騎士科の実技授業 ③
シルヴィー、かっこいい!!
「では、実技に入るぞ。敵役のこいつらに本気で挑んでみた……」
まえ、と続く筈だろうフェーイックの言葉が途切れる。
「動くな。動けば、依頼を遂行する前にお前達の首が飛ぶよ」
レイピアを抜き、フェーイックを横に蹴り飛ばしたシルヴィーが、冷ややかに黒づくめの男達を見る。
よく見れば、黒づくめの男の1人が蹲っている。あまりの素早い行動に、男達は対処出来ないで棒立ちになった。
彼女が手にするイーリスの、氷の様な冷たい輝き。
少女が持つ剣気では無い。尋常じゃない圧迫感に男達の方が狼狽えた。
「こいつの始末は、こっちの取調べが終わったら好きにさせてやる」
ゼオン達も自分のイーリスを抜き、音も無くシルヴィーの横に立った。
「あんたもイーリス持ってるなら、こいつらの殺気くらい気が付けよ」
リリーがシルヴィーに蹴り飛ばされ、腰を抜かしているフェーイックを見る。
「本当の所持者であれば、イーリスは所持者の危機を教えてくれるものだけど、誰のを盗んだ?」
「こ、これは我輩の……」
「ならば抜いて見せろ」
ゼオンの、けして大きな声では無いが、低く冷たい響きと無表情さが怒りの深さを感じさせる。
「貴方は、まだイーリスを玩具にする癖が治らない様ですね」
ゆっくりとフェーイックに顔を向けた、シルヴィーの赤紫の瞳にフェーイックは、ひっ、と悲鳴を上げる。
フェーイックにとっては、見覚えがありすぎる美しい赤紫の瞳。
「もう一度だけ聞く。誰のを盗んだ」
「我輩の……」
「アーロン・ベリル先生のものでしょう」
すぐに視線を目の前の男達に戻し、シルヴィーが淡々と告げる。
「アーロン・ベリル?」
ゼオンは初めて聞く名前に首を傾げる。
「以前、ジルコン公爵家で筆頭護衛騎士をしていたが、イーリスを盗まれた事を恥じ、学園に来たそうです」
兄、ハロルドからの情報で、シルヴィーはベリルの背景を知っていた。
だからナタリアと共に、出来るだけ自然に盗まれた物が戻る、と言う魔法陣を彼に発動させたのだ。
こんな形でアーロンのイーリスが戻る、とは思っていなかったが。
「ベリル先生、そいつが持っているイーリスを抜いてみてください」
フェーイックが抱え込もうとしたイーリスをリリーが取り上げ、人混みから出て来たベリルに渡した。
ベリルは一瞬、驚いた顔でリリーを見たが、渡されたイーリスを静かに抜いてみせた。
一点の曇りも無い、銀色の光を纏う刀身にため息が溢れる。
当然、その刀身にはベリルの名前が浮かび上がっている。
「一旦、引いてくれますね」
シルヴィーの問い掛けに、黒づくめの男達の1人が頷く。
流石に正規の騎士で、イーリスの使い手が4人も居れば、自分達に勝ち目が無い事は彼らも理解している。
「どのくらいで引き渡してもらえるのでしょうか?」
「3日後で、如何だ?」
ゼオンの言葉に頷くと、男達は蹲っている男を抱え、その場から姿を消した。
「3日とは、随分長いね」
ウィリアムが、スタスタとゼオンの前に歩いてくる。
「叩けば山の様に埃が出ると思いますので、余裕を含めました」
「愚かな野心を持たず、素直に北の鉱山に行っていれば、罪を重ねず長生き出来たものを」
ウィリアムの冷酷な呟きに、悲鳴すら上げられなくなったフェーイックは、学園の警備兵に引き摺られるように連れて行かれた。
「学園の人事も一掃する必要が出来たな」
呆れた様にウィリアムがチラリ、と学園長の執務室あたりを見ると、慌ててカーテンが閉められた。
「本当に残念です。下級貴族や平民の生徒の為に尽力してくださる、しっかりした教育者だと尊敬してましたのに」
学園長はカスでも下の方達が素晴らしかった、と頭を切り替え、シルヴィーはレイピアを鞘に収めた。
うーん、びっくりしている生徒達のこと書くの忘れてた。




