3話‐4
「ソニックライダー参上! 火走に昨日のお嬢ちゃん、どうして二人でここにいるのかわからないけど、危ないから早く逃げな!」
スーツを身に纏った音切は影分身の攻撃を払いのけて返り討ちにすると、そのままシャイマーの元へと向かっていく。
「シャクシャクシャーク! 昨日のヒーローの片割れだな! 一人でこのシャイマー様に敵うと思っているのかサメ!」
「お前みたいな小物はオレ一人で十分だ! だけど、先輩ならすぐに駆けつけるさ!」
その先輩はもうこの場にいるんだけど、生憎すぐには戦えない。
……そんな役に立たない俺に比べて音切の奴、ヒーローしてるじゃないか。
「この……邪魔だ!」
音切はシャイマーに飛びかかろうとするが、影分身達に阻まれてしまう。
「何をやってるんだ。早くここから逃げるぞ」
ただ音切の戦う様子を眺める事しかできなかった俺の腕を引っ張りながら、多田さんが声をかけてくる。
「……ああ、わかった。すぐに離れよう」
とにかく、今は多田さんもいるしこの場を離れる事を優先するべきだ。
俺は途中ではぐれないよう、多田さんの手を掴んで走り出す。
まずは安全な場所まで多田さんを連れていき、その後ですぐに戻ってシャイマーを倒す。
その間、音切には一人で頑張ってもらうしかないな。
……本当に、それでいいのか?
「ど、どうしたんだい? 何で急に止まった?」
少し走ったところで急に立ち止まった俺に、多田さんが疑問を投げかけてくる。
「多田さん、先に逃げてくれ。俺は用事を思い出した」
ここで音切一人に押し付けるようなら、多分俺はヒーロー失格だ。
すぐに元来た道を戻ろうとするが、多田さんに腕を掴まれてしまい、足を止める。
「用事って、さっきみたいにまた無茶な事をしようとしてるのかい? だったらはいとはいえないな……だって、ここでショウ君を行かせて何かあったら、ボクが後悔する」
彼女は今までにないくらい神妙な面持ちで、俺を心配する。
……多田さんにとって昔の俺は、相当大事な友人だったらしいな。
「心配しなくていい。手早く終わらせるから」
正直な話、多田さんの事はまだ苦手だ。
いきなり親しげに話しかけてきたかと思えば、俺が彼女の事を覚えてないと知るやいなや辛辣に接してきたし、仕方ないと思う。
……火走ショウとしては。
「心配するなって、無理に決まってるだろ。何の力も無い君が――」
俺の言葉を聞いてなお、多田さんは俺を止めようとするが、急に言葉を失う。
これまでにヒーローとして何度か多田さんを助け、彼女はそのお礼にとブレイズドライバーを作って俺に渡した上、警察やJDFにも便宜を図ってくれたのだ。
「さっき俺が言ってた深い事情、教えてあげるよ」
ブレイズライダーとして考えれば、多田さんは充分信頼に値するという結論に達した……ここで正体を明かしても、構いない。
「な、何で君がソレを……ブレイズドライバーを持ってるんだ!?」
先程多田さんが言葉を失った理由である、俺の取り出したブレイズドライバーを見て、我に返った多田さん驚きに目を見開きながら問いかけてくる。
「何でかって? それは俺がブレイズライダー、ヒーローだからだ……変身!」
彼女に返事をしながらブレイズドライバーを腹部にあてがい変身コードを口にした瞬間、俺の身体はスーツに包まれ、ブレイズライダーへと変身を完了する。
「詳しい話は後でしよう。多田さんはここから逃げてくれ」
呆然とした様子の多田さんに声をかけると、俺は戦いの場へと戻るべく駆け出した。
「とうっ!」
掛け声と同時に音切の姿が消えると、周囲にいた影分身が吹き飛ばされ消滅する。
「中々やるサメ。だが、影分身達は何度でも甦る!」
……シャイマーの言葉通り、音切の姿が現れると同時に影分身達も再び出現し、襲いかかる。
「数が多い! 鬱陶しい! オレの邪魔をするんじゃねえ!」
数体の影分身を払いのけながら、音切が喚き散らした。
何度倒しても復活してくるのだから、叫びたくなる気持ちはよくわかる。
「落ち着け! 焦っても不利になるだけだし、冷静さを失うな!」
音切の背後から襲いかかろうとしていた影分身を蹴り倒し、頭に血が昇った様子の音切を諫める。
「先輩! ようやく来てくれて有難いけど、こいつらいつまでも湧いてくるし、どうする?」
音切は影分身を振り払いながら、問いかけてくる。
まあ、当たり前の疑問だ。
「影分身を生み出しているのが超能力由来なら、精神力は消耗してる……と思う。だから、奴が疲弊するまで戦い続ければ――」
「そこまでバレていて、見逃す訳ないシャーク!」
どうすればいいか推測していた俺に、シャイマーが両手を振り上げながら襲撃を仕掛けてくる。
シャイマーの攻撃を凌ぐべく、近くにいた影分身を掴んで盾にすると、シャイマーは腕を振り下ろしヒレで切りつけた。
「まだ確証は無かったけど、その様子だと図星みたいだな!」
黒い霧となり消え去る影分身を放すと、拳に炎を灯して殴り飛ばす。
「流石先輩。それじゃあ影分身を倒しきるか、シャイマーの野郎をぶちのめせばいいって訳か。簡単だな!」
「し、しまったサメ。もう少し様子を伺うべきだったシャーク!」
音切は感心した様子でそう言いながら、近くにいた影分身にエナジーピストルで光弾を撃ち込み、シャイマーは悔しそうに地団駄を踏む。
……さっきから気にはなっていたが、やはりおかしい。
俺はシャイマーへと殴りかかりながら、問いかける事にする。
「疑問に思ってたんだけど、お前大丈夫か? 昨日はそんなに変な喋り方してなかったし、そのプレートのせいでおかしくなってるんじゃないのか?」
昨日戦った時は語尾にサメだのシャークだの付けてなかった筈だ。
……そして今のシャイマーと同じように変な語尾を付けて喋っていた連中に、俺は心当たりがある。
「何を馬鹿な事を言ってるシャーク! このガイストバックルは俺の超能力を最大限に引き上げてくれたサメ! そして、この素晴らしい力を授けてくれたノワールガイストに忠誠を誓い、その名を世の中に知らしめるのは当然の事!」
聞いてない事までペラペラと喋ったシャイマーは、両手を振り回して俺を振り払う。
「ノワールガイスト? 確か、夏休み中に先輩の倒した奴等がそう名乗ってたよな」
周りにいた影分身を一通り倒したらしい音切が、俺の元に駆け寄ってきた。
ノワールガイスト。
俺が他のヒーロー達と一緒に戦い何とか撃退した、自称世界を導く秘密結社。
実際のところ、世界征服を企む古典的な悪の組織だ。
「ああ、俺達が倒したのは奴等の下っ端だけで、幹部連中は逃げたまま姿を眩ましてる。そいつらがシャイマーにガイストバックルとか呼んでいる、妙なプレートを渡したんだろう」
「よくわかってるじゃないかシャーク。俺の力を見込んだ彼等が、警察から逃げてた俺に接触してガイストバックルを渡してきたシャーク。そして、俺の力はこんなもんじゃないサメ!」
俺の推測を肯定しながらシャイマーが叫ぶと、奴の両腕が膨張し人のそれとはかけ離れた姿へと変化していった。
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