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4話‐4

「おら! こっちに来いよ!」


 二郎や多田さんとの話し合いを済ませ、残りの授業も終わった放課後。

 何か事件が起きるまでの間、時間を潰す為に街中をブラブラしていた俺の耳に聞き覚えのある声が入る。


「は、離せよ! さもないと、本当に痛い目に合わせてやるぞ!」


 何事かと視線を向けると、今朝の不良が碓井の腕を掴み、路地裏へと引きずり込もうとしていた。


「お前みたいなネクラがどうやってオレを痛い目に合わせるっていうんだ? やれるもんならやってみろよ!」

 不良は碓井の言葉に動じる事なく、碓井を連れて路地裏へと姿を消す。

 確かに、碓井は何であんなに強気な態度に出れるんだ?


「……仕方ないな」


 幸い時間はあるし、助けてやる事にしよう。

 二人の後を追い、路地裏に入り奥へと進んでいく。


「ここまで来たら誰も助けに来ないだろ……あの自称ヒーローもな。さあ、お前を助ける奴は誰もいないぜ」


 奥地に進み、袋小路へ碓井を追い詰めた不良は勝ち誇ったように喋る……俺が見ているとも知らずに。

 俺は物陰に身を潜めながら辺りをキョロキョロと見回し、音切がいないか確かめる。

 あいつ、神出鬼没なところがあるから今回もいきなり現れそうなんだよな。


「ヒヒッ、あんなヒーロー擬きがいなくたって、君なんか僕が本気を出せば簡単に叩きのめせるさ」


「この野郎、オレを嘗めてんのか!」


 碓井の不遜な態度が気に入らなかった不良が、拳を振りかぶると同時に俺は正体を隠す為にブレイズドライバーを腰に宛がう。


「変身」


「う、うわぁぁぁ!?」


 俺の身体がスーツに包まれた瞬間、悲鳴が辺りに響き渡る。

 ……予想外な事に、その悲鳴の主は碓井ではなく不良。

 そして先程まで碓井がいた場所には、薄い緑色の爬虫類を思わせる肌に、ギョロリと飛び出た目とクルリと弧を描いた尻尾を持つ、二メートル近い人形の怪物が立っており、不良の拳を受け止めていた。

 怪物が腕を振るうと、不良は吹き飛ばされ尻を打ち地面に倒れこむ。


「だ、誰か、助けてくれ! ば、化け物がいる!」


「ヒヒッ、こんな場所で助けてくれる奴はいないって、さっき君が言ってただろう。後、僕は化け物じゃなくて、お前みたいな悪人を倒すヒーローだ!」


 倒れこんだまま後ずさる不良を、追い詰めるように近づきながら話しかける怪物。

 その腹部にはシャイマーが付けていたものと同じ髑髏のレリーフが彫られたプレートが宛がわれており、発せられた声は碓井のもの。

 あの怪物は、碓井が変化したっていうのか!?

 シャイマーと同じようにプレートを使って化け物に変わったって事は、碓井も超能力者だった?


