殿下の発想力は逞しい様で
前屈みで走ってこられるとねー
「シルヴィー、あの魔法陣のアイデアって何処から持ってきた?」
生徒会室に戻る道すがら、ウィリアムが聞きたかった事を質問する。
「化学式の応用です」
「化学式の応用?」
「全ての物質は、立体パズルのように組み立てられた形があります。それの応用と後は展開図ですかね?」
「……君が理系だって事は分かった」
「元弁護士の人間が理系な訳無いでしょ」
シルヴィーの頭の中が、どうなっているか知りたくなった。
「文系の人間が、化学式の応用なんて思い付かないと思うが」
「高校の化学の先生が、良かったので覚えていただけです」
ようは、脳みその出来が違うだけだ。
さて、生徒会への扉を開けようとした時
「殿下、右へ一歩」
シルヴィーの指示になんの事だ?と思いながら、ウィリアムは右に一歩ずれた。
ドスドスドス、とまるで巨大な猪が2人の間を走り抜ける様な音がして、ウィリアムが音のした方を見た。
「シルヴィー、俺の目の錯覚か?今、制服を着たピンクの猪が走ってたぞ」
「殿下の発想力が逞しいのは解りましたが、あれはカーボン男爵令嬢です。余談ですが、私はピンクの雪だるまに見えました」
「えっ!」
思わず二度見するほど驚いたのか、ウィリアムはピンク色の何かが走り抜けて行った方を繁々と見ている。
「何やってんだ?」
「強引に、出会いイベントを起こそうとしているのではないかと……」
シルヴィーも困惑しているのか、眉間に指を当て、首を捻っている。
「誰との出会いイベント?」
「廊下でのイベントは、カインだった気がします」
「……なんで、俺?」
「手当たり次第、ですかね?理解できませんが」
ゲーム内容では、後1ヶ月くらいで冬の試験があり、その後休みに入る。
クリスマスっぽいイベントの後、新年の舞踏会でのイベントが前半のクライマックスになっている。
だが、お花畑さんは入学からほとんどの時間を謹慎牢で過ごした為、イベントは何も起こせていない。ようは、誰のフラグを立てられず、ヒロインざまぁエンドへまっしぐらな状態だ。
ゲームならば、絶望的な状態だが、現実では堅実に生きればなんの問題もない。
この状況で分かった事は、あのお花畑さんは現実を直視出来ない、残念な存在だという事だ。
「あいつ、学園から追い出していいか?」
「妥当ですね。これから本格的にラスティックの封じ込めをするのに邪魔ですから」
「あいつを追い出しても、君は俺の参謀を辞めないってこと?」
「辞めて欲しいですか?」
「冗談でも言わない」
ウィリアムが首をブンブン、取れそうなほど横に振る。
「辞めませんよ」
「なら、遠慮なく作戦を立てるか」
「何方から?」
「当然。同時進行で、だ」
策士の顔で笑うウィリアムをシルヴィーは呆れた、と言いたげなため息で受け流す。
ガチャっと扉を開けて、中に居る仲間達へウィリアムが晴れやかに宣言した。
「諸君。学園内の掃除を始めよう」
なんの事だ、とパトリック達は目を丸くしたが、策士の顔で笑うウィリアムに、ジェフリーが頷いた。
「やっと、あいつを学園から追い出すのですね」
「ああ、ついでにラスティックの封じ込めも同時進行で行う」
ウィリアムの宣言に、生徒会室にいる者達は、なんともいい笑顔で応える。
「やる気を出して下さってますが、お花畑さんの方はさほど手間はないので、もう一つの方に集中して下さい」
ウィリアムの背後から、まるで水を差すようにシルヴィーが口を開いた。
「手間は少ないだろうが、きっちり追い出したい」
気持ちは理解できるが、少々手遅れなのだ。
「ナタリア先生が学園長に就任された時、既に手配してます」
えっ?と全員が驚きの顔でシルヴィーを見た。
「元々、あのお花畑さんは入学出来るだけの学力がない上、学園への多額の寄付は全額、前学園長が横領していました」
シーンと言う音がしそうな程、静まり返った部屋。
「それって……」
「不正入学です。もっとも、あのお花畑さんは自分の力で入った、と思っている様ですが」
イザベルは目を丸くして驚いている。
「自分の力で、と言っても試験で……」
ジェフリーが困惑した顔で言葉を濁す。
「学力より、自分が持つ光属性の魔力が貴重だから、大丈夫だと誤解していたのでしょう」
流石にゲームの設定ではそうでした、とは言えないので、当たり障りのない理由を言った。
「だからクラス分けの掲示板の前で、あれ程騒いでいたのか」
納得したパトリックとシンシアが頷いている。
「ナタリア先生は、あいつをどうするつもりだ?」
不正を嫌うルーファスのこめかみが、ピクピクしているのが見える。
「来月の試験で在学の基準を満たさない者として、退学を宣告するつもりだと思います」
詳しくは聞いていないが、退学させるつもりでも、筋を通す方が厄介な問題が少ない筈だ。
ナタリア先生は不正を許さない、きちんとした教育者です。




