3話‐1
「ショウ、これ見てみろよ」
ソニックライダーと一緒にシャイマーと戦った翌日。
夏休みが終わり久しぶりの学校での昼休み中の教室で、二郎が俺の机の上に新聞を広げながら声をかけてくる。
「ああ、それか。もう読んだよ」
二郎が持ってきた新聞はデイリーナウ。
一面にはソニックライダーを乗せて走り去る俺の姿に加え、でかでかと『周囲の迷惑を顧みない暴走ヒーローコンビ、我が物顔で暴れ回って立ち去る』と添えられている。
目覚めてからネットニュースをチェックしてみたら記事の見出しが目に入ってしまい、朝から早々に最悪な気分にされてしまった。
「そうか。それにしても、何でブレイズライダーはデイリーナウなんてゴシップの取材を受けたんだ? というか、ソニックライダーとコンビを組んだのかよ?」
二郎は周囲に怪しまれないよう、少し回りくどく問いかけてくる。
「俺に聞くなよ。大方ブレイズライダーはさっさと立ち去ろうとしたけど、ソニックライダーがアホな事をしてそれに巻き込まれたんだろ。コンビを組んだっていうのも、ソニックライダーが勝手に言ってるだけなんじゃないのか?」
俺も二郎と同じように、回りくどい言い方で返事をしてから、記事に目を通す。
改めて思うが、本当にひどいなこれ。
姿を晒したソニックライダーの写真や名前は勿論、俺は取材なんて受けてないのにあることないこと答えて自己中心的な奴に仕立てあげられてるし、反超能力者団体のコメントまで載せてあるせいで、かなり批判的な内容に仕上がっている。
そのくせシャイマーに関しては記事の最後に少しだけ触れてる程度だから、質が悪い。
「……し、しかし、ブレイズライダーも大変だろうな。敵は化け物になって、マスコミにまで目をつけられるとは」
二郎の言う通りではあるが、俺としては更に気がかりな事がある。
「ああ、おまけにソニックライダーが変な事をやらかさないか見張る必要もあるだろうし、きっと大変だ」
昨日、ソニックライダーと共に人気の無い場所まで移動したところまではよかった。
バイクを停車させてソニックライダーと話をしようとするが、奴は見たいテレビがあるからと俺の制止を振り切り一瞬にして立ち去りやがった。
……それだけなら、まだよかったのに。
俺は視線を、隣の席に向ける。
「なあ音切、どうしてヒーローになろうと思ったんだ?」
「何でオレがヒーローをやっているかって? そんなの、ヒーローってのはカッコいいからだ。そして、カッコよければ女の子にもモテる!」
ソニックライダーの正体である音切我威亜がクラスメイトに囲まれ、質問に答えている姿が視界に映る。
先生から転校生が転入してきたと言われ、教室に入ってきた音切の顔を見た瞬間、俺は驚きの声を上げないよう必死に堪えた。
それだけならまだしも、自己紹介でソニックライダーとしてヒーローをやってると言い出したり、一学期にどこかの誰かが学校を辞めたせいで空いていた席が、新学期の席替えで俺の隣になっていたのだが、そこに音切が座る事になる始末。
悪い偶然がここまで続くものなのか。
「ヒヒッ、あんなチャラチャラした奴、僕はヒーローとして認めないね。もっとストイックじゃないと。一条君に火走君、君達もそう思うだろう?」
今朝の出来事を振り返り自分の運の悪さを呪っていたが、突然声をかけられ現実に引き戻される。
声のした方を振り向くと、分厚い丸眼鏡をかけた男子が、卑屈な笑みを浮かべながらいつの間にか近くに立っていた。
……俺が言うのも何だけど、陰気な感じがすごく強い。
さて、こいつは誰だ?
