6話‐3
……さて、これからどうするか考えよう。
火走を助けるのに二秒くらい超能力を使ったから、一分経つまで超能力は再使用できない。
何とかして超能力を使わずに倒すか、再び使用できるようになるまで耐える必要がある。
「ヒヒッ、邪魔をするなよ。イライラしてくるからさぁ!」
倒れた際に地面に打ち付けた頭を抑えながらも、大した事無さげな様子で立ち上がってくるネクラ君。
スコーピオと違って甲殻が無いからこっちの手が痛まないぶんマシだけど、それでもかなりタフな事に変わりはない。
「ネクラ君が暴れるから邪魔をしてるんだよ。そんなことよりも、お前の相手はこのオレだ! 先輩を追いかけるなら、まずはオレを倒して――うおっ!?」
オレがまだ喋っている最中だというのに、そんな事はお構い無しと言わんばかりにネクラ君が飛びかかってきた。
振るわれる腕を躱しながら隙を見つけてネクラ君を蹴りつけると、その勢いのまま飛び退いて距離をとる。
「人が喋ってるんだぞ! 邪魔を――あれ? どこに行った!?」
飛び退いた際に一瞬だけネクラ君から視線を外したら、その姿が消えている。
これは一体どういう事なんだ!?
「……ま、まさか! あれだけ偉そうな口を叩いておいて逃げ出したのか!? ちょっとダサ――ぶへっ!?」
突如として目の前から消え去ったネクラ君に驚いたのも束の間、いきなり顔に強い衝撃を感じて地面に倒れこむ。
「ヒヒッ、逃げるわけないだろ!」
ネクラ君の声が聞こえたので辺りを見回しながら起き上がるが、やはりどこにも見当たらない。
「キョロキョロと間抜けな奴だなぁ! それでヒーローを名乗るなんて、片腹痛いよね!」
「おい! どこに――ぐふっ!?」
再びネクラ君の声がしたかと思うと、身体に強い衝撃を感じ、呻き声を上げてしまう。
更に続けて数回、殴られるような痛みを感じ、最後には立ち続ける事ができずにその場で崩れ落ちてしまった。
「ヒヒッ、無様だねぇ。やっぱり君みたいな人間に、ヒーローを名乗る資格なんてない!」
姿を見せないまま、ネクラ君は嘲るように笑う。
反撃に移る為に起き上がろうとはするが、ネクラ君に足蹴にされているようで思うように動けない。
「さあ、泣いて僕に謝るのなら、許してやってもいいよ?」
ネクラ君は姿を表し、オレを踏みにじりながら勝ち誇ったように笑う。
……姿を消している状態のネクラ君に攻撃を当てられなければ、負けてしまうのは明らか。
ここで諦めるのも、一つの選択かもしれない。
「断る!」
だが、ここで諦めるわけにはいかない。
「ネクラ君がどう言おうとなぁ、オレは自分がヒーローだと思ってる! そしてヒーローだからこそ、お前の歪んだ根性叩き直して更生させる必要がある!」
力を振り絞り、オレを踏みつけている足を払いのけてネクラ君を突き飛ばし、立ち上がる。
「ぐっ……!? わ、わかってはいたけど、やっぱり馬鹿な奴だ!」
突き飛ばされた衝撃で口内を切ってしまったのか、口元からこぼれる血を手で拭いながらネクラ君は立ち上がる。
「よくわかってるじゃねえか。オレは馬鹿なんだ。……だけどな、今のネクラ君はそれ以上の大馬鹿だと思うぜ?」
「……余程痛い目にあいたいみたいだね。なら、お望み通りにしてやるよぉ!」
ネクラ君がそう叫ぶと、その姿が先程と同じように背景と同化し消えていく。
「ヒヒッ、これでもう僕がどこにいるかわからないだろ! ネクラだのなんだの言って、馬鹿にしてきた事を後悔させてやる!」
ネクラ君の言う通り、こ彼の姿を捉える事はオレにはできない。
「馬鹿にしているつもりはねえ! 見たままを述べただけだ!」
だが、ネクラ君を倒す事はできるはずだ。
もうインターバルは過ぎたし、超能力を発動して周囲の様子を窺い、ネクラ君の動きを予測して攻撃を受け止める。
「な、何で僕の攻撃がわかったオン!?」
何故、ネクラ君の攻撃に反応できたのか。
それは彼の姿が透明になろうと、消せない物も存在したからだ。
