身体が弱くて死んでしまった私は異世界でも身体が弱くて、そんな私にも王子は一生懸命に尽くしてくれました
「……私……、もうすぐ死んじゃうんだよね……」
病院のベッドの上で、私はそう呟いた。
でも、不思議と涙は出てこなかった。
いつこの世から離れることになってもおかしくはない……
……私はずっとそう思っていたから……
私は生まれた時から、ずっと身体が弱くて入院と通院を繰り返していた。
「……でも、大好きだった未完の本を最後まで読めなくなっちゃうのは嫌かも……」
私は外で元気に過ごせない代わりに、本をたくさん読んできた。
中には連載が終わっていない本もある。
その本を読めなくなることが、少し心残りだった。
そして、一ヶ月後、とうとう私に死が訪れた。
◇
「……ここは?」
……あれ、私って死んだんじゃないの?
私は気がつくと、ベッドの上に横になっていた。
辺りを見渡すが、中世の王宮にある部屋の設えが施されており、私が本を読んで知っている死後の世界とはずいぶんと印象が違った。
「……ああ、ようやく目を覚まされたのですね、アイラース……」
……アイラースって誰?
もしかして、これって本で読んだことのある異世界転生?
「……あなたは?」
「あ、宮廷医が言っていましたが、記憶を失っているかもしれないんですよね……。では、改めて自己紹介をしますが、私はこの王国の第一王子クレイシアと言います。そして、あなたは私の婚約者です」
「……婚約者?」
私が王子様と?
そんな恋愛小説みたいな話が本当にあるのだろうか……
……私は人生を諦めていたのに、異世界に転生をして、王子様が婚約者だなんて……
「コホッ、コホッ!」
「……無理はなさらないでください……。一時は命を落としかねないほど、体調を崩していたのですから……」
……それって、この世界でも私は身体が弱い人間ってこと?
そんなのって……
……異世界に転生をして、ようやく元気な身体で動き回れるようになれると思ったのに……
結局は、身体が弱いままだなんて……
「……申し訳ございません、クレイシア王子……。こんな私と婚約関係だなんて……。今すぐにでも婚約を解消して、他のもっと素敵な人を見つけてください……」
一度死んだ時に、家族にはものすごく悲しい思いをさせてしまった。
そんな思いを、憧れの異世界の王子様にまで経験させたくない。
「え? ……あ、そうか……、記憶を失っているから……」
「……どうかされましたか?」
「いえ、まるで別人のようだと思いまして……」
「……申し訳ございません……、記憶を失ってしまいましたので……」
「あ、こちらこそ、病み上がりにも関わらず、悩ませるようなことを話してしまい、申し訳ありません……。……ですが、私はあなたとの婚約を解消するつもりはありませんよ。……たとえ短い人生になるようなことがあったとしても、そんなことは言わずに、どうか傍にいさせてください……」
クレイシア王子はそう言いながら、悲しそうな表情をしていたため、それ以上は何も言わなかった。
◇
「こんなに元気になれるなんて、私、夢のようです!」
「まだ、あまり無理はしないでくださいね……、アイラース」
まさか、私が元気に走り回れる日が来るなんて、夢にも思わなかった。
「これも、全てクレイシア王子のお陰です!」
クレイシア王子は時間を見つけては、部屋から出ることのできない私のところに来てくれて、お話に付き合ってくれた。
本が好きだと伝えると、山積みの本を持って来てくれた。
辺地に病に効く薬草があると聞きつけると、急いで薬草を探しに行ってくれた。
「……それは違います……。アイラースの生きたいという気持ちが、病をやっつけたんですよ」
たとえそうであったとしても、そういう気持ちにさせてくれたのはクレイシア王子だ。
……クレイシア王子は、アイラースのことを本当に愛してくれていた……
だからこそ、もう終わりにしないといけないよね……
「……私、ずっと、クレイシア王子に言えなかったことがあるんです……」
「……急にどうしたんだい、アイラース?」
私が真剣な顔で話し始めると、クレイシア王子も真剣な表情になった。
「実は私……、……クレイシア王子が愛しているアイラースではないんです……」
「……それはどういう……」
クレイシア王子が戸惑っている。
……それはそうだよね……
客観的に考えると、自分でもおかしなことを言っているのは分かっている。
「私、この世界とは違う世界の人間なんです。別の世界で死んでしまって……。この世界のアイリースとして転生したんです……」
「……そうだったのか……」
「だから、クレイシア王子が愛した私はアイリースではないんです……。……今までだまし続けるようなことをしてしまい、申し訳ありませんでした……。ですから、以前にもお話しましたが、どうか婚約はなかったことにしてください……」
そう言って、私は頭を下げた。
……本当は別れたくない……
クレイシア王子のことは心から愛している……
でも、愛しているからこそ、クレイシア王子を不幸にさせてしまうような嘘をつき続けてはいけない。
そう思った。
「……どうして、婚約を解消しないといけないんだ?」
ごく普通に、自然にクレイシア王子はそう言った。
「え? ……ですから、私はアイリースではないと……」
「私が愛したのはアイリースではなく君だよ」
「……それは、どういう……」
「アイリースが記憶を失う前と後とでは、全く性格が違ったから、疑問には思っていたのだが……。今日の君の話でようやく分かったよ。元々、私はアイリースとの婚約には乗り気ではなかったんだ」
「……そんなこと……」
だって、アイリースのために、あんなに一生懸命尽くしていたのに……
「だから、記憶を失う前のアイリースのところに通っていたのは、正直、義務で行っていたんだ。……だけど……、君が現れてからは違った……。少しでも長く君の傍にいたい。少しでも多く君に逢いたい。そう思って、君のもとに通っていた……」
「それってつまり……」
「私が愛しているのはアイリースではなく、君だということだよ」
……嬉しい……
嬉し過ぎる……
ずっと、ずっと悩んでいた。
いつかはこの関係を終わりにしないといけないんじゃないかって……
……クレイシア王子と離れないといけないんじゃないかって……
それは、死ぬよりも辛いと思っていた………
「コホン! ……それで私は告白したわけだが……、……君の返事は?」
クレイシア王子は恥ずかしそうに目をそらしながら、そう聞いてきた。
「もちろん!! 私もあなたを愛しています!!」
私はそう言って、クレイシア王子に抱きついた。
そして、クレイシア王子も私のことを強く抱きしめてくれた。
すると、なぜかポロポロと涙が溢れ出した。
……どうして?
現実世界で死ぬ時にも流さなかったのに……
……そっか、そうだよね……
涙は悲しい時だけじゃなくて、嬉しい時にも流すんだよね………
今までずっと辛い人生だった。
でも、クレイシア王子に出逢えて、人生にはこんなに感動や喜びがあるんだということを知った。
……できることならこのままずっと、クレイシア王子と幸せな人生を……
私はクレイシア王子をギュッと抱きしめながら、心の中でそう強く願った。
最後まで読んでいただきありがとうございます!!
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『悪役にされた天然系の令嬢は王都を追放された後も心優しい伯爵の息子達から愛されました』
というタイトルで連載小説を書き始めましたので、興味のある方は、そちらも読んでいただけると幸いです。