初めての出会い
7歳になった
お父様は殆どこの屋敷には来ない年に一度か二度程
他の兄弟も学校が休みの時にお父様と一緒に来る位で良くわからない
こんな田舎に来るのも面倒なのだろう
領都の屋敷までは馬車で4日も掛かる
王都迄なら2月ちょいも掛かる
辺境地なのだ
領都も王都と違い文化や風習も違う
違う国だと言われても頷ける
領地の端は馬車で一年程或いはもっと掛かる
行く先々でその街に寄って行くなら一年と2ヶ月は優に掛かると教えられた
テオ君の日課は大体決まっている
朝、薄暗い内に起きて、ランニング
湖の半分位を折り返し近くの村まで行って帰って来るコース
2時間程だろう
それから
セバスティアンと剣の修行2時間
終わったらお風呂にセラとタニアと一緒に入る
それから朝食
時間だと5時に起きて9時まで鍛練、10時に朝食と少し遅めだ
お母様が朝は苦手で大体9時頃に起きる事もあって丁度鍛練の時間に合うから
ゆっくり朝食を取りひと眠りしてから動き出す
勉強は大抵の事は習い終えている
長男のケントが習っている王立学校の全過程を5歳に成る前に終えた
前世で一応有名大学を出た身としてはこの異世界で習うものは地理と歴史位
後は魔術と剣、ダンス位か?
だから
お昼からは料理長のガンスにお弁当を作って貰い、薬草採集や釣り、魔力操作の訓練をしている
タニアは一緒に付いて来て同じ事をして、薬草や魔力操作を覚えていた
「テオ!これ図鑑に載ってないよ?」
俺が集めた薬草を調べながら覚える、そのルーティンで早く覚える事ができている
「それはレア物だよ 状態異常に良く効くポーションを作るのに必要な薬草だよ!
アメリア草って言うんだ」
「へえ~っ!じゃあ図鑑に書き足しとくね?」
タニアはいつもそう言って上手に絵を書いて薬草の名前と用途を図鑑に書き込んでいた
魚釣りも二人共上手くなって5匹づつ釣ったら釣りを辞め帰って調理場ヘ
早めに帰って来た時はドアーフのロドリゴの小屋へ遊びに行く
ロドリゴは庭の手入れや畑の管理、家財道具の管理、修繕と一家にお一人様って位器用なんだ
調理場の道具も全部管理している
さすがドアーフ!
刃物や魔道具はお手の物
鍛冶の仕方も教わった
ある時に畑でビニールハウスを教えたら作り始めた
しかし、この異世界ではプラスチックや塩化ビニール等 無い
骨組みは速くにできたが何を被せるのか?
途方にくれる
そこでスライムの登場
スライムを引っ張って被せたら?
イヤイヤ!そんな上手くはいかない
そんなデカクナイシ!
スライムは破けたら脆く死んでしまう
加工に向かない
そうだ!
確か防虫ネットでハウスを覆っていたなぁ!
侍女の皆や近くの村に頼みレース状の布を探して貰った
有った!
教会の神官達が被ったり羽織るベールの用な物
セバスティアンに頼み領都の商業ギルドに大きくて広いベール用の布を発注
一月後ビニールハウスみたく防虫ネットハウスが出来上がった
ロドリゴはドヤ顔で前世のトマトやキュウリ、ピーマンに似た野菜を料理長のガンスに聞いて植えていく
しばらくして、近くの村むらが防虫ネットハウスを作り倍の収穫をもたらした
領都の商業ギルドがノウハウをロドリゴに聞いてセバスティアンが製法や権利を契約してちゃっかりローレンス家の収益に貢献したのだった
ロドリゴは一躍発明家と噂される
ある日、いつもの様にタニアと一緒に薬草採集に来ていた
タニアは今日は珍しく帽子を被っている
「ねぇ?テオ、この帽子父さんが街まで行っときに買って来てくれたの 私の宝物」
「うん、似合ってるよ!」
本当に似合っていてサラと同じ赤い髪がキラキラと輝き白い帽子に赤いリボンが風に揺れていた
タニアもサラ似できっと美人に成るだろうと思って見つめてると、強い風か舞い上り帽子が素早く飛んで行く
俺はとっさに駆けた
そして初めて森の中へ足を踏み入れてしまった
「タニア!そこを動くな!必ず帽子持って来るから!待ってろ!」
しかし、タニアは俺の後を追い掛けて来る
夢中で追いかけ走ったらかなり奥まで入り込んだみたい?
