リリーシュア・タレス公爵令嬢は、悪役令嬢ではない
初投稿です。
よろしくお願いします。
ふわっとした設定なのでふわっと読んでください。
「リリーシュア・タレス公爵令嬢!貴様の悪逆非道っぷりには愛想が尽きた!貴様と私の婚約は破棄する事とする」
王国の貴族が通う学院の卒業式パーティー。
そんな華やかな場で、この国の第一王子であるアレン・デュ・ベジターの棘のある声が会場に響き渡った。
「え?」
卒業生で本日の主役の1人であるリリーシュアは一瞬反応が遅れてしまったが、すぐに弁解をする。
「何のお話でしょうか?私には全く心当たりが……」
「白を切るな!ここにいる、ミミリー・パキン男爵令嬢をイジメ、脅し、暴力とも言える行為を行った事だ」
「行為を……行う?」
「揚足を取るな!相変わらず可愛げのない!」
ミミリーの腰を抱き寄せながら、アレンがほんの少し頬を染める。
リリーシュア様は失礼ですわ、と胸に擦り寄るミミリーに、アレンが鼻の下を伸ばした。
リリーシュアにはやはり心当たりはなく、人間違いでは?と困った表情で訴えるが、アレンは顔を顰めるばかりだ。
「では、私がその、ミミリー様に何をしたと言うのでしょうか?」
「しらばっくれて!」
「そうだよ!」
「まずは謝るべきではないでしょうか?」
「人として、な」
アレンの後ろから、第二王子のユーレン、宰相の息子であるカート・エグプラン公爵令息、騎士団長の息子であるダレン・トーメト侯爵令息が現れる。
まるで断罪みたいだ、と周囲の卒業生も在校生もざわざわと騒めく。
しかし、リリーシュアとしてはそんな事を言われましても状態だ。
そんな中、ミミリーが涙を浮かべながら声を張り上げた。
「リリーシュア様酷いですわ!私にいつもキツイ注意を与えていた事を忘れられたのですか?」
「注意、ですか?」
「男爵令嬢のくせにアレン様達と仲良くするのが気に入らないと何度も注意されたじゃありませんか!私はただ同じ学校の生徒として仲良くしていただけなのに……っ!」
ううっ、と顔を手で覆うミミリーに、アレンも、そしてユーレンとカートとダレンも可哀相にと同情し、慰めるような仕種をとる。
リリーシュアはやはり小首を傾げるばかりだ。
「何度も、ですか?」
「何度もです!」
「では、絶対に私ではありません」
きっぱりと言い切るリリーシュアに、ミミリーが涙ながらに訴えているのに!とアレンが怒る。
「だからしらばっくれるなと……」
「何度も私が注意したのに、ミミリー様が長い髪のままだという事が何よりの証拠です」
きっぱりと言い切ったリリーシュアの言葉の意味が分からず、アレン達はえ?と一瞬固まってしまう。
「私は3度以上注意をして改善が見られない場合は、その者の髪の毛をなくします」
「「「「「え?」」」」」
「男女問わず、丸坊主にいたします」
その瞬間、いやああーーーーーっ!うわああーーーーっ!と何人かの令嬢や令息が叫びガタガタと震えだし、中には会場を走り去る人間もいた。
そんな様子をチラリと横目で見ながら、リリーシュアは、あら、と小さく呟く。
「今叫ばれたり出て行かれた方は、私が過去にマナーや行為を3度以上注意した方ですわね」
「ま、丸坊主とは言っても、先程叫んでいた令嬢達は皆ちゃんと髪が長いじゃないか。在学中に丸坊主になったらあんなには伸びない……」
「アレン殿下。私が魔法を使えるのをお忘れですか?」
リリーシュアがニコリと笑い、アレンが顔を顰めた。
この世界には時折魔法と呼ばれる力を持つ者が現れる。
その者達は国力になると重宝され、リリーシュアがアレンの婚約者に選ばれたのも、魔法を使えるからという部分が大きかった。
「それは知っている。しかし、貴様の使える魔法などくだらない物だろう?貴様が火や水を出しているような所を私は見た事が無いぞ」
「そうですね。私の魔法は分かり易く火の玉を出したり、水の滝を出現させたりという事はできません。私が使える魔法は、髪に関する事だけですから」
「……髪?」
「はい。私の魔法は、髪を伸ばしたり、生えなくなった髪を再生させたり、逆に二度と髪が生えないようにできる魔法です」
