1話‐1
悪の秘密結社、ノワールガイストによる襲撃。
俺、ブレイズライダーを含むヒーローたちの活躍でなんとか勝利したあと、俺はJDFの拠点まで連れてこられ、ヒーローチームに参加しないかと持ちかけられていた。
……チームに参加するの自体は悪くないが、その条件である正体を明かすというのは呑むわけにはいかない。
俺は契約書を机の上に置き、首を横に振る。
「悪いけど、チームには参加できない。偶々鉢合わせたら協力位はするけど、それ以上は無理だ。それじゃあ、帰らせて貰う」
「待て、話はまだ終わってない」
話を切り上げて立ち上がり、退出しようとする俺を職員が制止する。
その手にはエナジーピストル……所謂、光線銃が握られており、銃口は俺に向けられていた。
「おいおい、随分と物騒だな」
「ブレイズライダー、悪いが君が悪事を起こさないとも限らない以上、野放しにしておく訳にはいかない。チームに加入しないというのなら、身柄を拘束させてもらうしかない」
……やっぱりそうくるか。
俺は点火装置を起動させ、拳に炎を灯し臨戦態勢に入る。
「初めから拒否権は無かった訳か。手荒な真似はしたくないけど、帰してくれないのなら――」
「ま、待った待った!? 二人とも落ち着くんだ! お互い、まずは矛を収めるんだ!」
一触即発という状況の中、突然部屋に入ってきた一人の少女が俺の言葉を遮り、お互いに矛を収めるように言葉で制する。
「……博士、何故ここに?」
職員が少女……ノワールガイストに攫われそうになったところを、俺が助けた多田博士に向けて疑問を零す。
その銃口を未だ、俺に向けたまま。
「彼の説得はボクが担当させてもらう。勿論、その為の許可は既に貰っているから後は任せてもらおうか」
博士はそう言うと、職員に何かが書かれた紙片を手渡す。
職員は紙片の内容を一瞥すると、溜め息を一つ吐き出してから銃を降ろした。
……こっちも手荒な真似はしたくないし、その様子を見届けてからひとまず拳の炎を消す。
「わかりました、博士にお任せします。ですが、何かあったらすぐに――」
「心配しなくても、彼はヒーローだし大丈夫だよ。ブレイズライダー、ボクに付いてきてくれるね」
職員の言葉を遮った博士は、そのまま部屋の外へと出ていく。
……まだ返事してないし、まるで俺が素直に付いてきてくれると思ってるみたいだな。
まあ彼女から借りた、戦闘スーツを転送してくれるベルトを返す必要があるし、素直に付いていくんだが。
「彼女の言う通り、俺はヒーローだ。あんたの危惧してるような事は起きないさ」
俺は職員にそう言うと、博士の後に続いて部屋の外へと出ていく。
暫くの間お互いに黙ったまま歩き続けていると、博士が応接室と表示された扉の前で立ち止まった。
「到着だ。さあ、入ってくれ」
博士はそう言うと、部屋の扉を開き俺を招き入れた。
彼女の言葉に従い先に部屋に入り中の様子を観察する。
……机と椅子が置いてある、何の変哲も無い応接室。
机の上にはお茶の入った湯呑みが二つにと、ノートパソコンが開かれたまま置いてあった。
「本当はボクの研究室で話をしたかったんだけど、さっきの戦闘でまるごと持っていかれてしまったからね。とりあえずこの部屋を臨時で使わせてもらってる訳だ。とりあえず、座ってお茶でも飲んでくつろいでくれ」
博士は扉を閉じながらそう言うと、椅子に座ってパソコンに向かい、何やら作業を始める。
「……なあ、俺の格好を見てそれを言ってるのか?」
フルフェイスのヘルメットを被っているのだから、お茶など飲める訳がない。
……彼女は作業に集中しているらしく返事はなかった。
とりあえず湯呑みが目の前に置かれている椅子に黙って座り、作業する博士を眺める。
「よし、準備できた。ブレイズライダー、こっちに来てくれ」
「構わないけど、何をしているんだ? 博士は俺をチームに入るよう説得するんじゃなかったのか?」
疑問の言葉を投げかけながら立ち上がると、彼女の側へと近づく。
「ああ、その話は後。今回の戦闘データを集めるのが優先だ」
博士はそう言うと、俺の腰に巻かれていたままのベルトのパネルを開き、中に隠されていたコネクタにケーブルを差し込む。