大きな広い池が有って水面に浮かぶ島には
それはそれはとてつもない大樹がそびえ
それを見上げてウットリとしていると
「テオ!何ここ?綺麗!」
そう!
水は澄み切って陽の光りにキラキラと反射して降り注ぐ光りは虹をまとい池を照らす
そこに帽子がフワリと落ちて来て小さな光の粒達が帽子を運ぶ様に揺れた
「タニア?見てご覧?あれは妖精さん達だよ!」
「妖精さん?」
「うん、あの小さな粒みたいなのが妖精さん達だよ、下級精霊とも言うよ
ほら!
あっち!
大きな木の所、妖精さんかな?精霊かな?見えるだろ?」
「どこどこ?わかんない。」
「ほら、あそこ!あっ!こっちに来る!沢山」
沢山の妖精達と精霊がテオ達の所に翔んでくる
フフフッ ハハハッ
『ねぇねぇ僕達が見えるの?』
「うん!見えるよ?君は妖精さん?」
『僕は精霊、風の精霊シルフィだよ!』
「あっ!僕はテオ!テオドールだよ こっちは幼友達のタニア」
「ねぇねぇ?誰と喋ってるの?光の粒しかないよ?」
『ふう~ん、女の子には見えないんだ!君は見えてるんだね?話しもできる じゃあ触れるかな?』
シルフィは俺の肩にすーっと翔んできてちょこんと座った
『凄い!触れる!凄い凄い!』
「うん?そんなに触れるのって凄いの?」
『そりぁ凄い事だよ?人間が精霊や妖精に触れるなんて聞いたこと無いもん 見えたり話せる人間は居たけどね?』
「フ~ン!そうなのかぁ?
大した事じゃ無いけどな それよりあの帽子取って来てくれよ」
『なんだよ!本当に凄い事なんだって!まったく、変わってる人間だなぁ』
そう呟くと帽子を取って来てくれた
「ねぇ?テオには妖精さんが見えててお話もできるの?なんだかズルい!」
帽子を被せるとタニアが拗ねた様にプイッと振り返った
『ねぇねぇ?また会える?テオまた会える?』
『会いたい!会いたい!会いたい!』
口々に精霊や妖精達がテオの周りを囲み飛び回る
そして、大きな光りの塊になってテオが静かに浮かんで行く
『君は選ばれし者なんだ
精霊や妖精に好かれるのは君の魔力の香りが惹きつけるんだ 忘れ無いで僕達はいつでも待ってるから あの御方もいつも見てるから』
静かにタニアの側に降りると光の塊は大樹の上の方へと上がって行った
「テオ?大丈夫?」
「ああっ、さあ帰ろ?」
来た方角へと二人で森の中を歩いた
いつもは魔物が見える所なのに魔物は1匹も見当たらない
少しびくびくしながら歩いてたけど、何もなく森を抜けた
タニアは緊張したのか森を抜けると眠気がきたのかぐったりと持たれ掛かって来た
「しょうがないなぁ!ほら!おぶって行くから」
「ウウ~ン お願い」
タニアをおんぶして歩いて行くと目の前に大きな真っ白な狼が立ち塞がる
ジッと見つめる様に見下ろしている
俺は恐いとは思わなかった
それよりかは何だか懐かしい様な眼差しに心が締め付けられる
『選らばれし人間よ!やっと会えた その時が来たならばまた会おう!』
そう告げ颯爽と森の中へと消えて行く
俺は何故だかポロポロと涙を流し暫くは消えて行った真っ白な狼の後を見ていた
家に帰るとバタンと倒れそのまま寝込んでしまった
熱が出てアンナ先生とマーサ、サラや侍女達が俺の側から離れなかったらしい
3日も寝込んだようだ
寝てる時に夢の中で真っ白なヒゲをはやした爺様がなにやら話しかけてきた
『フオッフオッ!