ナニソレ、と事情を知らないアレン達は思ったが、リリーシュアの言葉に先程錯乱していた生徒達が更に絶叫をしていたので、信じざるをえないのかもしれないと皆は思った。
「私が何度も注意した事が直っていないのなら、ミミリー様は今も丸坊主のはずですが、その様子はありません。それに、3度のカウントのために私は1度でも注意をした方の名前や顔は必ず覚えるようにしております。ですので、全く記憶にないミミリー様に注意を行った事実は無いかと」
頬に手を当て、困ったわあ、というように可憐な仕種を行っているリリーシュアだが、言っている事は結構えげつないと周囲の人間は思った。
「そ、それだけじゃないよ!ミミリーの教科書を破ったりしたのもリリーシュア、君だろ!?」
ユーレン第二王子がビシッと指を差しながらリリーシュアに訴える。
それに続けるように、ミミリーがグスッと目をハンカチで押さえながら口を開いた。
「そうです。私の教科書や大事な髪飾りをリリーシュア様が破ったり壊したりしているのを私は見たのです。確かに大事な物なのに机に置いたままにしていた私も悪いかもしれませんが……」
酷いです、と泣くミミリーに、ユーレン達が可哀相に、と同情の視線を向ける。
「私がミミリー様に悪意を向けて、ミミリー様の持ち物を壊したりしたと仰るのですか?」
「そうですわ!」
リリーシュアがおずおずと尋ねると、ミミリーが当たり前だと言うように声を荒げて返事をする。
「それでしたら、絶対に私じゃありませんわ」
「あのねえ、リリーシュア、君がしたとミミリーが……」
「ミミリー様を攻撃したいのに、何故ミミリー様の物を壊すのですか?」
「え?」
間抜けな声を出すユーレンに、うーん、とリリーシュアが困ったような表情を浮かべながら説明をする。
「私でしたら、ミミリー様を困らせたいと思いましたら、ご友人やご家族の大事な物を壊させますわ。例えば、我が国では子供が産まれたら、その年のワインを父親が購入し、子供が成人したら飲むという風習がありますので、そのワインを父親に割らせます」
「「「「「え?」」」」」
「この場合パキン男爵に、ミミリー様のせいだ、と唱えさせながらご自身で割らせます。それか、パキン男爵夫人にミミリー様のせいだと唱えさせながら割らせます。我が公爵家ならそれが可能です」
そんな酷い事を、とこの国の風習を知っている令嬢や令息達が顔を青褪めさせる。
貴族が成人した時に自分の生まれ年のワインが飲めないという事は、それだけ家の財政が厳しいか、子供が愛されていないかという認識だからである。
よって、世間体もあり、子供ばかりでなく親もワインは大事に保管するのが貴族の常識だ。
「その後は夫人の大事な物、そうですわね、例えば母君からいただいた大事な髪飾りなんかを夫人本人、または男爵に壊させます。勿論ミミリー様のせいだと言わせながら。その後はご兄弟がいればご兄弟の大事な物を。その後は使用人という形です。そしてその時、決してミミリー様の大事な物だけには手を出しません。ミミリー様が悪いのに、ミミリー様以外の人達の大事な物だけを壊すのです。そうすると、そのうち壊させた私よりミミリー様に悪意が向きます」
ね、とリリーシュアが笑顔を見せるが、アレン達は絶句していた。
「だから私じゃありません。あ、ミミリー様の家族やご友人が何かをされたのであっても、ミミリー様自身に教科書を破らせたり、髪飾りを壊させたりします」
だから自分ではないときっぱり言い切るリリーシュアに呆然としていたアレン達だったが、いや!とカートが怒鳴る。
「リリーシュア嬢!君はミミリー嬢を池に落としたりもしたじゃないか!これは暴行だよ!」
「そ、そうです!カート様に助けていただいたから良かったけれど、私、私……っ!」
うう、と涙を流すミミリーを見て、うーん?とリリーシュアはまた小首を傾げる。
「池に落としただけですか?」
「落としただけ、とは何だ!充分に酷い行為じゃないか!」
「でも、今ミミリー様が生きてらっしゃるなら、絶対に私じゃありませんわ」
サラリと凄い事を言ったリリーシュアに対し、カートは言葉を続けられない。