「ブレイズドライバーには、スーツの自動修復機能が付いている。余程傷付いてなければ、変身解除して一晩寝ている間に元通りだ」
「へ、へえ、そうなのか。テクノロジーについては詳しくないけど、凄いんだな」
作業しながらベルトの機能を話し始めた博士に、とりあえず相槌を打っておく。
……凄いという事はわかるんだが、俺の知識が足りないせいで生返事しかできない。
「その通り、ボクは凄いんだ。……よし、データは取れたから、変身を解除しても大丈夫だ」
凄いと言ったのは技術に対してなんだけど、まあいいか。
それよりも、もっと大事な事がある。
「変身を解除ってどうすればいいんだ?」
「ああ、説明してなかった。変身した時とは逆方向にレバーを回してもらえばいい」
博士の言葉に従いレバーを回すと、身体が一瞬光に包まれる。
光が消えると、先程の戦いでボロボロになったスーツが視界に映り、次に顔を触ってみれば正体を隠すための目出し帽の感触が伝わってくる。
「どんな服を着ていても、一瞬でスーツを装着できるんだ。凄いだろ、もっと褒めてもいいんだぞ」
わかってはいたが凄いな。
このベルトがあれば事件が起きた時に一々着替える手間が省ける。
思わず、このまま持って帰りたくなるくらいに。
「ああ、本音を言うならこのまま返したくないよ」
いくら惜しいとはいえ、このベルトは借り物。
俺はベルトを腰から取り外すと、博士に返すべく差し出す。
……しかし、彼女はベルトを受け取る事なく、キョトンとした様子で此方を見ていた。
「何をやってるんだ? ブレイズドライバーは君の物だ」
「……え? こいつが俺の物になるのは嬉しいけど、貰っていいのか? 代わりにチームに入れなんて言われても断るぞ」
予想していなかった言葉に、何か裏があるのではないかと勘繰り聞き返す。
「ブレイズドライバーは君の為に作ったんだから、そんな事は気にする必要ない。それにチームの件だけど、入らなくても構わないよ」
……思い返してみればスーツは俺にフィットしていたし、点火装置のボタンの位置も俺が自作したスーツと同じ場所に付いていた。
何より、ベルトを起動させる為には俺の超能力で炎を燃え上がらせる必要がある。
どういう理由でコイツを作ったのか深く考えないようにしていたけど、なぜか俺の為に作られたのは明らかだ。
「そう言うならベルトは有り難く貰っておくけど、チームに入らなくていいって、どういう事だ? さっきの職員は脅迫までしてきたんだぞ」
「ボクが長官と交渉してきた。少しだけ条件を付けてきたけど、君がこれまで通り活動できるよう約束してくれたよ」
そう言うと博士は、俺にスマホのような物を手渡してくる。
「……これは?」
「通信端末だ。君といつでも連絡をとれるようにしてほしいというのが、長官の出した条件」
端末を受け取り、弄ってみる。
通話とメールしか使えない、かなり簡素な端末だな。
……発信機とか、付いてないよな?
「安心しろ、君の居場所を特定するような機能は取り外しておいた。ボクの連絡先が登録されてるから、何かあったらそいつに連絡する。……その、君からも連絡してくれて構わないから」
俺の懸念を見抜いた博士は、ニヤリと笑いながらそう言う。
俺からも連絡しろという部分だけ何故か少しモジモジしていたが、気にするような事ではないか。
「悪いな、色々便宜を図ってもらったみたいで。しかし、どうして俺にそこまで親切にしてくれるんだ?」
それよりも、先程からずっと抱いていた疑問を博士にぶつける。
至れり尽くせりなのは有り難いんだが、度が過ぎていて少し不気味だ。
「……悪いと思ってるのなら、一つ頼みがある」
博士はそういうと、白衣の内ポケットから紙切れの様な物とペンを取り出し、俺に差し出す。
「これにサインしてくれないか? ボクが君に色々してあげてるのは、君のファンだからなんだよ」
博士の手には、俺が写っているヒーローカードが握られていた。
以前、親友である一条二郎から見せてもらった物に比べて光ったりはしていなかったが。
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