各々が守りたいもの
セバスティアンは悩んでいた。
盗賊団の1件でテオに起きた異変をどうしたら良いのかを。
(あれは何だったんだ?テオ坊じゃなかった!何かが取り付いたのか?)
まだ、信じられない光景を思い出しながら1つ1つ整理していた。
あの黄金色に耀いた姿は何だったんだのか?
賊を撃ち抜いたのは何だったんだのか?
アンナの元へ一瞬で現れたのは何だったんだのか?
そして
あの雷撃は何だったんだのか?
魔法を使えないのに高度な回復魔法を扱えるのか?
深いため息を吐きながら思いを巡らせていた。
アンナも悩んでいた。
まさかテオが、覚醒したかのごとく豹変し助けて守ってくれた事を。
思い出しても震える。
(あ~あっ、テオちゃんが助けてくれた!守ってくれた!お姫様抱っこされた┅)
顔を紅く染めテオの優しい温もりを思い出し身体が火照った。
アンナは仕事と研究ばかりで恋愛には疎かった。
25歳まで男など見向きもせず、とんと無関心な乙女であり、子供の頃からの夢は絵本の中の王子さまが現れて、守ってくれる人が愛する人だと信じていた。
テオがその王子さまなんだと確信してしまった。
しかし!
テオはまだ子供、7歳。
王子さまに身を委ねるには幼すぎた。
乙女とは言え25歳の女。
性欲は人並みに有る。
王子さまに抱かれるのは全女性の夢で有り望みでもある!
(7歳┅25歳?┅テオちゃん年上でも有りかしら?フッ┅オバサン?)
悩んでいた。
アンナはまだ知らない。
サラが知ってるテオの真実。
そして思い知る。
一緒にお風呂へ入った時に。
あの凄く立派なテオ自身を。
(フッ!)
だれ?
タニアも悩んでいた。
見てしまった。
裸の母親と抱き合いキスするテオの幸せそうな顔。
母親の潤んだ表情。
綺麗!
そうみえた。
母親が女の表情で、雰囲気でベッドに横たわる。
母親が告げた。
「キスしちゃった┅好きなの。」
1人の女がいた。
知らない女。
タニアは身体の異常に気がつく!
身体の中から熱いドロドロとした得体の知れないものが湧いて来る。
パタリと倒れた。
股の奥から紅いものが流れる。
下着から服まで、朱く染まる。
[初潮]
女になった。
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セバスティアンはアンナと話す。
「テオ様の事、どう扱うか?良かったら意見が欲しいのですが。」
「はい。考えてはいるのですが、まだ整理が出来なくて。」
「そうでしょう?しかし、早くしないとマズイ。あの力が本当にテオ様の物だったら辺境伯家が最強の存在に成るやも知れん。」
「そうなったらどうなるのですか?」
「う~ん多分、王都に召しあげられ王国の駒として一生飼われる事になるかな?
オーギュスト様ならテオ様を献上と言う形で長男のケント様を次期当主として王国の信用と辺境伯家の安寧を叶えられるだろう。」
「そんな!生け贄みたいな!」
「確かに、旦那様は前々からテオ様の事を疎まれておった。奥様が子を宿す事に反対だったし、ましてや男の子だったのが悔しくて仕方なかったようです。」
「わからないわ?」
「旦那様は奥様が子を産めないからサーシャ様を迎えられた。
期待通りに長男を設けられて行く末を安じられたのです。
そして、ミーリア様がサミエル様を産むと直ぐに騎士として王国に届けられたのです。
貴族として跡目をはっきりとしなければ後々とですな?」
「それは分かるけど。テオちゃんが生け贄になるってのはわからないわ。」
「わからないかぁ。
旦那様は奥様をそれは大事に思っておられます。本当なら奥様に第一子が授かれば良かったのだが叶わぬ夢と諦められた。
そして、今頃になって男子が産まれた。悔しかったのでしょう。」
「じゃあ、テオちゃんは望まれなかった子だったんだ!そんな子に凄い力が有ったら悩むわよね?」
「ははっ。旦那様はそんな生易しいお方じゃ無いですよ?