「もし私がミミリー様を池に落としたなら、ちゃんと最期まで見届けますわ。それに、ただ落とすだけなら絶対にありえません。池などであれば、どれくらいの重りをつけていれば沈むかを実験しながら沈めます。重りがついていなければ私じゃありませんし、重りがついていましたら、……失礼ですが、カート様では助けられないのでは?」
細身で顔の良いカートだが、筋肉が無いのは一目で分かる。
本人もそれなりにコンプレックスなのか、顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。
「それに、そもそも池に沈めるなんて意味がありません。水を使うなら、もっと違う方法を取ります」
「違う方法?」
カートが訝し気に尋ねると、はい、とリリーシュアが少し頬を赤らめながら説明を始めた。
「体を固定して、30分に一度だけ顔に水をかけるのです」
「…………そんな事をして何になると……」
「それをずっと続けます。そうすると、水をかけられる方は段々と時間間隔が分からなくなり、次はいつ水をかけられるか、もっと酷い事をされるのではないかと発狂するらしいのです。私も書物で見ただけの方法ですので、本当に発狂するのかを存じませんから、池に落とすくらいならこちらの方法をとって、実験を行いますわ」
どれくらい時間がかかるのかしら?本当に発狂するのかしら?と声を弾ませるリリーシュアに、周囲はシンと静まり返るばかりだ。
しかし、ここで声を荒げられた男がいた。
「そ、そんな事、ただの公爵令嬢ができる訳がない!嘘を吐いて言い逃れをしているだけだ!」
ダレンが叫ぶと、確かに、と思う人間もいる反面、先に発狂している人間を見ると嘘とも思えない。
ざわざわとまた周囲が騒めきだすと、ふー、とリリーシュアが溜息を吐いた。
「ダレン様、私が嘘吐きみたいな言い方はよしてくださいませ。兄妹揃って私を嘘吐き呼ばわりいたしますのね」
「兄妹……?ベッキーの事か……?」
ダレンの言葉にリリーシュアは頷く。
「ベッキー様も、私が誰かをイジメていたと仰られていました。……あ、ミミリー様の事だったんでしょうか?」
「……ベッキーは確かにミミリー嬢の友達だが……」
「そうでしたのね。それで、私が何度否定しても受け入れていただけなかったので、受け入れていただけるまで注意をいたしました」
「なっ……!?」
「百聞は一見に如かず、ですかしらね。騎士様、お手数をかけて申し訳ないのですが、ベッキー・トーメト令嬢を連れてきていただけるかしら?寮のお部屋にいらっしゃると思うから」
会場を警備していているにも関わらず、顔を青褪めさせた騎士2名が慌てて会場の外へと走り出す。
その様子に皆が唖然として暫くすると、会場の外から悲鳴が聞こえたきた。
「嫌よ!こんな格好で人前に出るなんて絶対に嫌!」
「うるさい!お前を連れて行かなければ俺達が被害に合うんだ!」
「タレス公爵令嬢に歯向かったのが運の尽きだと思え!」
そんな怒号の中、会場の扉が開き皆の視線がそこに集まる。
「いやああああああああああ!!!!!」
髪が全く無いが、確かにダレンの妹、ベッキーだ。
懸命に頭を手で押さえても無駄だった。
そこには丸坊主のベッキーがいるばかりだ。
「ベッキー……?」
ミミリーが声をかけると、ベッキーが憎悪の視線を送る。
「あんたなんかに泣きつかれても無視をすれば良かった!あんたのせいで私の髪が……っ!」
うあああああ!と泣き叫ぶベッキーに、ミミリーが絶句する。
そんな中、てめえ!とダレンがリリーシュアに駆け寄った。
「俺の妹にあんな酷い事を……っ!」
「でしたら元に戻しましょうか?」
ニコリと笑うリリーシュアに、え?とダレンの体が固まる。
「代わりがいればベッキー様の髪は元に戻しますわ。それで、お兄様のダレン様とお友達のミミリー様、どちらが代わりになられますか?」
「「……え?」」
「ベッキー様はいずれ髪の毛が生えてきますが、身代わりの方は一生髪の毛が生えないようにさせていただきます。まあ、世の中鬘というものがあるのでいまいち罰にはならないかもしれませんが、できる限り鬘は壊す方向で頑張りますので」
