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もう1人のパパ?

シルヴィーちゃんを溺愛するもう1人のパパ?登場。

次の日、シルヴィーはサンプルが出来上がった、との連絡を受け、王立魔術院の建物のそばを歩いていた。


ウィリアムのお陰で王宮内もある程度の場所ならほぼ顔パスになっている。


チラッと城の大時計を見れば待ち合わせの時間にはまだ余裕があるので庭を散策していると剣で打ち合う音がしてきた。

騎士達の訓練場が近いのだろう。

建物の角を曲がれば訓練場が見えて、騎士達が訓練をしているのが見える。


「実力に合わない物を持っているなぁ」


独り言を呟くシルヴィーの視線の先にのっぺりした顔で偉そうに立ち、同僚に怒鳴り散らしている騎士がいる。

手には見事な剣が握られているが、どう見ても分不相応の剣だ。


父親が軍事顧問である所為かシルヴィーも訓練は受けているし、力量を測る事は父親よりも優れている。


「シルヴィー」


背後から知った者の声がした。


「アンバー第一騎士団長様」


黒髪に琥珀色の瞳の、泣く子も見惚れる騎士団長にシルヴィーは笑顔を向けた。


「またそんな硬っ苦しい呼び方で……」

「此処は王宮ですから」

「本当に君、11歳?」


エインの言葉にちょっとだけ頬を膨らませるとエインは楽しげに笑った。


エイン・アンバー伯爵令息。現王立騎士団、第一騎士団団長である彼はシルヴィーが赤ちゃんの時からの知り合いだ。


現在、25歳のエインとはもう10年以上の付き合いだからこそシルヴィーの最近の噂を聞いても驚かなかった。

実は記憶を取り戻した5歳くらいから魔力が増え始め、ついでに勉強もしていたがシルヴィーはその力を家族にも隠していた。

だが、偶然にシルヴィーが魔力を発動させた所を見たエインがチラッと聞けば


「面倒な事になりそうなので」


と返すあたりなみの子供では無いことくらいすぐに分かった。

だが、すぐに家族には内緒にして、とお願いをしてくるシルヴィーの困った顔で小指を出す仕草が可愛らしくてエインは小さなシルヴィーの小指に指を絡め、額に口付けていた。

それからのエインは娘を溺愛する父親のようにシルヴィーを殊更可愛がり、今では独身のくせしてシルヴィーを本当の娘以上に愛している。


「で、何が気に入らない?」

「あの騎士、剣受式受けましたか?」


シルヴィーの視線の先にいる偉そうに立つ騎士をエインが見た。


「ジルコニア男爵か。いや、剣受式を受けられる程じゃない」


またジルコニア家の名前が出た事にシルヴィーはいい加減うんざりしている。


ジルコニア伯爵家はそこそこ実力はあるが、王政の中枢を任せられる程有能では無い。

だが野心家の当主は様々な奸計を巡らせ、己の地位を上げようと躍起になっている。


「面倒なものたちが面倒な存在とくっ付いたら厄介だろうな」


シルヴィーがぶつぶつ文句を言いながら訓練場へ向かえばエインがニヤニヤしながら付いてきた。


「お前達のような下賤の者が伯爵家の俺に逆らうなど、許し難い事だ」


偉そうに、とシルヴィーなら言い捨てそうな場面だが、騎士達は唇を噛み締め必死に怒りを飲み込んでいる。


「軍の規律を乱している者が何を言うのですか」


幼い声だが、毅然とした口調に他を威圧する気配にその場にいた者達は弾かれるように振り返った。


「ロードライト伯爵令嬢」


軍の参謀本部に所属する軍事顧問の娘であり、アンバー第一騎士団長の秘蔵っ子。

第一騎士団の中でシルヴィーを知らない者など新兵でも居ない。


「どなたが伯爵家の俺なのです?貴方の爵位は男爵であって、伯爵では無いことくらい此処にいる者は全員知ってます」

「なっ……俺は伯爵家の親族で」

「親族でも貴方の爵位は男爵です。いつの間に伯爵位を継いだのです?」


シルヴィーの追及はもっともすぎて男爵は二の句がつげない。


「それに貴方の実力では剣受式を受けられないのに、何故イーリスを持っているのです?それは国の宝であって貴方のオモチャではありません」

「イーリスを……」


エインが冷たい目で団員に命令を出すとついさっきまで男爵に怒鳴られていた団員が奪い取るようにし、エインの元に走って来た。


イーリスとは姿を見せない妖精達が鍛えた剣の総称で、騎士達にとっては憧れの剣で、それ相応の実力が無ければ触る事も許されないもの。


実力のある者はこのイーリスに相応しいかどうかを見る、剣受式と言うと試験を受ける。

