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方舟に乗るのは誰か

作者:


「ノア様ーーーー!」


大声と共に、バタバタとした足音が近づいてくる。

バン!と勢いよく開いた扉の向こうには、肩で息をする小人が1人。


「どうしたんじゃ?そんなに慌てて。そろそろ出発だからの、わしもそんなに暇ではないん…」


「種族No.108ニンゲンが争ってます!」


初老の男…ノアの声を遮って、小人…セムが訴える。

大洪水を前に、あらゆる種族の雌雄を詰め込み、いざ出発という大事なこの時に、何やら問題が起こったらしい。


「ふむ…雄が暴力でもふるっておるのか?」


ノアは、雌が死んではまずいんじゃがのぅ、とのんきに答えながら、仕方ないので様子を見に行くことにした。


「いえ、雌が暴力をふるってます」


ノアの脇をぱたぱたと歩きながら、とても面倒くさそうにセムが答える。

はて?あの種族は雌が強かったかの?女王蜂じゃなかろうし…と考えながら、押し込んだ部屋に向かった。


部屋に近づくにつれ、怒鳴る声が聞こえてきたが、確かに女の声しかしない。

いや、男の声が小さいのか。


「何をやっとるんじゃ?」


後ろから声をかけると、少女を少し過ぎたばかりの若い女が勢いよく振り返り、重そうなドレスの裾がふわりと広がった。

髪は輝く金髪の縦ロール、ばっちり化粧の顔は目鼻立ちくっきり、可愛いのだろうが、少しきつい印象を受ける。


「ちょっとあなた!ここから出してくださる?わたくしこの方と一緒の部屋にいるなんて、吐き気がしますの!」


訂正。

少しではなく、だいぶきつい印象を受ける。


「そんなこと言われてものぅ…」


「わたくしをバベル公爵家の令嬢と知ってのことですの?この方、平民でしょう?同じ部屋なんてありえませんわ。そもそもこの部屋はなんですの?我が家の玄関ホールより狭いですわ」


令嬢という生き物はもっとお淑やかと聞いていたような気がするが、目の前の女は口数も多く、とにかく文句しかないようだった。

やっぱり面倒くさいと思いながら、ノアは顎に手を当てて髭を撫でながら考えるそぶりを見せる。

これ幸いとさらに畳み掛ける令嬢は、わがまま娘でしかなく、これからの方舟生活に適用できそうもないと思われた。


「そんなにこの部屋は嫌なのじゃな?」


「ええ、当たり前ですわ!」


ふふん、と得意げに笑い、平民の男を見下すした。

その間、男はいっさい喋らない。

怯えた様子はないが、何が言いたいのを堪えているようにも見え、自分より若いであろう女に口答えするのを我慢しているようだった。

そう言えば、ニンゲンは上下関係が面倒くさかったのだったな、と思い直し、


「そしたらお主はもう出てよい。セム、新しい雌を連れてこい」


令嬢は瞬きの間に部屋から出し、方舟からも降ろした。

洪水が迫る、海辺に降ろした。

何やら喚く声がしたような気もするが、願いは叶えてやったのじゃしと無視する。


「ノア様!急いで探してくるんで出発しないでくださいよ!!」


半分怒ったようにセムが出て行った。







「と言うことが、3代前にあってね?選定し直しで大変だったんだよ」


と今世のノアが苦笑する。

淡い緑の髪と瞳、人間ではないように思われ、人々はその声を聞き、金縛りにあったように動けなくなった。

突然現れた存在が人ではなく神なのでは、と、考え始める人さえいた。


「だから今回は僕選ばないから、自分達で誰が方舟に乗るか決めてくれないかなぁ?あ、雄1人雌1人だからね?それ以上いたら乗せないからね」


ひどい内容だが、誰も反論する声も出せずに、ノアの言葉を聞いていた。


「期限は…大体7年くらいかな?あ、乗らないって選択もありだよ、その場合はニンゲンは滅びるけどよろしくね」


じゃ、そういうことだから〜とひらひら手を振って消えたノア。

取り残された人々は徐々に動きを取り戻し、

その後は、混乱した。


「残せるのが男女1人ずつだって?」


「冗談だろ?夢か?」


「…いやよ、私は死にたくない」


「そんなの俺だって!おい、お前辞退しろよ!」


「は?何言ってんだ?!お前が辞退しろ!」


始まった言い争い、初めに手を出したのは誰だったか。

1人1人と命を奪われ脱落し、減って行き。

最終的に街には男1人、女1人になった。

が、


「…この街以外にも人間いるわよね?それが残ってたら意味なくない?」


「確かにそうだな…とりあえず隣街に行ってみるか」


自分だけが生き残るための争いは終わらなかった。






「ノア様ー?そろそろ方舟作りませんかー?もう250年も経ってますよー?」


セムはゴロゴロとくつろいでいるノアに声をかける。

ニンゲンに選定を命じてから、250年が経ってしまった。

7年と言ったのに、どれだけ怠ける気なのか。

ノアは枕を抱えたまま、


「自分達で勝手に減ってくれてるからねー、方舟で流さなくてもいいと思うんだ」


そう、悪い顔で笑った。








ノアの方舟から。



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