公爵家一同頑張ります!とリリーシュアがギュッと胸の辺りで拳を握る。
仕種だけ見れば可愛らしく微笑ましい。
「一生、生えない……?」
ダレンの問いに、リリーシュアは笑顔で答える。
「はい!ダレン様はキャロン伯爵をご存知ですか?」
「…………あ、ああ……」
キャロン伯爵の頭を思い浮かべながら、ダレンは汗を流しつつ返事をする。
「この間、キャロン伯爵には横領の罪が見つかりましたが、軽い刑のみで終わりそうでしたので、私が一生髪の毛が生えないように魔法をかけました。それまではご年齢にしては髪の毛がある方だったかと思われますが」
確かにそうだった、とダレンは思い出して震える。
ほんの3月くらい前までは、キャロン伯爵は普通に髪が生えていた。
短くはしていたが、それでも毛が生えていた。
だが、今は不自然な鬘を毎日被っており、どうしたのだろうかと思っていたのだ。
軽いとは言え刑に処され、何か頭に傷を負うような事でもあったのかとばかり思っていた。
「ダレン様は男性ですが、騎士様は外でお仕事をする事もありますよね?髪が無いと汗がダイレクトに目に入ったりして大変と聞きます。その点、ミミリー様は男爵令嬢ですし、外で汗をかくような事は滅多にされませんよね?鬘の破壊も2~3日に1回程度が限度ですし、そもそも髪がなくても生きていけますでしょう。それで、ベッキー様の代わりに毛根を差し出すのはどちら様?」
ベッキーがミミリーとダレンに懇願する視線を送るが、2人はそっと視線を外した。
その瞬間にベッキーが顔色をなくし、そして瞬時に顔を真っ赤に染めた。
「お前等のせいで私がこうなったのに!何が大事な親友よ!何が大事な妹よ!嘘吐き!嘘吐き!私の髪を返せ!お前等の髪で私の髪を返せ!!!」
「騎士様達、もう大丈夫ですわ。ミミリー様もダレン様も身代わりにはなられないようですし、ベッキー様を寮の部屋にお連れください」
「「はい!!!!!」」
絶対に許さない!死ね!と呪いの言葉を残しながら、ベッキーは騎士に連れ去られていった。
それを見送り、リリーシュアはニコリと笑みを浮かべる。
「アレン殿下」
「ふぁいいい!」
「私はミミリー様に嫌がらせやイジメは決して行っておりませんが、婚約破棄は承りますわ」
リリーシュアがカーテシーを行った瞬間、会場の扉が再び開いた。
「アレン!ユーレン!どういう事だ!?」
「「父上!」」
「陛下」
この国の王である、クラウス・デュ・ベジターが慌てて入ってくる。
リリーシュアの父、エルマー・タレス公爵も共に。
2人にリリーシュアが簡単に説明する。
「陛下、お父様。アレン殿下に婚約破棄を言い渡されましたので、今承ったところですわ」
「何をやっとるんだ……」
クラウスが頭を抱える。
エルマーの方は何とも言えない表情を浮かべるばかりだ。
「陛下……、いえ、おじさま」
クラウスの妹を母に持つリリーシュアが、珍しく陛下、ではなく血族だと言う事を前面に出した呼び方をする。
「皇太子候補はアレン殿下かユーレン殿下のままでよろしいのですか?あの2人のうちのどちらかが国王になるのは、この国のためにならないのではありませんか?」
「し、失礼だぞ!リリーシュア!」
「そうだよ!不敬罪だ!」
怒るアレンとユーレンに対し、リリーシュアは戸惑うばかりだ。
「……たかが1学年300人程の学院で、テストで10位以内に入れない第一王子と、100位以内にも入れない第二王子なのにですか?」
アレンもユーレンも二の句が続けられない。
入学から卒業までずっと一位を取り続けていたリリーシュアには特に。
「アレン殿下の婚約者をやめた今、王位継承者第3位の私としては苦言する権利くらいはあると思いますの」
アレンもユーレンも絶句する。
確かにリリーシュアは従姉妹でもあり、前国王から見れば孫なので血筋としては王家の者とも言える。
それに、過去、女王が統治した時代も有ったので、リリーシュアが王位につくという可能性は0ではない。
「しかし父上!リリーシュアが王太子になるなど!」
「おかしな話ではありませんか!」
