溺愛は遠慮します。
誤解は解けた様です。
試験休みにロードライト家に帰ってきたシルヴィーは、新年の舞踏会用に用意されていたドレスに唖然としていた。
「お父様、本当に私がこれを着るのですか?」
「アーネストが着て欲しい、と用意したものだ」
ドレスは素晴らしいものだ。
大量のリボンやフリルは無く、シンプルなドレスで、白をベースに裾へと紫のグラデーションが美しく、繊細な刺繍が銀糸と黒絹で施され、宝飾品はアメジスト一択。
「どう見ても、ダドリーとアーネストの色しかないのですが」
「アーネストが着る夜会服は、シルヴィーの色だったぞ」
レイモンドの言葉に頭痛がする。
「何故止めてくれなかったのです」
「婚約式も合わせるから問題無し、と思ったからね」
あっさり言われ、それでも止めて欲しかった、とは言えない。
「安心しろ、夜会服はシルヴィーと同じ白ベースで、刺繍がシルヴィーの髪の色で、ネクタイピンやカフスが瞳の色だ」
安心材料とは言い難いが、全身赤紫でない事は有り難い。
「陛下への挨拶の時に、ですか?」
アーネストとの婚約を報告する手順を確認しようと思ったのに
「ジルコン公爵家の挨拶の時に、だそうだ」
「何故」
「ジルコン公爵様とは一応、義理でも身内になるから、孫娘の婚約式も任せろ、と」
歯切れの悪いレイモンドだが、ジルコン公爵相手に文句は言えない。
「だからジルコン公爵様は、ユーリファスお爺様と呼べ、と仰っていたのね」
「あはは。当日は諦めて、ジルコン公爵様の思惑に乗るか」
ジルコン公爵はリーリウム家族の為に、きっとジルコニア一族を断罪するだろう。
その計画の一端を担うのは、親族となった自分達の責務。
「ハロルド兄様やアーネストが何かを企んでいる様ですが、私には教えてくれません」
「今回はアーネストの初仕事になるから、私達は静観するべきだと思う」
「アーネストの暗躍っぷりが、少し怖いです」
「仕方ない。アーネストはシルヴィー、君を溺愛しているからな」
「溺愛……ですか。では、その内、私は監禁されたり精神を拘束されるのですね」
シルヴィーからのとんでもない発言にレイモンドは目を白黒させながら、それは違う、と溺愛の説明を始めた。
「あら?随分違うんですね」
「違いすぎて、訂正箇所だけで夜が明けそうだ」
夜は明けなかったが、かなりの時間を使い、レイモンドはシルヴィーの思い込みを訂正していった。
「溺愛の意味を間違えていた様ですね。ですが、私はやはり溺愛は遠慮したいです」
「何故かな?」
「私は守られるのでは無く、アーネストとは共に歩みたい」
「良い返事だ。アーネスト、我が娘は良い女だろ」
丁度部屋に入ってきたアーネストに、レイモンドが声を掛ける。
「はい。私の婚約者は最高のレディです」
アーネストの心からの笑みに、シルヴィーは頬が赤くなったが、そっと彼の側に寄った。
やっと新年の舞踏会に辿り着いた。




