一時の平穏です
もうすぐ試験。
「そういう搦手で来るとは思わなかった」
ウィリアムがにやり、と意味深に笑う。
「情報は正確性と鮮度が命。時には危ない橋を渡る事も必要です」
試験勉強をしているシルヴィーが、教科書に目を落としながら答え、いくつかの魔法陣を描き上げた。
冬の試験まで2週間を切り、学生達は試験勉強に精を出している。
あの訓練場で泣き崩れた生徒達は図書館で、参考書の山に挟まれながら勉強している姿が当たり前になった。
「変われば変わるもんだな」
「今回は良いきっかけになった様です」
ついさっきまで、質問攻めにしてきた彼らの背中をシルヴィーは楽しげに見ている。
「それで、彼は許可したのか?」
「やっと。少々無茶しますから」
この計画を実行する為、シルヴィーはダドリーを必死に説得していた。
危険な事は十分承知しているが、勝算はある。
それをダドリーも理解はしてくれた。
「イザベルには伝えないで下さいね。きっと心配しますから」
教科書を閉じ、静かに笑うと
「すまん。もうバレた」
申し訳なさそうな顔のウィリアムが、頭を下げていた。
「脇が甘い」
「ちげーよ、ベルが鋭くなったんだよ。今までなら、絶対気が付かなかった筈だ」
「当然ですわ。王太子の婚約者が凡庸では、国が乱れます」
イザベルの登場にウィリアムとシルヴィーは顔を見合わせた。
天使だったイザベルが、驚くほど強かになっている。
「心が千切れてしまいそうな程心配ですが、新年の舞踏会には必ず出席してね」
本当は止めて、と言いたいのだろうが、イザベルも、この騒ぎを収束させなければ国に未来は無い、と言う事を理解している。
イザベルの気持ちを受け止め、シルヴィーは笑顔で頷いた。
「後は……パトリック様ですね」
「今回はあいつの役割が重要だからな。まぁ、大丈夫だと思うよ」
「そちらのフォローはお願いします」
寒さが厳しくなってきたが、笑い合う彼らの周りは、何故か暖かだ。
一時だけど、穏やかな時間です。