「いや、でも……」
「陛下。そろそろ魔法を継ぎ足しますか?」
リリーシュアの言葉に、クラウスとエルマー以外の全員が小首を傾げる。
クラウスが困ったような声を出した。
「リリーシュア、こんな場所で……」
「どんなに魔法で生やしても、抜けるスピードが速い方が一定数いらっしゃいますからね。陛下の場合はお血筋もありますでしょうし」
その瞬間、アレンもユーレンも。
そしてこの場にいる全員が理解した。
王家の血筋の男は代々薄毛だった。
前国王、アレンやユーレン、リリーシュアの祖父も薄かったし、曾祖父はもはや無いに等しかった。
しかし、クラウスはまだふさふさだし、そう言えば祖父は最近毛が増えてきていたのではないかとアレンもユーレンも思い出す。
「私が王になりましたら、功績を残した大臣や貴族には褒美に髪の事も付けたしますし、悪い事をしましたら刑にプラスして髪の事に口出します」
ある意味脅しだ。
そんな事に屈するなんて事はありえるか、と若いアレンやユーレンは思うが、親世代にはある意味命よりも大事な事柄なのである。
「……皇太子の件は一度白紙に戻そう。王位継承者の第一位から第三位、アレン、ユーレン、リリーシュアから再度検討する」
「「父上!?!?!?」」
「陛下の決定に従いますわ」
狼狽えるアレンとユーレンとは違い、リリーシュアは優雅にカーテシーを行う。
その対比を見れば、自ずと自分の国の未来が見えるようだった。
「それで、ミミリー様」
もう一言も発する事ができなくなっていたミミリーに、リリーシュアが笑顔を向ける。
「私、嘘吐き呼ばわりされるのが嫌なんですの。ミミリー様が私にされたと言う事をちゃんと有言実行いたしますわ」
「ど、どういう……」
「注意はまだ3度行っておりませんし、先程ベッキー様の身代わりの件もありますので、髪の毛の事はいったん保留にいたしましょう。なので、とりあえずは男爵家でワインなどを男爵に割らせて、それから水をかける実験を行う事ですかしらね?」
ニッコリと笑うリリーシュアに対し、もはや顔色を失ったミミリーは絶叫した。
「ご、ごめんなさい!私何もされていません!公爵令嬢でしかも美しいリリーシュア様に嫉妬しただけです!アレン様達は単純だから、少し嘘を吐くだけでリリーシュア様を悪者にしていく様を見るのが楽しかっただけです!」
ミミリーの言葉に、アレン達4人は顔色をなくし絶句した。
周囲の人間はただただ嫌悪を顔にするばかりである。
ただ、リリーシュアだけは笑っていた。
「あら、あなたが今嘘を吐いてるとか吐いてないとかはどうでも良いの。私が嘘吐きにならなければそれで良いんですわ。陛下、私を貶めようとした罪で、ミミリー・パキン男爵令嬢の処分を私に任せていただけますわよね?」
「…………いや、しかし……」
「あら、私許可していただけなかったら、悲しくて暫く陛下に会いに行けないかもしれませんわ。1年か2年程は」
「許可する!騎士達よ!リリーシュア嬢の手伝いをしてやりなさい!!!」
「「「はいっ!!!!!」」」
「いやああああああああ!!!」
ミミリーの叫び声がドップラー効果と共に遠ざかっていく。
シンと静まり返った会場で、リリーシュアは優雅に笑った。
「それでは皆様。せっかくの卒業式で騒いでしまって申し訳ありませんでしたわ。婚約破棄されたみっともない私は退場させていただきますので、この後は卒業式パーティーをお楽しみくださいませ。それでは、ごきげんよう」
リリーシュアは美しいカーテシーを行い、そしてパーティー会場を後にした。
そして数年後。
リリーシュアは女王となり、国を統治する立場となった。
家臣は皆リリーシュアの言う事をよく聞き、国民を大事にする政策をよく行ってくれるリリーシュアは国民達からも支持を得ていた。
悪人達も少ないクリーンな国となり、周辺国もリリーシュアに心酔する者は多かった。
リリーシュアを悪役令嬢だ、などと言う者もいたが、そんな声は髪を求める権力者達がそっと消していたので、リリーシュアは悪役令嬢ではないのである。
ご指摘のあった部分を変えさせていただきました。