「ヒヒッ、さっきどうやって痛い目に合わせるか聞いてたよねえ? こうやってさ!」


 色々気になる事はあるけど、それどころじゃない。

 物陰を飛び出し碓井と不良の間に割って入ると、振り下ろされた碓井の腕を受け止める。


「こんな所でも、助けに来てくれる奴はいるもんだぜ」


「ぶ、ブレイズライダー!? ヒヒッ、何で君がここに……いや、そんな事はどうでもいいか。会えて光栄だよ」


 碓井は驚いた様子を見せると腕を下げて飛び退き、俺から距離をとる。

 言葉とは裏腹に俺を警戒しているようだが、まだ話は通じそうだ。


「ひ、ヒーロー! 早くその化け物を倒して、助けてくれよ!」


「こんな状況じゃなきゃファンがいるっていうのは嬉しいな。それじゃあ、腹のプレートを大人しくこっちに寄越してくれ。そいつは危険な物だ」


 すがりついてくる不良を無視し、プレートを受けとるべく手を差し出しながら碓井へと近づくが、俺が近寄った分だけ碓井は後ずさる。


「ヒヒッ、嫌だよ。このプレートがあれば、僕みたいに何の力が無い奴でも、君みたいなヒーローになれる。わかったらそこをどいてくれよ、ブレイズライダー」


 ヒーローと言うには見た目が醜悪だが、そんな事はどうでもいいし、プレートを素直に渡してくれないのも予想通り。

 しかし、碓井は超能力者じゃなかったのは予想していなかったし、かなりマズい。

 あのプレートを使ってしまえばどんな人間でも怪物に変化してしまい、ノワールガイストの手駒になるって訳か。


「……もし俺がここからどいたら、どうするつもりだ?」


「お、おい! 何を言ってるんだ!? まさか、見捨てるつもりじゃないだろうな!?」


 背後で喚き散らす不良を無視し、碓井を見据え返事を待つ。


「ヒヒッ、そこのクズをヒーローとして成敗してやるに決まってるだろ」


 碓井は随分と大きくなった口でニヤリと笑いながら、不良を指さす。

 ……やっぱり、そうするつもりか。


「断る。こいつに危害を加えようっていうなら、俺が君を止める」


 一応どうするか聞いてはみたが、俺の答えは既に決まっていた。


「そんなクズを助けて何になる? そいつは僕以外にもカツアゲを繰り返してきた、録でもない奴だぞ?」


 今朝の様子を見ているかぎり、碓井の言っている事は恐らく事実だ。

 この不良は普段から相当悪さをしているし、恨みも買っているのだろう。


「君の言い分にも一理あるかもしれないけど、俺はヒーローだ。どんな奴でも、はいそうですかと助けを求めている人を、見捨てる訳にはいかない」


「ヒヒッ、僕の事は助けてくれないのに、そのクズは助けてやるのか。君は尊敬できるヒーローだと思ってたけれど、そうじゃなかったみたいだ。それじゃあ今日から君に代わって、僕が真のヒーローになってやる!」


 碓井は失望した様子でそう言うと、地を蹴り俺目掛けて飛びかかってきた。


「助けようとしたら、君が危害を加えようとしただけだろ。それに、俺は今も君を助けたいと思ってる」


 振るわれた腕を払うように受け流すと、反撃に炎の拳を叩き込む。

 シャイマーの時を思い返すに、このまま今の碓井を野放しにしておけば、やがてノワールガイストの言いなりになり、奴らのいいように働かされてしまう筈だ。

 そうすれば碓井がどう言い訳しても、犯罪者として裁かれる可能性は大いにある。

 だからこそ、碓井が罪を犯す前に止めなくてはならない。


「ヒヒッ、何を言ってるんだ? 僕を助けたいっていうんなら、邪魔をするな!」


 碓井は憤り攻撃を仕掛けてくるが、その動きは、シャイマーに比べると遅くて単調だ。

 戦い慣れしていないのもあってか、正直弱い。

 次々に繰り出される攻撃をかわし、その度に反撃を続ける。


「い、いいぞ! 早く化け物を倒しちまえ!」


 自分を助けに来てくれたヒーローが優勢な様子を見て、調子を取り戻した不良が背後で叫ぶ。


「そんな事を言ってる暇があったら、早く逃げろ! 意外と手強い相手だから、守りきれないかもしれない!」


「そ、そうだな。それじゃあ、後はアンタに任せるよ!」


 不良は俺の言葉にビビってしまったようで、血相を変えながら逃げ出していく。

 実際はそんなに手強い訳ではないのだが、嘘も方便。

 不良の相手をするのも嫌だし、逃げてくれて助かった。

今回の話を読んでいただきありがとうございます。

ブクマ・ポイント・感想をもらえれば筆者のモチベーションが上がるので非常にありがたいです。

次回は来週日曜日の昼十二時投稿なので、読んでもらえたら励みになります。

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