事だけは確か。
幸い、スコーピオの注意は多田さんに逸れている。
点火装置を起動させて火花を散らし、燃え上がらせると、油断していたスコーピオの顔目掛けて放火する。
「ぐあっ!? こ、こいつ、まだこんな力が――!?」
狼狽えるスコーピオを突き飛ばして自由になると、起き上がって多田さんの元へと駆け出す。
「ブレイズライダー、無事かい? 怯んでいるこの隙に、奴を倒し――うわっ!?」
攻撃を促す多田さんの言葉を無視して、彼女を小脇に抱えるとそのまま屋内を目指して走る。
「君を逃がすのが先だ!」
多田さんの言う通りスコーピオに追撃を仕掛けるか考えてみたが、確実に倒せる見込みが無い以上、まずは多田さんの安全を確保するのが最優先。
このまま逃げきれれば良いのだか。
「逃がすと思ってるのか!」
纏わりつく炎を振り払い、スコーピオが俺達へと迫る。
……多田さんを抱えたまま近接戦を行うのは、さすがに無謀だ。
「今はお前の相手をしている暇は無い!」
「ちっ! また炎か!」
屋内へと向かう階段に辿り着くと、空いている方の掌から炎を放ち、目眩ましにしてスコーピオの視界を遮ると、舌打ちするスコーピオの悪態を耳にしながら階段を降りる。
そのまま展望室の売店カウンター裏に隠れたところで、多田さんを離した。
「急に抱えられたから、驚いたよ。それはいいとして、なんであいつを倒さなかったんだ?」
驚いたと言う割に多田さんは落ち着いた様子で、声をかけてくる。
「倒せる確証が無かったし、多田さんを逃がすほうが先決だ。それよりも、なんでここにいる! 危ないのはわかってるだろ!」
その深刻さの欠片も見えない素振りに、思わず苛立ち声を荒げてしまう。
「君が話を最後まで聞かずに飛び出したから、態々追いかけるはめになったんだよ。ほら、これを使うといい」
俺の剣幕に怯むことなくそう言い放った多田さんは背負っていた鞄を降ろすと、中から取り出した何かを、此方に差し出してくる。
「……これは?」
自分のせいなのかと問い詰めたい気持ちを堪え、差し出された十五センチほどの二本の棒が何なのかを問いかける。
話を聞かないと、いつまでもここに居座りそうだしな。
「君のために、新しく作った武器だ。前に使っていたのは、ボクを助けてくれた時に壊れてしまっただろ?」
多田さんから棒を受け取り、側面に付いているボタンを押すと棒の先端が飛び出し、全長が倍くらい長くなる。
更にもう一度ボタンを押すと、飛び出した部分が放電して火花が散った。
「これは、スタンバトンか」
炎が効かない相手に対抗する為に用意して、夏休みにノワールガイストと戦った時まで使っていた。
多田さんの目の前で使って壊れてしまったが、まさかその事を憶えていたとは。
「その通り。以前、君が使っていた安物とは違ってしっかりと仕上げたから、多少無茶しても大丈夫だよ」
いつものように自信満々な様子で答える多田さんを一瞥する。
……たったそれだけの為に、ここまで来たのか。
「そうか。それじゃあ、多田さんは早く逃げてくれ。ここは危ない」
「ま、待ってくれ」
これ以上、話すこともないと考えて立ち上がった瞬間、多田さんに手を掴まれて引き留められる。
「なんだよ? まだ何か用があるのか?」
面倒臭いという雰囲気を隠さずに発した俺の言葉に、多田さんは一瞬だが躊躇う様子を見せるが、すぐに意を決したように顔を上げて、此方を見据える。
「ほ、本当は、嫌な予感がしたんだ。ここで追いかけないと、もう君に会えないんじゃないかと思って。……だから、ここまで君を追いかけてきた」
嫌な予感か。
確かに、スコーピオに負ければ二度と会うこともなかっただろうし、間違ってはいない。
……全く、余計な心配をしているな。
「だから、言っておきたい事を言わせてもらう。君が今どんな気持ちで戦ってるのか、ボクにはわからない」
そりゃそうだろう。
多田さんに俺の何がわかるっていうんだ。
「……気が済んだら、早くここから逃げろ。スコーピオがいつ降りてくるかわからないし、多田さんを守っている余裕はない」
「話は最後まで聞いてくれ。わかっているのは今、君がボクの事を心配してくれたように、君の事を心配してくれてる人がいるということだ。一条君や音切君は君のために動いてくれてる……勿論、ボクだって君が心配なんだ。だから、無茶な真似はしないで」
どいつもこいつも、俺をどんな人間だと思って……いや、無茶をすると思われているから、俺の事を心配するし、助けようとしてくれている。
……でも俺にできるのは、なるべく心配させないように振舞うだけ。
「逃げても無駄だぞ! 探しだして八つ裂きにしてやる!」
展望室に、スコーピオの怒声が響き渡る。
どうやら、もう話している時間は無い。
多田さんに視線を移すと、不安げな様子で此方を見返してくる。
……そんな顔をするくらいなら、初めから来なければいいのに。
「心配してくれるのはありがたいけど、俺はブレイズライダー、ヒーローだ。何があってもアイツは倒すし、必ず無事に帰ってくる。だから、多田さんは隙を見てここから逃げろ!」
多田さんを安心させる為に言葉をかけると、そのまま彼女の返事を待たずに物陰から飛び出した。
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次回、最終話は来週日曜日の昼十二時投稿なので、読んでもらえたら励みになります。