合格してやっと触れる事を許される筈なのに、この男爵は勝手に自分の物にしていたようだ。


「刃こぼれまで……」


スラリ、と鞘から剣を出すと眉間に皺を寄せ、冷たい硬質のような目で男爵を睨む。


「直します」


シルヴィーの手が剣にかざされると銀色の光が刀身を包み、酷い刃こぼれが見事に修復されていく。


「まったく、剣はオモチャじゃありません。そんな基本もわからない者は騎士を名乗る資格はないですね。除隊なさったら?」


シルヴィーの辛辣な言葉に男爵は唇を歪めたが子供とはいえ身分が上の彼女とでは、自分が不利な立場にいる事は分かっているらしく何も言い返さなかった。


「除隊?シルヴィーは随分な事を言うね」


エインが除隊を勧めるシルヴィーを嗜める。

許された、と思ったのか男爵はへらっ、と笑いエインに期待の眼差しを向けた。


「あら?酷いことですか?」

「酷いね」


驚いたようにシルヴィーがエインを見上げる。

団長は子供の意見より貴族の団員を優先するのか、と他の騎士達が青褪めたが


「そんな温情あふれる処罰では、ますます規律が乱れるからね」


冷ややかに笑うエインの言葉に男爵は身体中の力が抜けたのか無様に座り込んでしまった。


「ジェイド総騎士団長に事のあらましを報告し、貴族位剥奪の申請を出した後、軍法会議に掛け処罰する。地下の独房にでも放り込んでおけ」

「お待ち下さい……心を入れ替え、精進しますから、今回だけは」


必死に男爵は叫んでいたが、誰も彼の言葉に耳を貸さない。

ずっと喚いていたがそのまま引き摺られるように訓練場から連れ出されて行った。


国の宝であるイーリスに無断で触れたから貴族であっても強制労働は免れないだろうし、ジルコニア伯爵家も助ける事は出来ないだろう。それよりも自分に火の粉が飛んで来ないように関わりを持つ事はしないだろう。


「まったく、イーリスが機嫌を損ねてしまったよ。シルヴィー、剣舞を舞ってくれるかい?」

「触れても良いのですか?」

「君は既に剣受式を受けているだろう。イーリスを選んではいないが問題無いよ」


シルヴィーが記憶を探るような顔でエインを見上げるが、思い出したのだろうふーっと息を吐いた。


「あんな無茶な打ち合い、二度と御免です」

「まあまあ。イーリスの為だと思って」


妖精達が鍛えたイーリスは感情のような物があり、拗ねるとちょっとだけ面倒くさい。


シルヴィーは諦めたのか、イーリスの柄に手を添え少しだけ魔力を注いだ。

再び刀身が銀色に輝き出したのを確かめるとシルヴィーは静かに剣舞を舞い始めた。

派手な動きはないが煌めく銀の光が水の流れる様を表すような軌跡を描く。

シルヴィー程の舞手はそうそういない。

それは彼女が優れた剣の使い手である、と言う事でもあった。

その場に居る団員達が、うっとりとシルヴィーの剣舞を見詰めていた。


「相変わらず、シルヴィーの剣舞は美しい」


舞い終えたシルヴィーがイーリスを鞘に戻すとエイン達は拍手をしながらシルヴィーを褒め称える。


「恐れ入ります」


イーリスをエインに渡すとチラッと時計を見て慌て出した。


「約束がありますので」

「長居をさせて悪かった」


ニヤニヤ笑いながら手を振るエインに頭を下げてシルヴィーはカインの部屋へと走って行った。


「10年、俺が遅く生まれるか彼女が早ければ直ぐにでも妻に迎えるのに、惜しい事だ」


エインの独り言に団員は納得した。

だからエインは引く手数多なのに婚約者を持つ気は無い、と公言しているのか、と。


14、5歳の年の差なら貴族では問題なく結婚出来るが、エインは赤ん坊の頃から知っているシルヴィーを、女性として見る前に娘のように溺愛している。

これから美しく成長するであろうシルヴィーを父親の目で見ているのだから、彼女と結婚は考えられないが、エインと同じ年頃の貴族の令嬢の中に彼女以上の令嬢がいるとも思えない。


「まぁ、俺は三男だから継ぐ家は無いから気が楽だがな」


その代わり、シルヴィーは実父とエインの厳しい目に合格する男性を探さなければならないのだから大変だろう。

書いてて楽しいけど、一日一本更新がやっとってどれだけ筆が遅いんだ。

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[気になる点] 貴族位は国王が与えるものであり、その剥奪は一介の伯爵家子息ができることではない。 罰として貴族位剥奪かも、と匂わせる程度が適当では?
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