2話‐5
今から無理に追いかけても、空を飛べるシャイマーを捕まえるのは難しい。
なら、今できることをやろう。
「ソニックライダー! 大丈夫か!」
影分身達の相手をしているソニックライダーの元へと向かい、手近にいた影分身を蹴り飛ばしながら声をかける。
「何とか! 先輩、鮫野郎は倒せたのか?」
ソニックライダーは自身に纏わりつく影分身を振り払いながら返事をしつつ、逆にシャイマーを倒せたのか問いかけてくる。
「追い詰めはしたけど、逃げられた」
シャイマーを倒せなかった事を伝え、影分身へと炎を放ち焼き尽くす。
「……先輩、案外大した事無かったりする?」
「言い返したいけど、反論できないな」
ソニックライダーは軽い口調で俺の実力に疑問を呈してくる。
言い返したい気持ちが無いと言えば嘘になるが、シャイマーに逃げられたのは俺な以上、ぐうの音も出ない。
「まあいいや。それじゃあ、そろそろ終わらせるとしますか」
ソニックライダーは終わらせると言うが、影分身はまだまだ多い。
全部倒すには少し時間がかかる筈だ。
「終わらせるって、どうやって――」
「こうやってだ!」
ソニックライダーが俺の質問を遮ると同時にその姿が一瞬にして消え去り、次々に影分身達が吹き飛ばされる。
時間にして僅か数秒程で全ての影分身が消え去り、その直後にソニックライダーが再び姿を現す。
「これがオレの『高速移動』だ。どうだ? 凄いでしょ?」
ニヤリと片方の口角を持ち上げながら、自信有りげな様子で問いかけてくる。
確かに今のように一瞬で敵を倒しきれるのは凄いが、一つだけ疑問が浮かんだ。
「確かに凄い能力だと思うけど、俺が助けに入るまで暫く能力を使ってなかったよな?」
俺の疑問を聞いたソニックライダーは、頭に手をやり軽くかくような仕草を見せる。
ヘルメットを被っているから、かけないんだけどな。
「そこに気付くとは、流石ブレイズライダー。オレの能力にはインターバルがあるんだ」
「インターバル? 時間制限でもあるのか?」
俺の問いかけに、ソニックライダーはこくりと頷く。
「その通り。高速移動した後は一秒につき三十秒経たないと使えなくなるし、連続で使えるのは十秒まで。まあもっと厳しい制限があったとしても、オレはどんな相手にも負けないけどな」
インターバルに注意する必要はあるが、それでも充分に強力な能力。
自分の実力に自信があるのも頷ける。
それはそうと、また一つ別の疑問が浮かんできた。
「俺から聞いといてなんだけど、自分の能力をペラペラと喋って大丈夫か? どこからバレるかわからないし、隠しておいた方が有利に立ち回れるぞ」
俺が能力を漏らさないだろうと考えて話しているのだろうが、それにしても詳しく喋りすぎている。
特にインターバルなんて弱点、そう簡単に喋っていいものではない。
「さっきも言ったとおり、オレはどんな相手にも負けないからな。なんと言ったって、オレは超強い人気者のヒーローになる男だ」
……この溢れる自信、どこから湧いてくるんだろう?
「お前がそう言うのなら、俺から言うことは無い。それじゃあ、俺はそろそろ引き上げさせてもらう。もうすぐ警察が――」
「おい、ブレイズライダー! 少し話を聞かせてくれ!」
もうやる事もないし立ち去ろうとした瞬間、突然呼び止められて足を止める。
声のした方へ視線を向けると、どこにいたのかメモ帳とペンを持つ三十代半ばくらいの男がこちらに近づいてきた。
……胡散臭い笑顔を浮かべながら。
「あんた誰? サインならお断りだ」
「サインは必要ない。おれはデイリーナウの記者で、今の事件についてあんたに取材がしたいんだ」
デイリーナウ?
