4話‐5
「待て! 逃がすと思って――」
「おっと、追わせはさせない。君の相手は俺だ」
逃げる不良の背を追いかけようとする碓井の背を蹴り飛ばし、動きを止める。
「く、クソヤロウめ! た、助けるとか言っておいて、なんで邪魔をするんだよ!」
「手を出したら戻ってこれなくなるからだ! 今ならまだ戻ってこれるから、すぐにそのプレートをこっちに渡せ!」
碓井は説得に耳を貸す様子も無く、目をキョロキョロとさせながら逃げ道を探している。
しかし、何故かわからないが影分身は使えないみたいだし、何らかの超能力を使う素振りもない。
このまま穏便に終われば良いのだが、嫌な予感がする。
「ヒヒッ、折角力を手に入れたのに、もう終わるっていうのか? そんな……そんなの、嫌だ!」
嫌な予感に限って当たるものだ。
追い詰められた碓井が叫ぶと同時に、その姿が辺りの景色に溶け込み消えていく。
「き、消えた!?」
「……ヒヒッ、どうやらまだ、終わりじゃ無かったみたいだ」
碓井が消えた位置から、先程の叫び声に比べより余裕のある雰囲気の碓井の声が聞こえてくる。
すぐさま火球を撃ち込んで動きを止めようとするが、火球は碓井がいた場所を通り抜けて背後の壁を焦がすだけ。
そして背後から離れていく足音が聞こえた事で、碓井を逃がしてしまった事を察する。
「待て!」
碓井の後を追うべく駆け出すが、戦い慣れていないとはいえ身体能力は向上している。
おまけに姿も見えないので、捕まえる事は難しく完全に見失ってしまった。
「ウワァァァ!? く、来るな!」
もう少しで路地裏の出口というところで、表通りから先に逃がした筈の不良の声が響き渡る。
急いで路地裏から飛び出すと、姿を現した碓井が腰を抜かす不良に襲いかかろうとしていた。
「ヒヒッ、逃げられると思って――」
「そいつから離れろ!」
炎を放って碓井の動きを止めると、一気に近づき殴り飛ばす。
「あ、あぁ……」
「おい! ボサッとしてないで、早く逃げろ!」
呆然としている不良を怒鳴りつけると、我に返った不良はすぐに立ち上がり逃げ出していく。
とりあえず不良は大丈夫そうだけど、代わりに別の問題が出てきたな。
「な、何だ!? あの化け物は!」
「ブレイズライダーもいるぞ! 戦っているのか?」
場所が表通りに移った事で、俺たちの姿は通行人の目にも当然とまり、注目を集めることになる。
どうみても怪物な碓井の姿を目撃した人たちは、至極もっともな感想をのべてしまった。
「ヒヒッ、人のことを化け物呼ばわりなんて、失礼な奴らだ。そんな奴らは、わからせてやる!」
冷静さを失いかけていた碓井には、その言葉だけで標的にするには十分だったのだろう。
周囲の人に襲いかかる為か、その姿が周囲の景色に溶け込み消えようとしていた。
「お前の相手は俺だ。こっちを見てろよ!」
碓井の姿が消え去る前に、奴の注意を引きつけるべく叫びながら殴りつける。
「ぐがっ!? ぐえっ!? や、やめろ!」
連続で殴られて怯む碓井は、苦し紛れに腕を振り回す。
しかし、何度も修羅場を潜り抜けてきた俺には当たらない。
即座に飛び退き、碓井の腕をかわす。
「いいぞ、ブレイズライダー!」
「そんな化け物、やっつけちまえ!」
スマホ片手に無責任な事を言う危機感の足りない野次馬を背に、これからどうするべきか思案する。
シャイマーがそうだったように、腹部のプレートを破壊すれば碓井の変身は解けて元の姿に戻る筈だ。
しかし、そうすると怪物の正体が碓井であることが、野次馬に知られてしまう。
「ひ、ヒヒッ、僕は化け物なんかじゃない。ヒーローになるんだ!」
突撃してきた碓井の攻撃を捌くと、炎を纏わりつかせて動きを止める。
不良を脅したりしたが、碓井はまだ俺以外の人に直接危害を加えた訳ではない。
「ヒーローになるのは勝手だけど、そんな物の力に頼って振り回されてるようじゃ、ろくなことにならないぞ!」
碓井の動きを封じていた炎を、俺たち二人を囲むように操り、野次馬の視界を遮る。
「ヒヒッ、力を持っている奴は言う事が違うな。どうせ僕の気持ちなんてわからないだろうから、黙ってろよ!」
俺の言葉に聞く耳をもたず、叫びながら飛びかかり組みついてきた碓井。
その両腕を真っ向から受け止め、取っ組み合いに持ち込む。
「……力の及ばないむなしさなら、とっくに味わった事がある」
脳裏に一瞬だけ力が無くて救えなかった両親や、力があっても止めることができずに悪の道に進んだ少女の顔が浮かぶが、すぐに振り払う。
今は、目の前の同級生を何とかすることに集中しなくちゃな。
「黙ってろって、言ってるだろ!」
碓井が叫ぶと、腕に込めた力が一際強くなり、その勢いに押されて俺は片膝を地面についてしまう。
「くっ……なら、問答無用だ! 少し痛いぞ!」
碓井の腕を掴んだまま、バランスを崩すべく足払いを仕掛ける。
いくら勢いづいていても、経験の差はどうする事もできない。
足払いを受けた碓井は、なすすべなくバランスを崩す。
まずは碓井の意識を奪い、それから人気のない場所まで連れていってプレートを破壊する。
碓井が怪物になったのを知っているのは、俺と不良だけ。
あんな不良の言う事なんて誰も信じないだろうし、全て穏便に済ませる事ができる筈だ。
そう考えて碓井が体勢を整える前に攻撃を仕掛けようとする。
「ぐわっ!?」
しかし、呻き声を上げたのは碓井ではなく俺。
突如として現れた影分身によって吹き飛ばされてしまい、碓井を気絶させる事はできなかった。
碓井の奴、この土壇場で影分身を生み出してくるなんて。
「会いたかったぜ、ブレイズライダー!」
……新たに響いた声と、声の主であるソレを目にした事で碓井が影分身を生み出したという勘違いに気づかされる。
声のした方向に視線を向けると、碓井とは別の新たな怪物が、影分身を従えこちらを見据えていた。
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