こんな奴が
やっとメインヒーローが出てきた。
社交会デビュー前の子供でも参加できる王宮でのお茶会で、ゲームの攻略キャラ達の1人で、メインヒーローの顔を見た時、頭をカナヅチで殴られた気がした。
ごく普通に挨拶をして逃げようとした時……
「お前、ラーメンは好きか?」
輝くような緑の髪と紫の瞳をした、アレキサンド王国の第一王子であるウィリアム・アレキサンドライト殿下の一言で私のお気楽人生が終わった。
それは何ですか?と言えれば良かったんだけど彼女の顔がチラついたんだよね、不幸にしたく無いなって。
「ラーメンよりフォーが好きです」
出来るだけ小さな声で答えると、ウィリアム王子はにやっと笑う。
「お前ならこの世界に詳しそうだから、特別俺の友人にしてやるから、俺のルートと逆ハーエンドのフラグを折れ」
これって王宮の中庭で、他の子供達もいるお茶会でする様な会話じゃないけど。
高圧的な言い方にイラッとした。
「理由をお聞かせ願えますか?」
「いずれ王になる俺が誰かと同列に並ぶなんてありえないだろ」
美形だが、ウィリアム王子の傲慢かつ馬鹿っぽい言葉にシルヴィーは大きな溜息を吐いた。
「ご自分でどうぞ。私には一切関係無い事ですから」
「お前」
「私の名前は先程申し上げましたが、シルヴィー・ロードライトです。お前、ではありません」
これがあのゲームのメインヒーローのウィリアム・アレキサンドライトとは思えないほどの傲慢さ。
ゲームのウィリアム王子は腹は真っ黒だったが、態度は紳士そのものだった。
『こいつは名前だけ同じの別人だ』
そう判断して王子の前から移動しようとした。が、王子が泣きそうな顔でシルヴィーの袖を摘んだ。
「見捨てないでくれ。俺、このゲームのスチルしか見てないから、どうすれば良いのかわからないし、あの子を断罪なんかしたく無いんだ」
王子の、あの子、発言でシルヴィーも足を止めた。
何度も言うが、このゲームは前世の世界では18禁乙女ゲームで、タイトルは[今宵、貴方の腕の中で]に酷似している世界である。
そしてゲーム内で断罪されるのはただ1人。
悪役令嬢のイザベル・トルマリン公爵令嬢。ついでに言えば、今の私の同じ歳の従姉妹でもある。
「殿下は全くプレイして無いのですね」
「姉貴がキャーキャー言ってるのを横目で見てただけ」
「詳しく話すと長くなりますので、後日お時間を頂きたいのですが」
ゲーム開始の、私達の入学まではザッと見積もっても4年はある。
ハードルートに持ち込み、王子エンドと逆ハーエンドを潰す方法は今からならどうにかなるかもしれない。
「明後日なら俺は自由に動けるから、王宮に招待する、でどうだ?」
頼みの綱のシルヴィーに対してウィリアム王子の態度が軟化した。
「承知しました。では、その時、これからの為にも必要な方との面会も出来るよう、お願いします」
「えっ、おま……ロードライト伯爵令嬢が段取りをしてくれないのか?」
お前、と言いかけたウィリアムを横目で睨むと言い直したが、問題を丸投げしようとしている発言にシルヴィーはもう一度大きな溜息を吐いた。
「もう一度申し上げますが、この件については私は一切関係無い者なので、当事者である殿下が行動を起こすべきです」
「でも、関係無いって言ったら彼女が断罪されるぞ」
「殿下の手を煩わせないで彼女の断罪を回避する方法は有ります」
「それならお前が……」
「彼女に何ら影響を与える事なく、強引に逆ハーエンドにする事も可能です」
またお前、と言ったウィリアムを睨みキッパリと断言した。
前世の記憶を利用しつつ、イザベルになんの影響も与えず攻略キャラ達をヒロインの逆ハーエンドに放り込む事なんて、結構簡単だ。
ノーマルルートのままにして置けば高確率で逆ハーになるはずだ。
ならなくても強引にイザベルを守りながら逆ハーに放り込んでやる。なんなら私がイザベルの替わりに悪役令嬢役、買って出たるぞ。
小声で話しているから内容は分からない筈なのに物凄く険悪な雰囲気をシルヴィーがバンバン出している所為か、大人も子供もオロオロしているが近寄ってこない。
海千山千の依頼者や話の通じない者達と口だけで戦ってきたスキルは伊達じゃ無い。
「わ、分かった。その人物達はちゃんと呼ぶから、助けてくれ」
本気で泣きそうになっている殿下の姿がちょっと情けないけど、可愛いイザベルの為にも頑張ってみよう、かな。
出来る子だけど能力をひけらかさない子が好き!!