世の中には怒らせてはいけない人がいる。
ジルコン公爵が本気で怒ってます。
「う……嘘だ。そんな事は無い。嘘に決まってる」
「そ、そうよ。パトリックの婚約者は、あたしなのに」
理解できない状況に、とうとうジルコニア親子が叫び出した。
彼らが叫び出した時、彼らの周りに居た者達は潮が引くように居なくなり、2人だけがぽつんと立っている。
「何を以てして嘘だと?」
闊達で、鷹揚な笑顔だったジルコン公爵が猛禽類のような鋭い目で睨み、いつの間にかジルコン公爵の側に居たラリマー宰相は、冷徹な視線を向けている。
「何が嘘だ、と聞いている。答えよ、ジルコニア元伯爵」
ジルコニア元伯爵。
ラリマー宰相の一喝に、ジルコニア親子は顔面蒼白になる。
「ジルコン公爵は吾輩を後継者にすると……」
「ああ、服従魔法のアイテムでわしの意識を抑え込んでいた時にそんな事、言ってたな」
ジルコニア元伯爵の罪が1つ暴かれた。
「わ、吾輩はそんな物……」
「使って無い、とどの口が言う?もっとも、あの程度の物、すぐに解除できたがな」
ジルコン公爵の獰猛そうな目が、冷たく笑っている。
「ですが、閣下程強い魔力を持たないものは支配されて、意に沿わない行動をとっておりましたよ」
ラリマー宰相の手にはまた、別の書類が渡されている。
「……あの書類、揃えたのは貴方ね」
シルヴィーがチラッとアーネストを見て、唇の動きだけで問いただせば、実に清々しい笑顔が返って来た。
「わ、吾輩は……」
「偽りを口にしない方がいいですぞ。真実の蔦にその首を絞められたくなければ、な」
「ぎゃあああ」
「ひぃぃ」
悲鳴が上がり、会場のもの達の目が一斉に、ジルコニア元伯爵達の足元に向けられた。
まるで有刺鉄線のような蔦が、2人の足に絡み付いて、ギシギシと音がしそうな程締め上げていた。
「これはカインの作った魔道具?」
「いや、カインの部下で、アレに家族を殺された錬成士が作った」
アーネストの言葉に、シルヴィーの目は悲しげに閉じられた。
どれだけの人間を苦しめて来たのだろう。
己の欲望を満たす為に、何人もの人間を殺して、いくつもの家族を不幸にして来た。
このまま黙っていれば蔦は間違いなく首に絡み付き、首が切れる程締め上げるだろう。
でも、それでは法が無くなってしまう。どれ程の悪人でも、法の裁きなしに処刑するのはただの私刑だ。
「ユーリファスお爺様」
シルヴィーは、この騒ぎを止められる人に自制を求めた。
ラリマー宰相もおっかない人でした。まぁ宰相様だからなぁ。