やっと見つけた また随分と遠くに飛ばされたもんじゃ 見つからん訳じぁ
まったく、あの女神めぇいい加減な仕事をしおって!』
「あのぅ?あなたは?」
『わしは創造神と言う者じゃ
済まんかっのう永い事放って置いて
お前さんの事はずっと気係りじゃたんじゃよ?ヒロだったの?橘ヒロ』
「はい。そうですが今はテオドールってなってます」
『その事なんじゃがスマンかったのぉ
本当はお前さんは違う所に転生する筈じゃたんじゃよ 地球にな?
それをバカな女神が間違うてしまったんじゃよ
こんな異世界なんかじゃなく元いた地球で新しく生まれ変わって欲しかったんじゃけどのぉ』
「そうなんですか?そりぁまた、何と言えば良い物やら」
今更!
『だからどうじゃ?このまま地球へと転生し直さないか?本当に申し訳ない 今度はお前さんの望む人間へと転生させるからの?』
ちょっと待ったぁぁぁ!
な~に惚けた事言ってやがる転生し直すだと?
ふざけるな!
頭に来た!
「創造神様、ちょっとその女神とやらに会わせてくれないですかねぇ?」
『イヤイヤイヤ、会ってどうする?』
「な~に一発おもいっきりぶん殴れば気が済むかな?っと思って」
『フオッフオッ、殴るか?神を?
まぁそれも良いじゃろうなぁ
まったく最近の神々や女神達はたるんどる
まぁ、代わりにわしが殴っておくじゃて、お前さんは転生しておくれ。』
俺は考えていた
確かに地球への転生は魅力的だった
馴れ親しんだ世界だし勝手知ったるなんとかだし
う~ん
でもなぁ?
サラのあのおっぱい アンナ先生の太もも マーサのお尻 侍女達の柔肌
それにお母様
思いだすと涙が溢れた
もうこの世界が俺の住む世界なんだなぁ
「創造神様?
悪いけどこのままでお願いします
もうこの世界に家族が出来てしまったもんで」
『フムッ、良いのか?この異世界で?』
「はい、あなた様は知らないだろうけど今迄の時間は大切な物なんです
失いたくない掛け替えの無い物です」
『そうか!面白い!気に入った!
じゃたらお詫びと言ってはなんだが
わしから贈り物を渡そう
この異世界に見合った物じゃ 期待しておれ
悪い物じゃ無いからのフオッフオッ
それと女神には会いに来る様に言っておくでな?
たまにはわしも会いたいのぉ?そうじゃ、教会に行った時は呼んでおくれ会えるはずじゃ
では、また会おう!』
そう言って白い煙りの中へとバタバタと消えて行った
別に何の感想も無かった
目が覚めた時にはタニアが手を繋いだまま眠っていた
髪を優しく撫でてそっとベッドから出てお母様の橫に潜り込み泣きながら抱き締めていた
それからどの位経ったのだろう?
暖かな陽射しに目が覚めるとお母様が優しく見詰め髪を撫でてくれている
「僕を産んでくれてありがとう お母様に出逢えて本当に良かった ありがとう」
「テオ?あなたって子は、そうね、産まれて来てくれて、ありがとう 私の宝、私の命よ」
皆がドアを少し開けて覗いてる
そして
皆、涙を流していた