何故か不機嫌な人が多い。
不機嫌な人が多いけど、しょうがないか。
フェーイックが騎士団に逮捕されて数日経った。
フェーイックはゼオンの宣言通り、3日後にあの黒づくめの男達に引き渡された。
何処の武器商人の手先か調べれば解るが、騎士団は盗まれた武器が戻り、フェーイックに協力した者達の処分が済めば、彼らの正体や雇い主を、表向きには調べる事はしなかった事にしたらしい。
そして、フェーイックがどうなったかなど、まるで気にしていない。
ゼオン達は事後調査の為、何度も学園に足を向けてはシルヴィーやベリルと話をする様になり、ゼオン達にシルヴィーを独占されているせいか、ルーファスやジェフリーの機嫌がすこぶる悪い。
そして、何故かダドリーも神経をピリつかせており、あの甘い香りがしなくなった事にシルヴィーは首を傾げていた。
「ダドリー、随分と荒れているわね」
ゼオン達との話し合いが終わり、給仕をしていたダドリーを残し部屋を出たナタリアが、呆れた様にシルヴィーを見る。
「本当に、何を気にしているのかしら?」
「まったく。いま、それどころじゃない筈なのに」
水面下でざわついている、学園の醜聞が公になるのも時間の問題だろうか。
フェーイックを騎士科の主任教師に据えた学園長が、先日の騒ぎの煽りを受け、自身の不正を暴かれ、解任される事が密かに決まった。
シルヴィーの助言を受け、錬成士長のカインが開発した、残存魔力を基にした筆跡鑑定の結果、本来なら学園長への就任など出来ない、ジルコニア伯爵の従兄弟である男は、既に身柄を拘束されている。
「次期学園長は……」
「ハロルドに聞いて」
うんざりした顔のナタリアが最有力者だろうが、人選は難航しているらしい。
「ナタリア先生なら、学園も良い方向に立て直せると思います」
「此処は王国に取っても大切な場所だから、荒れたままにはしたくないわ」
ナタリアがシルヴィーの肩に手を置いた時、微かにあの甘い香りがした。
「ナタリア先生もクッキー、好きでしたっけ?」
「えっ?あぁ、この匂いね。これは例の問題児の謹慎牢に山積みになってるから、移ってしまったの」
ナタリアの何気ない言葉に、シルヴィーの胸が何故かツキン、と痛む。
「クッキーは嫌いじゃないけど、ただ、問題なのはあのクッキー、美味しそうなんだけど、食べると爆発的に太るのよ」
「はい?」
「見ればわかるわよ」
何の事だろう?とシルヴィーが首を捻ると、ドスドスと物凄い足音が廊下の向こうからした。
足音のした方を見て、シルヴィーの目が丸くなる。
「ピ、ピンクの雪だるま?」
「に、見えるけどカーボン男爵令嬢よ」
シルヴィーの視線の先には、入学式の後で見たはずの、ヒロイン像に固執していた令嬢では無く、驚く程巨漢になった、ピンク頭のお花畑さんが、重そうな音と共に廊下を走って?行った。
「誰が作ったか知らないけど、絶大な効果ね」
ナタリアの呟きを聞きながら、胸の痛みや言い表せないモヤモヤに、シルヴィーは胸を押さえていた。
自覚して無い気持ちが、あっちこっちでくすぶっていそう。