決められた事を覆す事など愚かだと常々仰られている。実は?ある噂を聞いたのですよ。」
「噂?」
「王都のお屋敷の侍女長が聞いて来ました。テオ様をある貴族の養子にすると旦那様が決めたんじゃ無いか?と。」
「はっ!養子?」
「決まった事じゃ無いと思うが、旦那様の事です、産まれた時から考えておられたんじゃあ無いですかな?」
「ひどい!我が子が可愛く無いの?」
「貴族とはそう言うものです!」
「私も子爵家だけど、女と男では違うのね?」
「何を今更。貴族の令嬢は政争の道具では無いですか?変わりません!」
「ううっ、貴族なんか産まれなきゃ良かった。って!私は道具じゃ無いわよ?そんな話し聞いた事無いし。」
「アンナ殿はウォレント家のご令嬢でしたかな?」
「ええ、次女よ。」
「ウォレント子爵は王国近衛騎士団の団長で、今は退かれ領地に居られると?確かお隣でしたな。」
「ええ、ローレンスダンジョンの近く。」
「アンナ殿は政争の必要が無い御家だったから今までご自分の思うままに来られたのですよ?」
「そうよね!お父様って欲が無い人だから。」
「しかし、テオ様の事は放っては置けません。何とかお守りせねば。」
「任せて!私がマリアンヌ様に話す。セバスさんは皆の口止めをお願い。絶対に知られたら駄目。」
「そうですね!奥様も何か助言なされると思います。」
2人は誓い合うように各々、行動したのだった。
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オーギュストは決めていた。
テオドールの事は学院にでも入れてどこかの貴族に任せるか?
それとも、商人あたりに任せるか?と。
貴族の3男など貴族では無いと思っていた。
責めて女児なら良かったものをと。
マリアンヌの子で無かったらすでに処理していただろう。
それ程悔やんだ。
今頃になって男子を産むなどと断じて許され無かった。
マリアンヌの為にサーシャを迎えたのだ!
あの高慢ちきな女を。
だから、ミーリアに溺れたのだ。
もう手遅れなんだと言い聞かせテオドールの将来を決めてしまっていた。
この辺境伯家を守る為に。
各々の思惑が動いてはいたが、テオはテオで決めていた事があった。
いつかこの家を出て行く事を
幼い頃から
転生者として冒険やこの異世界を旅して回りたいと
やり直しの人生
好きに生きて色んな事をしたいと思っていた
出て行く時が思っていたより早くなる等
知る由もなかった
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ジャンの場合
なんなんだ?
お金になるって言うから辺境伯様の屋敷に来たのにだ!
サラと一緒に居られると思ったのにだ!
俺は一度しかサラを抱いて無いんだ
その一度で子を身籠ってしまった
ついてない
サラの親父さんやお袋さんはカンカンに怒るし
内の親父なんか殴るし
タニアは懐かない
サラにも好かれて無いのかな?
ミラはかわいい!
サラには悪いがミラと一緒に居ると落ち着くし何時でも抱ける
確かに給金は良いけど命有っての事だから
今回みたいな事が次も無いとは思えない
サラにお暇なお願いしようって言ったら
キレられた
俺は怖い
死ぬのは嫌だ!
こんな所に居たらいずれ殺される
魔物だって周りに沢山いるのに
街が良い
田舎はコリゴリだ!
ミラの温もりと一緒が良い!
サラには未練は無いし、タニアにも愛情は少ない
逃げるか?
ミラはついて来てくれるだろう
辺境伯様も許して下さる筈だ
盗賊にボコられたのだから
ミラと逃げよう
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ジャンが1人で失踪したのは
テオがオーギュストに学院へは行かないと宣言して怒りを買った日の事だった