情報収集する時に、ネット上でニュース記事を載せているのを目にした記憶があるけど、あまり参考にした事がない。
「悪いけど名前も名乗らない奴の取材を受けるつもりはない。一昨日出直して――」
「おいおい、有名になるビッグチャンスだっていうのに取材を受けないのかよ? それじゃあ、仕方ないからオレが代わりに受けてやろう。何が聞きたい?」
記者を追い返そうとする俺を遮り、ソニックライダーがやたら乗り気で取材を受けようとする。
どうせ録な事にならないだろうし止めようかと考えるが、すぐに思い直す。
そもそも、何で俺がこいつの保護者みたいな真似をしないといけないんだよ。
「……勝手にしたらいいけど、後悔しても知らないからな」
それでも一言だけ忠告してやると、その場から立ち去るべく歩き始める。
「本当はブレイズライダーに話が聞きたかったんだけど、まあいいか。あんた、何者だ?」
「オレが何者かだって? 秘密にしておいてもいいけど、特別に教えてやるぜ! オレは未来のスーパーヒーローにして、超速の貴公子という異名で呼ばれたい男。そして、その正体を明かそう!」
取材を受けるソニックライダーの言葉に、思わず足を止める。
最初の方は至極どうでもいいが、最後に何て言った?
いや、いくらなんでも俺の聞き間違えだろう。
そう思い振り返ってみるとヘルメットを外し、金髪でチャラチャラした雰囲気の素顔を晒したソニックライダーの姿があった。
「オレの名は、音切我威亜! さあ、他に聞きたい事があれば――」
「待て待て待て! おい! なにやってる!?」
ペラペラと喋り続けようとするソニックライダーを遮り、肩を掴んで此方を向かせる。
「何って……オレが何者か聞いてきたから、教えてやっただけだよ?」
「そうじゃない! そう簡単に自分の素性を明かすなって言いたいんだ!」
きょとんとした様子で見当違いの事を言い始めるソニックライダーに、思わず怒鳴り付ける。
素顔や本名を晒して活動するのには、リスクが伴う。
もし俺が素顔を晒してしまえばSNSで拡散された挙げ句に住所が特定され、迷惑な奴等からの突撃を受けるだろうし、今までのような生活は送れなくなるかもしれない。
それで困るのが俺だけなまだいいけど、間違いなく同居している叔父さん達も巻き込んでしまう。
ストームガールのように、JDF等の公的機関と連携して活動してるようなヒーローならリスクも減らせるだろう。
しかし、ソニックライダーにそんな伝があるとは思えない。
「先輩、何をそんなに怒ってるんだ? ひょっとして、オレだけ目立とうとしてるから嫉妬してる?」
ソニックライダーの返事を聞き、俺は思わず頭を抱える。
人の事は言えないかもしれないが、こいつはかなりの馬鹿だ。
「どうでもいいけど、取材の邪魔をしないでくれるか? あんたが代わりに受けてくれるんなら、話は別だけどな」
記者が嫌みったらしくニヤニヤ笑いながら声をかけてくる。
その顔を見て少し苛ついたが、こいつの相手をしている暇はない。
「ソニックライダー、すぐにここを離れろ。もうすぐ警察が来るし、このままだと捕まるぞ」
「いや、取材を受けるって決めたし、オレの超能力ならすぐに逃げられるから別に困らない……そうだ! ブレイズライダー、バイクに一緒に乗せてくれるんなら、あんたに付いていくぜ」
ここぞとばかりに自分の要求を伝えてくるソニックライダー。
普段なら断るところだが、仕方ない。
「よしわかった。ヘルメット被って後ろに掴まれ」
俺はバイクを取り出して地面に置き、圧縮を階上して跨がる。
「お、おい! 勝手に話を進めるな! まだ全然話を聞いてないし、こんなんじゃ仕事にならねえ!」
俺の言葉に従いソニックライダーが後ろに跨がる様子を見て、記者は慌てた様子で俺達を止めようとしてくる。
「取材を受ける受けないは、こっちの自由だ。運が悪かったと思って諦めろ」
「オレとしては取材を受けてもよかったんだけど、今日のところは無理そうだ。それじゃ、ソニックライダーを宜しく!」
俺はエンジンを回し、ソニックライダーと共にバイクで現場から走り去る。
……活動場所が被る以上、これからもこいつと一緒に戦う事もある。
シャイマーも何とかしないといけないし、暫くは悩みの種が尽きる事は無さそうだ。
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