「二郎、知り合いか?」
俺が知らないという事は、この男子は二郎の知り合いなのだろうと判断して問い掛ける。
……ひょっとしたら俺が忘れてるだけかもしれないが、そんな事はそうそう無いだろう。
「こいつは碓井カゲト。うちの学校にあるヒーロー愛好会の一員だ」
「ヒヒッ、一条君の友人である君の事は知っていたよ。以後お見知りおきを、火走君」
碓井はそう言うと、卑屈そうに笑って手を差し出してくる。
「よ、よろしく。それにしても、ヒーロー愛好会なんてあったんだな。知らなかったよ」
「部員の数が足りなくて学校からは正式には認められてないからね。一条君、入会の件は考えてもらえたかい?」
成程、どういう繋がりかと思えばそういうことか。
二郎なら誘えばヒーロー愛好会に入ってくれそうだもんな。
「入る気ないって言ってるだろ。俺とお前は考え方が違うんだよ」
どうやら、俺の思い違いだったらしい。
「ヒヒッ、それは残念。それじゃあ、また誘いに来るから」
言葉とは裏腹に残念そうな様子は見せず、碓井はあっさりと立ち去っていく。
「意外だな。二郎なら二つ返事でヒーロー愛好会に入ると思ってたよ」
「実は一度見学には行ったんだけどさ、どうにも俺には合わないと思って断ったんだよ。さっきも碓井に言ったけど、ヒーローに対する考え方が違うんだよ」
俺の問いに、二郎は肩をすくめながら返事をする。
「ヒーローに対する考え方?」
「碓井の奴、ソニックライダーをヒーローとして認めてないとか言ってただろ? ヒーロー愛好会の奴等は皆あんな調子で話すから、気が滅入ると思ったんだ」
確かに碓井が俺達に話しかけてきた時、そのような事を言ってたな。
「……成る程な」
正直、俺は少し碓井に同調している。
言動が軽くてチャラチャラしているのは兎も角、どうにも周りがよく見えていない。
あのままならいずれ大きな失敗を犯してしまうだろうし、その前にヒーローをやめたほうがいいのではないか?
「二郎、お前はヒーローというものに対して、どういう考え方をしてるんだ?」
……一人で出した結論が正しいとは限らない。
ここはヒーローというものにうるさい親友の意見も、聞いてみようじゃないか。
「俺はな、全員じゃなくて誰か一人でも認められていれば、もう立派なヒーローだと思ってる。例えばブレイズライダーが自分をヒーローじゃないと思っていなかったとしても、俺がヒーローだと思っている限り彼はヒーローという訳だ」
……そういえば以前、こいつに似たような事を言われたな。
それは置いておくとして、俺一人の判断でソニックライダーの是非を問うのは無理があるな。
精々、一緒に戦うときは奴がヘマをしないか気をかけておく程度にしておくか。
「誰か一人に認められていればヒーローか。確か一条だっけ? 中々良いこと言うじゃないか。」
俺が自分の中で今後の方針を見定めたと同時に、いつの間にか俺達に近寄っていた音切が声をかけてくる。
「そ、それはどうも。俺たちに何か用事があるのか?」
いきなり話しかけられたせいか、二郎は困惑しながらも適当な返事をする。
こいつ、一体何の用があって俺達に話しかけてきたんだ?
「……一条、ヒーローが好きなんだって?」
音切はニヤリと笑いながら、二郎の机に二枚の色紙を置く。
「そうだけど、これは何だ?」
「何ってオレのサインに決まってる。最初のサインだからな、きっと貴重品になる」
……えぇ。
いくら相手がヒーロー好きだからって、駆け出しヒーローが自分からサインを渡すのか。
「あ、ありがとう。そうなるように期待してるぜ」
相変わらず困惑した様子のままだが、二郎は礼を言うと色紙を一枚、鞄に仕舞う。
二郎が厄介な奴に目をつけられたのはどうでもいいとして、少し聞いておきたい事がある。
「なあ音切? 二郎がヒーロー好きだって、何で知ってるんだ?」
「彼等がきっと話が合うだろうからって、親切に教えてくれたよ。二人がヒーロー好きだって事を」
そう言って音切が指差す先に視線を移すと、先程まで音切に質問していたクラスメイト達の姿があった。
そして、俺と目が合った瞬間にクラスメイト達は皆、目を反らす。
音切が厄介……失敬、個性的すぎるから、俺達に押し付けた訳だな、畜生。
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