地を蹴った際に土煙は舞い上がるし、先程ネクラ君が拭った血も彼の腕に付着したまま消えていない。
そして超能力を使っている時、オレには周囲の光景がゆっくりと過ぎていくから痕跡を辿るのも容易。
……尤も、その事をネクラ君に教えてやる気は一切ないけどな。
受け止めた腕から、ネクラ君がどこにいるか予想して拳を振るう。
「ぐ、がぁぁぁ!!」
拳に伝わる衝撃と耳に響く悲鳴から、多分当たったんだな。
一度当ててしまえばこっちのもの。
間髪入れずに追撃を仕掛ける。
「な、何で? ぼ、僕はヒーローなのに、こ、こんな奴に……」
シャイマーと同じなら、腹部のプレートを破壊すれば力を失うはずだ。
相次ぐ攻撃によってよろめきながら姿を表したネクラ君の懐へと飛び込むと、プレートへと正拳突きをお見舞いする。
一度の攻撃で傷こそ付いたものの破壊するには至らないが、それなら何度でも攻撃を仕掛けるまで。
そして、幾度にも拳を叩き込まれたプレートに亀裂が走った。
「あ、あぁ!? や、やめてくれ! これは僕の――」
プレートを守るように手で覆って懇願してくるネクラ君には悪いが、彼を救うためだ。
ネクラ君を歪ませた元凶であるプレートを破壊するべく、飛び蹴りを叩き込む。
「ぐっ……。ま、まだ、まだ僕は――!?」
勢いよく吹き飛んだネクラ君は、攻撃を受けたというのによろよろと立ち上がってきた。
しかし、ネクラ君が完全に立ち上がった瞬間にプレートが粉々に砕け散って爆発。
ネクラ君も爆炎に包まれた。
「お、おい、大丈夫か!」
倒すつもりで放った一撃だが、さすがにあそこまでやるつもりはなかった。
とにかく、ネクラ君を助けるべく彼のもとへと駆け寄る。
オレが彼の元に辿り着いた時、既に炎は消えていた。
「ひ、ヒヒッ。僕の負けかよ……畜生」
力無げにそう呟いて倒れ、気を失うネクラ君。
その姿は先程までの怪物ではなく、あちこち傷だらけだがいつものネクラ君のものだった。
「……意識を失っただけか」
数こそ多いが、致命傷になりえるような傷は見受けられない。
ひとまず、大丈夫みたいだな。
「とりあえず、ネクラ君をどこかに――」
「おい、ソニックライダー!」
ネクラ君の腕を肩に回して支え起こすと同時に、見た目小学生くらいの少女がオレに声をかけながら近寄ってくる。
……確か、シャイマーと戦った時に火走と一緒にいた女の子か。
「どうした? ここは危ないから、早く逃げた方がいいぜ」
「ブレイズライダーを探しているんだ。この辺りにいる筈なんだけど、どこにいるか知らないか?」
女の子はオレの質問には答えず、火走の居場所を聞いてくる。
なるほど、そういうことか。
「さては君、先輩のファンなんだな? 先輩は今、電波塔の中に悪党を追いかけに行ってる。サインならオレが貰っておいてあげるから、お嬢ちゃんは早く逃げた方がいい」
この子も、オレと同じく先輩に憧れているんだ。
きっとニュースかなにかでオレと先輩が戦っているのを知り、態々会いに来たのだろう。
だがしかし、ネクラ君を倒したとは言え蟹野郎がまだ残っている以上、ここは危険だ。
早いところ、避難してもらうにかぎる。
「そうか。教えてくれてありがとう。それじゃあ」
女の子はオレの警告を無視し、電波塔へと駆け出していく。
「マジかよ!? 待て!」
当然、オレは彼女を追いかけようとするが、ネクラ君を支えているうえに超能力も使用できるまでにインターバルがあるせいで、追い付くことができない。
「おい! 人の話はちゃんと聞けってお父さんかお母さんに教わらなかったのか!」
何とか止めようと呼び掛けるも、女の子は完全に無視して電波塔の中へと消えていく。
……そして、遠くからパトカーのサイレン音が聞こえてきた。
警察に見つかる前にネクラ君を安全な場所まで置いてくるのが先決か。
女の子のことは心配だが電波塔には先輩もいるし、きっと大丈夫だろう。
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